バックナンバー・練乳工場(4月上旬)


4月15日/ビバリーヒルズ真剣10代しゃべり場は、全部ワイ談

地味ですか? いえいえ、わたしもそう思いますから。たまに誘いを断りきれなくてコンパに行くこともあるんですけど、たいてい経理とか出納係みたいって言われますし。職業当てられたことはないですねえ。あ、その時はオペレーターとか答えてます。
きっかけはつきあってた人に調教されたんです。調教、って普通に使いますよね? こないだ普段は使わないって友達に言われたもんで・・・それで目覚めたんですよね。それまでは自分にそんな嗜好があるなんて知りませんでした、全然。
実際クラブに勤務するようになって5年経ちます。だから街歩いててもすぐ分かりますよ、この人がSかMって。あなたはM、ですよね。そうですよね? うーん、唇噛む癖とか、ペン先頬に押しつけたりしてるから、かな。でもそういう細かいんではなくて、やっぱり雰囲気としか言いようがないんですけど。
あの人、ほら今テレビ映ってる人。ええ、Sです。どう見てもそうでしょ? これオフレコですよ、こないだ店来たんです。センチュリーから降りた時からもう軍服着て鞭持ってて。車も特別仕様でアクセルがないらしいんですよ。鞭を打つと加速する仕組みなんだ、って自慢してました。そういう車乗ってるからディーゼル車を規制する発想が生まれるんだなあって思いましたけど。
政治家っていえば、こないだ総理大臣になれなかった人いましたよね。加藤さんでしたっけ? 真性のMですよね、あの人。ああいう風にいじめられたくて、今まで何十年も頑張ってきたんでしょうねえ。最後に国会行くか行かないかで身内でわあわあやってる時、気持ちよすぎて目が潤んでましたよね、至福の表情で。噂なんですけど、「大将!」って呼ばれてた時、「軍曹って呼んで」ってポロリ言っちゃったらしいんです。ええ、もちろん放送されませんでした。
はい、人間はSかMかどちらかに属します、必ず。わたしぐらいになると物がどっちかというのも分かりますよ。たとえば何だろ・・・テレビ東京は、Mですよね。だってほら、日曜の正午って家族がほんわか昼食食べてる時間じゃないですか。「のど自慢」とか「アッコにおまかせ」見るような。その時テレビ東京の番組って、どこから買いつけたの?というような「刑事ナッシュ」。しかも新番組で。
なじられたいんでしょうね、きっと・・・むかし各局が天皇崩御のニュース流してるとき、「さるとびえっちゃん」の再放送流してましたし。抗議の電話受けながら、もうぐしょぐしょに濡れてたと思います。「笑っていいとも」の裏に「沢たまきのお昼だドン!」ぶつけて5回で終わったんですか? それは完全に体質がMですね・・・
エレベーターはSです。簡単には到着しないという思想が女王様のお預けそのものですし、乗ったら移動は一気というのが・・・いやらしいですね、あれは。2台隣り合ってるのはハードSです。だからエレベーターにはMしか乗りません。エスカレーターで移動するのはSだけです。
あと東北沢はMです。小田急線の代々木上原で次の東北沢で急行に抜かされるって分かっているくせに、各駅停車に乗ってる人いるじゃないですか。あの人たちは全員Mですね。見えないよだれ玉をくわえているんです。東北沢で止まると、もうニヤニヤしちゃってすごいですよ。早く抜かしてください、僕を踏み台にしてください、って。急行通過する瞬間なんか、ああ、とか言いながら新聞つかむ手に力入ってますから。つまり準急そのものがMなんですね。
他ですか? なんでもわけられますけど・・・炭酸飲料はS、乳製品はM。家系ラーメンはS、麺ロードはM。幻冬舎はS、ベネッセはM。長州はS、藤波はM。長嶋はS(セコム)、王はM(森の詩)。MSーDOSは、MS。SカップはS、「Mの黙示録」はM。「Mの黙示録」つながりで富沢一誠もM。あ、最後のMは「モヤシ野郎」という意味のMです。

