6階建ての新宿TUTAYAは、さすがに5階まで上がると酸素が薄くなってくる。ビデオテープを握りながら倒れている輩を跨いでは、その倒れた原因が高山病なのか、手にした「パテオ」のつまらなさに卒倒したのかを考えながら、私は上の階を目指した。 5階と6階の間の踊り場に小高く詰まれた石を横目に最上階に到達すると、それまでの苦しさが嘘だったかのように呼吸が楽になった。フロアを行き交う男たちはスキップで駆け回り、河原に咲き乱れる四葉のクローバーを摘んでいる。ここでは都会の真ん中とは思えない生態系が確立し、新鮮な酸素が満ち足りているのだ。 新宿TUTAYAの6階、AVコーナーはワンフロアを全部艶ビデオが占拠しているという桃源郷である。ここに来ればいやらしさ紙芝居の中でそして誰もが主人公であり、そこに行けばどんな願いも叶う性欲のガンダーラ。私はバブル期の不動産業者を思わせる迷いのなさで投資物件をいくつか素早くチョイスすると、既に顔を覚えているカウンター内のベースを嗜んでいそうな地味顔バイトに手渡した。 「全部7泊8日でよろしいですか? 3本丁度なので1000円になります」 上機嫌な私は財布から紙幣を取り出して、地味顔ベースマンに心づけとしておさつチップスを渡しかけた寸前で、動きが一瞬止まった。 この店はビデオレンタル7泊8日で一本が380円。380円×3本=1140円なのではないか? 私の躊躇を見透かしたようにベース顔がバイト口調で囁く。 「お客様の方、AVコーナーでは特別サービスを実施させていただいておりまして、旧作3本レンタルは、大きい方1000円でご提供させていただいてございますです」 私は納得を誇示するため仲根かすみのリアクション以上にわざとらしく目をくりくりさせて大きく頷いた。しかしながら内心は全く合点がいっていなかった。というのも私が借りたのはAV2本と別フロアから持ってきたお笑いライブビデオだったのである。動揺を悟られないように、私は掌におさまったビデオのラベルにそっと視線を滑らせた。 『プロジェクトSEX』『グッドペローズ』『ウツトラシオシオハイミナール』 私は全てを悟った。一番下に置かれたシティボーイズのライブビデオ。意味不明慮なタイトルにくわえて「シオシオ」のなんだか奥行きがありそうな四文字。これを見て無知なベースマンは、「シオシオって何のジャンルだっけ? まあ、これAVだよなあー」と勝手にAVビデオと解釈したに違いなかった。 予期せぬ幸運に遭遇した私は、戦果品のビデオと無料配布のソフトオンデマンド新聞をてきぱきと鞄にしまった。しかし体が火照って、どうにも興奮が冷めない。そう、私の胸中には、もしや同じ手が使えるのではないか? という気持ちが水面に垂らした墨のように広がっていったのだ。 私は「よし」と仲根かすみばりのわざとらしいハニーボイスで呟き、自慢の胸を揺すらせながら小走りに階下の洋画コーナーへ向かった。そしてあるビデオを掴むと、再びAVカウンターで3本のビデオを手渡した。 『痴漢電車でGO!』『病淫』『裸のランチ』 「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」 成功である。AVタイトル2本に幻惑されて、クローネンバークの文学臭い映画「裸のランチ」が新妻陵辱物語にしか見えないではないか! 調子づいた私は引き返し、さらに新しい3本をぶつけてみる。 『U15だけどRしてい』『ガ・チンコ』『汚れた血』 「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」 セーフ。フランス映画もセーフ! 内容としては『ベティブルー』の方がスケコマセシボンだが、やはり世界共通でエロの主流は青より赤なのか。 だんだん免疫がついてきた私はよりリスクが高い作品を試したくなり、5分後には新たな3本をカウンターに叩きつけた。 『3年B組金髪先生』『学校でイこう』『ピアノレッスン』 「・・・えー、ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」 これはあぶなかった。『ピアノレッスン』の知名度の高さにくわえて、見様によってはバイエル教則ビデオにもとれるエロ度の薄さ。しかし学園もの2本を前フリとして強調することで、表題作が音楽教師AVに見えてくる周到な作戦が功を奏した。ラベルに「あなたの黒鍵盤を押した時に響く沖縄音階をわたしが調律してあ・げ・る」とマジックで勝手にサブタイトルを書いたのも勝因だろう。それではこれでどうだ。 『灼熱の姉ったい地獄』『スローな義母にしてくれ』『花嫁のパパ』 「・・・・・・・・・・えー、ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」 脇の下に汗が流れる。明らかにさっきより「えー」を発する間隔が長くなっている! やはり知らないとはいえ、『花嫁のパパ』が発するハートウォーミング・コメディ放射線をビデオ店員なりに敏感に察知したのか? 店員の目にはスティーブ・マーチンのパッケージが思いっきり映っていたが、私は小声で「それ樹まり子だから」を連呼することにより、危機を回避した。これが『星の王子ニューヨークに行く』だったらさすがに誤魔化しきれていなかっただろう。 ここまで来たら3本に挑戦だ! 私は語感がエロそうなビデオ3本をチョイスし、勢いだけで勝負した。 『カーリースー』『カリオストロの城』『コクーン』 「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」 なぜこれは迷わない? 全然川の流れを読まない勢いだけのつっぱねリーチなのに。眉をひそめて訝しむ私にベース店員が声をかけた。 「お客様の方、洋画ビデオでしたら下のフロアの方でお借りになられるよういただけますが。先程言い忘れましたが、現在全館で3本レンタル1000円レンタルの期間中ですので」 そういうわけで今、私の部屋の隅には18本のビデオが小高く積まれている。それにしても『コクーン』と『スローな義母にしてくれ』だけはどうにも見る気がしない。
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2月5日に配信されたダカーポのメルマガ。私は「鈴木工総研が考える四股名」というネタをしたためた。 しかしこの原稿、最初に書いた会話形式バージョンがあまりにも長く、さらに生真面目な牧童が読んだら永久歯が一本おきにマンガ抜けするほど峻烈な内容だったため、自己判断して乳児にも安心な去勢バージョンに書き換えたのである。 ということで、「四股名を考える」の裏流出・飯島愛本番バージョンをここに公開したい。
現在の幕内は外国人力士の天下。さらに相撲協会では他の国からも力士を発掘しようというプロジェクトが極秘裏に動いていたのであった・・・ |
さて気がつけば新春の恒例企画も3年目に突入した。そう、練乳工場版歌会始こと、もしくは槍の上での出初式こと、あるいは倒産企業株券を用いたカルタ大会こと「鈴木工の一人メールタイトルアワード・2002」である。 私はメールをしたためる際、必ずサブジェクトに無意味なプライドとヤクルト高津なみのゆうもあセンスをぶつけてきた。その1年の集大成が以下の作品である。それでは上位50作品を鑑賞していただきたい。
「過激すぎて一年間忘れられない忘年会」
もうすぐベスト50には「機関車唐茄子」「虹の宮古へ」「還付金パイ」など、元ネタも出来あがりも分かりずらいダジャレ群が並びました。ダジャレ、カッコ悪い。ダジャレ、ダメ、絶対(政府広告)。 「NO WOMAN 魚蔵居」 |