バックナンバー・練乳工場(2003年1月〜)


6月29日/夏の扉を開けて(ピッキングで)

6階建ての新宿TUTAYAは、さすがに5階まで上がると酸素が薄くなってくる。ビデオテープを握りながら倒れている輩を跨いでは、その倒れた原因が高山病なのか、手にした「パテオ」のつまらなさに卒倒したのかを考えながら、私は上の階を目指した。
5階と6階の間の踊り場に小高く詰まれた石を横目に最上階に到達すると、それまでの苦しさが嘘だったかのように呼吸が楽になった。フロアを行き交う男たちはスキップで駆け回り、河原に咲き乱れる四葉のクローバーを摘んでいる。ここでは都会の真ん中とは思えない生態系が確立し、新鮮な酸素が満ち足りているのだ。
新宿TUTAYAの6階、AVコーナーはワンフロアを全部艶ビデオが占拠しているという桃源郷である。ここに来ればいやらしさ紙芝居の中でそして誰もが主人公であり、そこに行けばどんな願いも叶う性欲のガンダーラ。私はバブル期の不動産業者を思わせる迷いのなさで投資物件をいくつか素早くチョイスすると、既に顔を覚えているカウンター内のベースを嗜んでいそうな地味顔バイトに手渡した。
「全部7泊8日でよろしいですか? 3本丁度なので1000円になります」
上機嫌な私は財布から紙幣を取り出して、地味顔ベースマンに心づけとしておさつチップスを渡しかけた寸前で、動きが一瞬止まった。
この店はビデオレンタル7泊8日で一本が380円。380円×3本=1140円なのではないか? 私の躊躇を見透かしたようにベース顔がバイト口調で囁く。
「お客様の方、AVコーナーでは特別サービスを実施させていただいておりまして、旧作3本レンタルは、大きい方1000円でご提供させていただいてございますです」
私は納得を誇示するため仲根かすみのリアクション以上にわざとらしく目をくりくりさせて大きく頷いた。しかしながら内心は全く合点がいっていなかった。というのも私が借りたのはAV2本と別フロアから持ってきたお笑いライブビデオだったのである。動揺を悟られないように、私は掌におさまったビデオのラベルにそっと視線を滑らせた。
『プロジェクトSEX』『グッドペローズ』『ウツトラシオシオハイミナール』
私は全てを悟った。一番下に置かれたシティボーイズのライブビデオ。意味不明慮なタイトルにくわえて「シオシオ」のなんだか奥行きがありそうな四文字。これを見て無知なベースマンは、「シオシオって何のジャンルだっけ? まあ、これAVだよなあー」と勝手にAVビデオと解釈したに違いなかった。
予期せぬ幸運に遭遇した私は、戦果品のビデオと無料配布のソフトオンデマンド新聞をてきぱきと鞄にしまった。しかし体が火照って、どうにも興奮が冷めない。そう、私の胸中には、もしや同じ手が使えるのではないか? という気持ちが水面に垂らした墨のように広がっていったのだ。
私は「よし」と仲根かすみばりのわざとらしいハニーボイスで呟き、自慢の胸を揺すらせながら小走りに階下の洋画コーナーへ向かった。そしてあるビデオを掴むと、再びAVカウンターで3本のビデオを手渡した。
『痴漢電車でGO!』『病淫』『裸のランチ』
「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」
成功である。AVタイトル2本に幻惑されて、クローネンバークの文学臭い映画「裸のランチ」が新妻陵辱物語にしか見えないではないか! 調子づいた私は引き返し、さらに新しい3本をぶつけてみる。
『U15だけどRしてい』『ガ・チンコ』『汚れた血』
「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」
セーフ。フランス映画もセーフ! 内容としては『ベティブルー』の方がスケコマセシボンだが、やはり世界共通でエロの主流は青より赤なのか。
だんだん免疫がついてきた私はよりリスクが高い作品を試したくなり、5分後には新たな3本をカウンターに叩きつけた。
『3年B組金髪先生』『学校でイこう』『ピアノレッスン』
「・・・えー、ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」
これはあぶなかった。『ピアノレッスン』の知名度の高さにくわえて、見様によってはバイエル教則ビデオにもとれるエロ度の薄さ。しかし学園もの2本を前フリとして強調することで、表題作が音楽教師AVに見えてくる周到な作戦が功を奏した。ラベルに「あなたの黒鍵盤を押した時に響く沖縄音階をわたしが調律してあ・げ・る」とマジックで勝手にサブタイトルを書いたのも勝因だろう。それではこれでどうだ。
『灼熱の姉ったい地獄』『スローな義母にしてくれ』『花嫁のパパ』
「・・・・・・・・・・えー、ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」
脇の下に汗が流れる。明らかにさっきより「えー」を発する間隔が長くなっている! やはり知らないとはいえ、『花嫁のパパ』が発するハートウォーミング・コメディ放射線をビデオ店員なりに敏感に察知したのか? 店員の目にはスティーブ・マーチンのパッケージが思いっきり映っていたが、私は小声で「それ樹まり子だから」を連呼することにより、危機を回避した。これが『星の王子ニューヨークに行く』だったらさすがに誤魔化しきれていなかっただろう。
ここまで来たら3本に挑戦だ! 私は語感がエロそうなビデオ3本をチョイスし、勢いだけで勝負した。
『カーリースー』『カリオストロの城』『コクーン』
「ありがとうございます。3本丁度なので1000円になります」
なぜこれは迷わない? 全然川の流れを読まない勢いだけのつっぱねリーチなのに。眉をひそめて訝しむ私にベース店員が声をかけた。
「お客様の方、洋画ビデオでしたら下のフロアの方でお借りになられるよういただけますが。先程言い忘れましたが、現在全館で3本レンタル1000円レンタルの期間中ですので」
そういうわけで今、私の部屋の隅には18本のビデオが小高く積まれている。それにしても『コクーン』と『スローな義母にしてくれ』だけはどうにも見る気がしない。


