語らず、笑え

笑いを見た記録・2002年上半期


6月22日/池袋サンシャイン劇場「笑いの神様・2」
6月21日/ルミネtheよしもと「7じ9じ」
6月16日/「少林サッカー」
6月13日/ルミネtheよしもと「5じ6じ」
6月16日/ルミネtheよしもと「ダイノジ単独「花男」」
6月8日/目黒区民会館「コメプッシュ」
6月6日/ルミネtheよしもと「5じ6じ」
5月30日/日テレ舞台中継「いい加減にします」
5月26日/本多劇場「大人計画「春子ブックセンター」」
5月13日/グリーンホール相模大野「八起寄席」
5月6日/ルミネtheよしもと「インパルス単独ライブ」
5月2日/ルミネtheよしもと「チハラトーク大喜利編」
4月28日/目黒区民会館「コメプッシュ」
4月26日/アートスフィア「シティボーイズライブ「パパ・センプリチータ」」
4月19日/シアターアプル「梅ちゃんの青い部屋」
4月11日/ルミネtheよしもと「7じ9じ」
3月24〜26日/関西遠征
3月18日/グリーンホール相模大野「八起寄席」
2月24日/目黒区民センター「コメプッシュ」
2月16日/後楽園ホール「笑点」
2月13日/ザ・スズナリ「清水宏のサタデーナイトライブ」
2月11日/シアターアプル「ダイノジ単独」
2月10日/シアターVアカサカ「島根さだよしソロライブ」
2月9日/恵比寿エコー劇場「おぎやはぎソロライブ」
1月27日/新宿末広亭・昼の部
1月20日/ライブステーションG7(沖縄)「演芸集団FEC」
1月17日/R'sアートコート「ポカスカジャンライブ」
1月6日/オールザッツ漫才の感想

6月22日

池袋サンシャイン劇場で「笑いの神様・2」昼の部。メジャー志向を感じさせないピン芸人&演劇系の若手が多数集結する。600〜700ある客席が埋めつくされていてビックリした。
現役自衛隊員の漫談家・山一二三。赤褌演芸軍団・レッドキング。横浜銀蝿系ロックコント・超新塾。似非ミュージカル芝居・ロリータ男爵。放送コード完全抵触のアングラ演劇・ゴキブリコンビナート。その日のネタを説明しているのではなく、いつも同じようなネタをやっているのは歴然。パペットマペットやトリの鉄拳がまともに見えたほどだ。
放っておくと芸人が若い女性ファン層に浄化されて小奇麗になっていく中、こういう地下組織ライブは貴重だと思う。しかしゴキブリコンビナートはあと3年は見なくていいなあ。一番近い表現を挙げるとするなら、駅のトイレを開けて他人の吐瀉物を見た感じに似ているから。

6月21日

ルミネよしもとで「7じ9じ」を観覧。
関西の若手・ブラックマヨネーズは今主流のテンポにのせた軽快なギャグではなく、少しねじれた発想の鈍色をした笑いで、横の客が「ダウンタウンの松本みたい」と呟いていた。そんなに似てはいないが、同じ色の残像が視界に残る感じだ。
元・吉本天然素材(チュパチャップス)のピン芸人・ほっしゃんは解雇された看板屋が逆上して、看板の上の句と下の句を「猫大好き/東京ディズニーランド」「赤ペン先生がじっと見てるよ/小倉のカツラ」などと勝手に変えてしまうネタ。こういう瞬発力に頼らず、フリから丁寧に脳をくすぐっていく笑いが俺は好きである。中川家、ハリガネロック、品川庄司を期待して「誰、この人?」と眉を寄せた客席から笑いをとって、さくさく退場していく様も格好よかった。あとハリガネロックのツッコミ・大上は生で見るとパンチが効いていて、テレビで見るよりも存在感が有。
しかしボーダーのノースリーブで登場した品川庄司の品川。おまえの目的は何だ。そんなことを思っていた週明け、「笑っていいとも」にレギュラー出演している二人の姿を食堂のテレビで見かけて、俺は箸をくわえたまま遠い目をしてしまった。