4月11日/闘牛がAVコーナーの暖簾に突き進んでいく

くすんだ街並みをぬけると人気の少ない川沿いに出る。ほとんど岩の上といってもいい小高い場所に、その廃屋のような食堂はあった。
俺と坂本さんは、ここにしましょうかと岩場を上がっていき、中腹にさしかかった辺りでじわじわ汗が噴き出てきた。日が射してきたが、まだ冷たい朝の空気は残っていた。 扉を開けると意外なことに外国人観光客で賑わっている。ほとんどの白人がバナナパンケーキにせっせかナイフを入れていた。
インドのガンジス川のほとり、バラナシ。ここでの生活もすでに1週間を迎える。安ホテルのフロントでたまたま出会ったのが、坂本さんだ。ツインルームしか空いていなかったので二人で部屋をシェアすることで話はすぐまとまり、基本的に別行動をしていたのだが、今日はたまたま朝同じ時間に起きたので散歩がてら朝食を取りに行くことにした。
俺と坂本さんは隅の席に着席すると、手垢が染みたメニューをにらんだ。こういう観光地には、外人観光客目当てのインド流に西洋を解釈したあやしいカフェが数多くある。
「ここ、パンケーキしかねえのかな」
「いや、他にもありますよ。白人ってアジアを植民地気分で旅行してるから、食生活崩さないんですよ」
「そんなもんかな。じゃあ鈴木くん、朝からインド料理食べる?」
「・・・いや、それは」
俺は言葉を濁した。なぜなら長旅でインドの市井には味が3種類しかないことを、俺は学んでいたからだ。
それは、かっら〜い、とあっま〜いと、まっず〜い
以上。インドに味覚はこれしかない。
応用編で、あまかっら〜い、もしくは、いった〜い何すんの〜〜〜も探したが、存在しなかった。町を流す砂糖菓子屋が売る、ずぶずぶに砂糖水に浸した甘食は一口食べただけで血糖値がわさわさ沸騰するし、町の外れの総菜屋が売るポテトフライみたいな代物は、「もしもシリーズ!もしもー、世界の調味料がー、カレー粉だけだったらー」コントみたいな辛さだ。それも旨味がなくてただ辛いだけ。そしてこの二つの食品以外は、全部まずい。
また唯一おいしいと思ったのは、瓶で売られているリムカというジュースだ。これはレモン風のどこか懐かしい味がして、すぐに気に入った。しかしこれを日陰で傾けていると、他の旅行者から「それってイタリアのメーカーなんだけど、イタリアでは薬事法にひっかっかて販売中止になったらしいよ」と忠告された。なるほど、よく見ると瓶の底で小さい虫が節足をバタつかせている。
だから旅先では現地の商品に親しむはずの俺も、尻込みして朝から無難にコンチネンタルブレックファーストで攻めたりしていたのだ。
「鈴木くんさあ、チェックアウトって何時だっけ?実はそろそろ日本帰らないといけないんだよね、俺」
坂本さんが大学4年生ということだけは知っていた。
「試験かなんか残ってるんですか?」
「いや、就職先でね、身体測定みたいのがあるの。それ出ないといけないんだよな」
「大変ですねえ。結構そういうのきびしいところなんですか」
「いや、公務員だから、そんなきびしくはないと思うけど・・・」
ボサボサの髪に不精髭はどこかホモっぽい印象。ハインズの白い無地Tシャツの首まわりは、手をかけたらその反動で遠くまで飛べるのでは?と思えるほど伸びきっている。そしてノーウォシュジーンズ常着。大雑把で気のいい、そして薄汚い坂本さんは「一浪して国士館に補欠合格。かんだティッシュも乾かして再利用」のような雰囲気を漂わせていた。それが公務員とは、意外に堅実である。
「市役所とか、そういうところなんですか?」
「ううん。運輸省」
「は?」俺の手元からメニューが滑り落ちた。
「鈴木くんさあ、やっぱり学閥ってあるんだよ、ああいうところ。内定式行ったんだけど全部で入るのが16人なのね。東大って俺含めて14人いるんだけど、早稲田と慶応が1人ずつなんだよ。あ、鈴木くん、何頼むか決めた?」
と、「昨日犬のフン3回踏んだよ」と同じ口調で坂本さんは語った。
1週間も気がつかなかったが、坂本さん(キャリア組)と俺(ノンキャリア組)が同居していたとは・・・俺は茫然とメニューをめくった。
「・・・はあ、官僚ですか・・・す、すごいですねえ・・・あ、なんだろ、このビリヤニってメニュー。坂本さん、知ってます?」
「はじめて聞いたなあ」
「分からないですか。じゃあ別のメニュー頼もうかな」
「鈴木くん」坂本さんが今までないきっぱりした物言いを見せた。「こういう旅って若い時しか出来ないんだし、そう無難に小さくまとまろうって態度、よくないんじゃないかな。いいじゃん、頼んで失敗しても。次に頼まなければいいんだし、きっといい思い出にもなるよ。違うかい?」
「そ、それはそうですね」
当時冴えない大学のうらぶれた大学生だった俺は、見えない権威に押されて同調してしまった。インド人ウェイターを手招きして注文する。
「じゃあ僕は、このビリヤニ・・・坂本さんは?」
「俺は、うん、トーストにアイスコーヒー」
「へっ? ビリヤニじゃないんですか?」
「・・・だって、そんな知らない物を頼むの・・・俺、怖いよ」
だから最近の機密費使い込みとか、官僚の常識を問うニュースをみても別に驚かないのだ。俺は炒飯みたいなビリヤニを頬張りながら、ぬるいリムカに口をつけた。