2月6日/日本政府の融資焦げ付き不良債権をジャパネットが負担

2月5日に配信されたダカーポのメルマガ。私は「鈴木工総研が考える四股名」というネタをしたためた。
しかしこの原稿、最初に書いた会話形式バージョンがあまりにも長く、さらに生真面目な牧童が読んだら永久歯が一本おきにマンガ抜けするほど峻烈な内容だったため、自己判断して乳児にも安心な去勢バージョンに書き換えたのである。
ということで、「四股名を考える」の裏流出・飯島愛本番バージョンをここに公開したい。

現在の幕内は外国人力士の天下。さらに相撲協会では他の国からも力士を発掘しようというプロジェクトが極秘裏に動いていたのであった・・・
「理事長、、ついにアフリカ出身の力士が誕生しました」
「身体能力高そうでいいねえ。で、四股名は?」
「「大紀近(だいききん)」といいます」
「・・・いや、それはまずいだろ」
「何でですか? 名前の由来も故郷にちなみまして、大阪の大に紀州の紀に近畿の近」
「全部関西方面じゃないか! アフリカ色がないよ!」
「まわしはラスタカラーなんですけどねえ」
「そういう意味じゃないから。第一、そんなマーブルなマワシは認めん」
「他にもアフリカ出身がいて、名前は「丹黒(にぐろ)」に「丹川(にがー)」
「それはそれで色が一色すぎる!」
「あと韓国出身の力士もいるんです」
「ふむ、これも身体能力高そうだ。既に「春日王」もいるけど・・・なんて四股名?」
「「犬倉居(いぬくらい)」です」
「触れてやるなよ! そんな四股名じゃ苦情が来るぞ」
「これもマワシがラスタカラーで・・・」
「レゲエつながりで元に戻ってるよ!」
「韓国勢では幕下でまだ本名なんですが「清原」と「金本」も頑張っていますから」
「コメントできん!」
「他にもベトナム出身の「麒麟児」に対抗した「奇形児」が」
「名前自体がすでに物言いだって!」
「二子山部屋出身で、得意技は三所攻め」
「リアルだな!」
「難点は塩の代わりに枯葉剤を撒布させることですかね」
「塩を「撒く」でいいだろ! 撒布って言葉使うな!」
「あとイラク出身の「狂土人(くるどじん)」」
「さっきから差別用語の祭典じゃねえか!」
「ちょっと待ってください。クルド人を差別する気持ちなんてこれっぽちもありませんよ!これは土人が狂っているという意味で・・・」
「それが差別なんだって!」
「スウェーデン出身力士は「北尾」をアレンジして「北欧」」
「お、ようやくまともになったか。でもそのまんまだなあ」
「アフガン出身力士は二代目「寺尾」を襲名させます」
「式守伊之助に「テロ」って読ませたいだけだろ!」
「大銀杏かと思ったらターバン巻いてました」
「そんな奴を土俵にあげるな!」
「マカオ出身力士には「マカ尾」」
「綾小路きみまろばりの3段オチだな!」
「あとイスラエル出身の「猛者道(もさど)」も・・・」
「どこでスカウトしたんだ? しかしさっきから「○○の○○」って四股名がないんだよなあ。千代の富士、貴乃花みたいな力士らしい名前が欲しいよ」
「それならいますよ、北朝鮮出身力士の「ハンナのこだま」」
「それは北朝鮮で放送している反米ドラマのタイトルだ! 全然四股名になってないじゃないか! もういい、「海」や「山」がつく力士はいないの?」
「「針の山」と「血の海」が・・・」
「また北朝鮮出身か! 確かにそんなイメージだけど! 大体、どうやって脱北してきたんだ?」