6月16日

新宿で「少林サッカー」を見る。映画が終わった瞬間、客席から自然発生的に拍手が起きた。
要はマンガを映像化したバカな映画。本当にバカ。しかしバカを追求した向うに清冽な感覚が残った。くだらなさを体言するのには、過剰な飛躍と細部の精巧さが必要なのだなと改めて思う。
この作品で香港映画はついに「チャンピオン鷹」を超えた。「もう一つのJリーグ」「おれたちのオーレ」にはまだ届いていないが。

6月13日

ルミネよしもとで5じ7じ。
若手芸人のロバートが人気でキャーキャー騒がれていると聞いて、その実力を訝しんでいたのだが舞台を見て成程と思う。まとめ役的なツッコミに立場が違うボケ二人の図式の定番3人コントではなく、修学旅行の先生がボケで生徒がツッコミとボケという微妙な設定。特にルミネのエレベーターで一緒になった秋山は動きと言葉のチョイスにかなりのポテンシャルを感じた。
それ以外はオカマキャラがボケ役のデビジェル、ゲイネタの増田キートン、バカのガリットチュウという目を覆いたくなるラインナップ。これで1000円は安い。

6月9日

ルミネよしもとでダイノジ単独「花男」。
5年前の初単独ライブのリメイクライブで、圧倒的にはじけていた前回の単独に比べると小粒な出来。やはりキレに満ちた大地の動きとダイノジらしい新しい水脈のコントを見たかった。
5年前から大地は30キロ、大谷は15キロ太ったという。道場でチャンコでも食べていたのか?

6月8日

目黒区民会館で「コメプッシュ」。
全体的に低調な中、トリをつとめた18KINの漫才が頭一つ抜けてよかった。爆笑問題に近いネタ作りのコンビだが、爆笑・田中と同じくツッコミの今泉に余裕が出てきたことがネタの良さを増幅させている。
あとビームというコンビのボケは股ぐらのシルエットが変。印象に残ったのはそれくらい。

6月6日

ルミネよしもとで「5じ7じ」。
ゴングショーを勝ち抜いたコブシトザンギに怪しい華を感じる。若手特有の「いやー昔が懐かしいと思いましてね」「恋愛したいと思うんですよ」といった観客の共感からネタに入るパターンではなく、小道具の人形の頭が取れたりどこか薄暗い。ツボを心得たギャグも多く、少し気になる存在だ。
しかしMCをやらせたハローバイバイ・金成はすごい。グラウンドを全部見渡せるMFのようで、つなぎもシュートも自由自在。ただ点数が入るのであればハンドも辞さない歪んだ雰囲気がコンビに漂っているのが、ハローバイバイのもう一つ伸びない理由か。腕はあるのに。ハンドなだけに。大してうまくないぜ俺。

5月30日

日本テレビで深夜に放送した舞台中継「いい加減にします」。
三宅裕司、伊東四郎、小倉久寛によるコント芝居。昔コント番組「大きなお世話だ」を熱心に見て育った俺には懐かしい顔合わせ。
伊東四郎がノスタルジーではなく現役バリバリで面白い。何の脈絡もなく歌い出して周囲が混乱するおなじみのコントでは、伊東婦長が大暴走。ひとつひとつの動きに説得力とキレがあるのは、ガチンコでは強い喜劇役者の凄味を感じる。
小倉のフリートークが達者なのも発見だが、記憶に残るのは毛深さと唇。改めて見ると放送コードギリギリの人だと思う。

5月26日

本多劇場で大人計画「春子ブックセンター」。
演劇批評サイトを覗くと賛否両論の公演。前公演が愚息もションボリだったので期待していなかったが、驚くほど面白かった。
ラスト10分、幻のトリオ・春子ブックセンターが漫才を繰り広げるシーンが圧巻。芸人経験のない3名が、舞台人が持つ筋肉だけでネタを展開させてしまった。これはお笑い大好き少年だった宮藤が「松尾スズキの漫才を見たい」という思いで脚本を書いたような気がする。
そしてそっけないオチで物語は終わる。いつも大人計画が見せてくれる混沌から浄化されるカタルシスはここにはない。意味なんて何もない、ただ笑えるだけの舞台。だから俺はこの芝居を評価したいと思うのだ。