4月4日/デブ聖火ランナーが掲げているのはマヨネーズ

デフレ、らしい。大蔵省が公式な見解を述べた時は「本当かあ?」と疑念が拭えなかった私だが、昨日テレビ東京でダニエルカールなみに中途半端に英語が喋れるイク島ヒロシが、えーさてさてデフレですと断言していたからこれはもう間違いない。その時点で俺の中でデフレが解禁した。しかしいつ見ても経済キャスターを名乗るイク島の関心事は、自分が保有する株の動向だけである。
何が驚くったって、4月4日の本日から我らがビストロ・餌こと吉野家の牛丼が250円である。
ここで交通量調査のバイトを街の定点観測と言ってはばからない鈴木工総研が、今後の経済動向を関根潤三なみの後ヅケ理論でズバリ予測しよう。
凡庸な経済学者でも想像できるのは、「価格破壊はさらに進む」こと。そんなのは当たり前である。鈴木工総研の綿密な経済データ分析(数千回に及ぶ賽の目の試投、中華鍋に大和芋を立てたアンテナによる地球外生物からのメッセージ解析、小谷真生子スクラップブック)の結論としては、これからは「価格破壊はさらに進む。それに伴う質の劣化はこの際不問」になるはずだ。
殆ど永遠に続くことを予想させるアメリカの懲役さながらの無期限キャンペーンで290円の値段を据え置きしている松屋が、次あたり240円牛丼を展開する。あわてたすき屋は期間限定で230円を提示。らんぷ亭も220円で追随する。ついに吉野家が大英断で210円を・・・
といった消耗戦が繰り広げられる中、明らかに事情を把握してない、突然変異DNAというよりかは螺旋型陰毛の「どんどん」あたりが、いきなり90円と飛び級してしまうのである。
90円で品質を維持できるのか? できるわけねーじゃねーか、そんなの。客の前に置かれるのは、もはや残滓丼である。
器の時点で既に予算がまわらず、全く統一が見られない。なんか薄ピンクの本体に「寿」と大書された、いかにもあまった結婚式の引き出物はともかく、峠の釜飯の容器、四角い顔のポケモンの下はハングル語レタリングの弁当箱、卵の殻、脚気(かっけ)患者の膝のくぼみに牛丼がよそわれている。
米は乾きすぎて白くなったヒマワリの種を水にふやけさせたものを使用。肉は脂身が多くてなかなかの味だが、厨房を覗けと累々と詰まれたカラスの屍。紅生姜かと思ったら人生ゲームのピンクのコマだし、お冷やかと思ったらMCコミヤ(日米平均ダジャレ株価大暴落/ロイター経堂)。
それを駅前のワゴンで買ったもうひとつのビートルズCDがBGMで流れる中、ネイルアートを落とさないでも入れる料理学校程度の腕前を持ったシェフがマイレシピ調理するのである。この牛丼が安いという理由だけで爆発的ヒットする。
他業界も後を追う。スターバックスコーヒーも割高感と妙に自信に満ちたバイトの態度が鼻について一気に凋落するが、起死回生のミルクスタンドに業態変更をして復活する。グランデだと? 大瓶って言えバカ! バイヤーがコーヒー豆を買出し本社で焙煎? うるせーよ、商品は全部「名糖」だコラッ! 本社もシアトルなんて気取りやがって。土浦で上等だ、煮汁吸いども! 店内滞留時間は1人1分以内に限定した立ち飲みが、これも安いという理由だけで爆発的ヒットだ。
ハンバーガーも森永ラブの、パンの間に大葉が挟まっただけの「中にハンバーグがないバーガー」40円は消費者が大歓迎! それに負けじとドムドムはパンの裏に大葉がひっついた「下のパンがないバーガー」30円を緊急発売してランチ時には長蛇の列が! そして最後にはサンテオレが「大葉」そのものを20円で発売! これはさすがに売れない。だって葉っぱだから。ただの葉っぱだから。ここらへんをサンテオレにはもう一度考え直してもらいたい。

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