「疑ってるんですか? 本物である証拠に相撲取る時も胸からバッジをはずしません」
「地肌にバッジを刺すな!」
「「針の山」には弟分の「針樹」もいますし」
「針葉樹林みたいな名前だなあ。カナダ出身か?」 「いえいえ、バリバリのアメリカ人です。読み方は「ハリ・ウッド」」
「ハリウッド出身のデブ・・・ジョン・ベルーシみたいな動ける奴だろうな」
「どちらかというとナッティ・プロフェッサーですね」
「特殊メイクの動けないデブだろ!」
「「針の山」と「針樹」の弟分には「毒針」も」
「ブッチャーじゃないか! プロレスくずれを力士にするな!」
「力士あがりがプロレスラーになってるんですから、ここは相互協力ということで」
「力士あがりって、おまえが相撲をプロレスの下に見るのはおかしいだろ」
「ネパール出身の力士もいますよ。これは横綱「大乃国」にあやかりまして「王乃国」と」
「王国に因んでか。ちょっとひねりがないかもな」
「その弟弟子がラグビー出身なんです」
「それは相撲に向いていそうだ。トンガ出身か?」
「残念ながら日本生まれで・・・四股名は「神乃国」」
「森元首相だろ! なんで外人力士の話に出てくるんだ?」
「外人というより宇宙人ですから、あの人は」
「風刺漫画みたいなギャグだな!」
「「王乃国」「神乃国」の弟弟子には、ハワイ出身の「外国」が」
「どうしてハワイを狙い打ちなんだよ! 他にも外国はあるだろ!」
「その下には中国出身の「密入国」も」
「「国」しか合ってないだろ!」
「でも稽古は真面目にやるんです。今日も鉄砲に励んでましたから」
「まあ、それは救いだが・・・」
「あ、この鉄砲は「トカレフ」と読みますからね」
「密入国だけじゃなく密輸もしてるのか!」
「所属は二子山コンテナに」
「部屋に住ましてやれよ!」
「じゃあ工場裏のアパート2階の大部屋に」
「相撲とりじゃなくて完全に工場勤務じゃないか! なんかもっとロマンチックな四股名はないの?」
「コロンビア出身の「黄金郷」がいますよ」
「エルドラド伝説にかけていると。ちょっと大胆だが四股名に聞こえるし、いい名前かもしれない」
「コロンビア出身だけあって注射相撲が得意です」
「二つの意味でまずいよ! こいつも何を密輸してるんだ!?」
「塩の代わりに撒いてるのがコカ・・・」
「みなまで言うな!」
「理事長、変な誤解をしていませんか? この「黄金郷」は三日三晩一睡もしないで稽古をしている真面目な力士なんですよ!」
「コカイン以外に覚醒剤も打ってるのかよ!」
「なんせ入門と同時に三ヤクを獲得しましたからね」
「ヤクの字が違うだろ! 三ヤクって、もう一薬常用しているのか!」
「そりゃあステロイドでしょ」
「そこだけギャグに聞こえないんだよ!」
「あと「黄金郷」は手刀の代わりに蛮刀をふるいます」
「南米人=蛮刀を振り回すイメージは船戸与一の読みすぎだから!」
「作家出身の力士だったら「村上龍」もいますよ」
「四股名っぽいけど違うから! どうして外国人部屋にいるんだ!」
「国籍はキューバです」
「確かに一時期かぶれていたけど!」
「あとVシネマ出身力士の「竹内力」も」
「これも四股名じゃないって! どうして外国人部屋に紛れてるんだよ!」
「え? 彼は南国出身なのでは?」
「どういうことだ」
「竹内力だけに、ミナミから来ました」
「ギャフン!」