5月13日

グリーンホール相模大野で八起寄席。
入場口で渡されたチラシに「快楽亭ブラ談次独演会」を発見。快楽亭ブラックの弟子なのだろうが、なんだこの名前。
生きているうちに見ることはあるだろうかとぼんやり考えていたら、前座で出てきたので驚いた。

5月6日

ルミネよしもとでインパルス単独ライブ。
基本的に華に欠ける二人組であるのにかかわらず、ボケの板倉が登場すると女性ファンから嬌声があがった。こんな鶏ガラ似の男のどこに魅力が?
動き重視のコントは不発だが、テレビ番組が大家族を撮影に来て騒動が起こるコント、「MONSTER」のヨハン・リーベルトを意識した男がキセルで捕まるコント、幕間の映像「赤ずきん」など、どこか神経質な言葉を巧みに操ったコントに冴えが見られる。2時間の立ち見が苦にならない舞台だった。
ライブがはねてビーンズ遠藤と隣接する新宿タワーレコード・岡村靖幸トリビュートアルバム発売イベントへ。素人が岡村の曲をカラオケで歌い、観客は帰らずにそれを見守っていた。スタッフがやりたいだけの採算度外視イベント。それはお笑いの舞台より数段アホな空間である。

5月2日

ルミネよしもとでチハラトーク大喜利編。
大喜利というので千原人脈で板尾創路、渡辺鐘が出るのかと期待していたら、千原Jrがお題にひたすら答えるという、以前に本多劇場で中途半端な出来だった舞台と同じ構成である。
いささかがっかりしていると、前回よりもお題、回答がレベルアップしてなかなかの見応え。特に「車でオカマを掘ったら軽自動車からヤクザが8人出てきた時の顔」といったお題のシチュエーションに千原Jrが顔芸で回答するコーナーが秀逸。これは新しい笑いの水脈だ。
「自分がオッサン臭くなったなあとピーターパンが自覚するのはどんな時?」に対する回答、「最近ダカーポが面白くなってきた」に俺は一人で苦笑いしていた。

4月28日

目黒区民会館で若手のショーケースライブ「コメプッシュ」。
パラシュート部隊のバカなキャラクターに頼ったコントに奇妙な味わいがある。俺の大好きなルート33は最近低調。ボケがキレてみせたり、ツッコミがボケてみたり幅を広げるべく試行錯誤しているのだろうか。
しかし森三中はコントもゲームコーナーもどこまで計算してるのか、杜撰なだけなのか全く読めない。コントで何の必然性もなく松浦亜弥を熱唱して終わるのは、ただやりたかっただけじゃねえかとしか言い様がない。それでも面白いのだから不思議なトリオだ。
会場のロビーでは小学生漫才コンビのでこぼこがずっと携帯電話で話をしていた。うるさくはないけど存在が邪魔だからどいてください。

4月26日

天王州アートスフィアでシティボーイズライブ「パパ・センプリチータ」。
音楽、幕間の映像、舞台美術は金と手間がかかっている気配が漂う高水準ぶり。芝居もここ近年見た中では一番の安定ぶりだった。
エスプレッソ王子、男の宝塚、マグネットマンと意味不明なキャラクターをたたみかけるコントはモンティパイソンの匂いがしたが、真似や意識しているというより、くだらなさを追求すると一つの形に帰結するような気がした。それにしても中村有志の身体能力は驚異的だ。技巧に満ちていてキレがあり、なおかつ面白い。
帰りにビーンズ遠藤と浜松町の居酒屋で大竹まことと元ちとせと町田康を賞賛し、演出の坪田塁と辻仁成と山田スイッチの悪口で盛りあがる。

4月19日

新宿シアターアプルで「梅ちゃんの青い王国」。
冒頭では事前に回収した客の靴下を梅垣が客席にノックする。開演10分で客いじり。20分で全裸&股間にアジの開き。演者が舞台にいるより客席にいる時間の方が長い稀有な舞台である。最後には客を二つに分けて椎茸と葱を投げ合った。ああ書いてるだけで莫迦々々しい。
しかし時としてくだらなさを超越した空間には美が宿るのかもしれない。美しい舞台照明を見ながらぼんやり考えていると、鼻に豆をつめて客席を駆け巡る梅垣がぐんぐん近づいてきた。