1月1日/除夜の鐘を突いたら中から巨大プリンが落下

さて気がつけば新春の恒例企画も3年目に突入した。そう、練乳工場版歌会始こと、もしくは槍の上での出初式こと、あるいは倒産企業株券を用いたカルタ大会こと「鈴木工の一人メールタイトルアワード・2002」である。
私はメールをしたためる際、必ずサブジェクトに無意味なプライドとヤクルト高津なみのゆうもあセンスをぶつけてきた。その1年の集大成が以下の作品である。それでは上位50作品を鑑賞していただきたい。

「過激すぎて一年間忘れられない忘年会」
「通産省のビバリーヒルズ経済白書」
「自宅は全焼だけど禁煙には成功」
「人口が多い中出し国・中国」
「参政権と電話加入権が交換可能な地方都市」
「4500円!(日給が)」
「まくら代わりに氷嚢をぶつけあう延命病人修学旅行」
「式場は押さえないけどゴンドラは予約」
「クイズ! ハイ&ロー(躁鬱)」
「例の執念で不動産物件を捜すDrテンマ」
「「R」がつく月なので六月に牡蠣を食べて全員死亡」
「参加者2億人のツール・ド・中国」
「ディスカウントを和訳すると間引き」
「瓦の代わりにガーナチョコを割る空手家バレンタイン」
「日本のサプリメント・梅仁丹」
「おだいじに。もしくはアボリジニ」
「ユニクロのT字帯。1980円」
「点滴のチューブをたどっていくと雨樋に直結」
「車椅子を漕いでマイルをためよう」
「チケットぴあのリザーブシートで花見の場所取り」
「入院患者を病名で呼ぶ看護婦」
「浦沢直樹のマンガで過剰にニコニコしてる奴は100%悪人」
「リキッドルームの柱を切る木こり」
「卒業するのに入学しないモーニング娘。」
「Tシャツパリコレ、今年のモードは襟ぐだぐだ」
「破水して子供を産んでさらに破産」
「マンションは購入。テープクリーナーはレンタル」
「吉岡美穂の体で覚えるイタリア語講座」
「セカンドバッグパッカーの旅行は市内限定」
「自慰は性社会のオウンゴール」
「卵のジャグリングに失敗して中から雛の屍骸が・・・」
「常夏到来! 家にこもってルパンの再放送を凝視」
「元・ちとせ。現・小林千登勢」
「カメラ!カメラ!ビッグカメラ」
「カメラ!カメラ!コイデカメラ」
「踊ろうよ、フィッシュ(イケスで)」
「カメラ!カメラ!サンペイグッドカメラ」
「偽ルフィはゴムではなくピル服用」
「別冊るるぶ・タイの黄金三角地帯マップ」
「ビデオ安売王の出入りで松井が三冠達成」
「人生山もあれば谷もある。つまり人生は山谷」
「ビッグウェイブやって消えた」
「花王愛の劇場、カネボウ絹の石鹸」
「辰吉の試合は吉本新喜劇」
「猛スピードで母が流産」
「でかい睾丸を肩にかつぐ性病サンタ」
「時計じかけのオレンジ(はっさく)」
「カレーの固形ルーでドミノ世界新記録」
「日韓併合もある種のコラボレーション」
「竿師も走る師走」

もうすぐベスト50には「機関車唐茄子」「虹の宮古へ」「還付金パイ」など、元ネタも出来あがりも分かりずらいダジャレ群が並びました。ダジャレ、カッコ悪い。ダジャレ、ダメ、絶対(政府広告)。
さて去年のグランプリに選ばれたのは、井の頭線渋谷駅西口前にある行きつけの居酒屋「魚蔵居(うおくらい)」で思いつき、1月25日に友人のビーンズ遠藤に送ったこの作品です! それではみなさん来年またお会いしましょう!

「NO WOMAN 魚蔵居」


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