4月11日

ルミネよしもと7じ9じへ。大阪遠征で見れなかった麒麟を見るためだ。
いい声とコンパクトで構成力のあるギャグ生産者・ボケの川島は、生で見ると動きに妙なキレがあった。ネタが終わったあとの深い一礼がとてもキレイ。
神経が細かいギャグのインパルスも堪能。130R蔵野は生で見ると、ツッコミが実に無駄がなく出るところ引くところ実に適確である。そして暗転から浮かび上がった時の顔力は誰も太刀打ちできない。前5列目で見たけど本当にすげえよ、あんた。

大阪遠征

3月24日

午後2時から阿倍野区立青年センターで田辺寄席。郊外の公民館で定期的に行われている落語会だ。入場の際に交わした言葉で東京から来たことが発覚すると、スタッフから物珍しい顔をされて関西弁でいじり倒される。
公演は中堅落語家5名が2時間半も落語をやって500円。安すぎる。上方落語は苦手という先入観があったが、どうにも面白い。特にマクラは東京が気が利いたことを言って当てにいくバッティングであるなら、上方は長打狙いでブンブン振ってきてミートする技術も持っている。客いじりも巧み。
おそらく東京も大阪も笑いの脳内シナプスは大差がないのだと思う。しかしネタとなるべき対象物を見つけた時の反射やスピードが違う。関西が直線的で無駄な動きが全くないのは、面白い奴が社会的地位を得られるという環境が後天的に与えた能力なのだろう。
夜はNGKで吉本芸人の大喜利トーナメント「ダイナマイト関西」。静まりかえる1000人の客を相手に1対1の対戦形式でボケ合うという、お笑いチムポがカッチンカッチンに固まる緊張と悦楽が混ざり合う舞台。優勝した千原Jrや倉本美津留の答えに松本人志の影がちらつく中、バッファロー吾郎・竹若の知的でいて無意味なセンスが目を引いた。
お題「「サファイアの涙」のようにルパンが盗みに来そうな宝石の名前は?」
竹若「和尚の夏」
お題「全く怖くないお化け屋敷とは?」
竹若「入ってみると「怖さ」より「老人の性」のテーマ性が際立つお化け屋敷」
お題「地方中学生が考えるもっともエロいことは?」
竹若「同級生に桃をぶつけられる」
これで1回戦敗退ってどんなレベルの高さだ? 今回の俺のベストギャグは、お題「モビルスーツ以外にもあったシャア専用のものは何?」に対するケンドーコバヤシの「シャア専用喪服」。これははっきり言って正解である。

3月25日

劇場近くのひっそりした店で肉うどんをすすってると、キングコングの梶原が入ってくる。母子家庭を感じさせない落ちついた目をしていた。
5時からbaseよしもとで「SUPER base KING」。中堅と若手を織り交ぜたネタ&トークの1時間。こんな舞台を毎日やっているのだから、関西の吉本芸人は舞台に強いわけである。無教養なヤクザが桃太郎の話に過剰反応するプラン9のネタが記憶に残る。あれだけ面白かったシャンプーハットは見るたびにネタが粗くなるのが心配だ。
さらに府立阿倍野学習センターで行われていた「コメディスタジアム」なるインディーズライブへ。奇跡的に技術がない照明、図書委員のような選曲のセンス、最悪の段取りに心はずむが、それに呼応するかのような出演者のレベルの低さが嬉しい。「関西人が二人舞台に上がれば形にはなる」と思っていたが、それは間違いだった。関東も関西も底辺層はしょうもないもので、ただ関西はその層が関東よりも何倍も広くて厚いという話だ。29組中鑑賞に堪えたのは一組だけで名前も失念した。しかし女の子の漫才は、大阪弁が可愛くて見ていて飽きない。ほとんど面白くないけれど。

3月26日

朝7時半にNGKの行列に並ぶ。昨日の夜6時からチケット売り場前には簡易テントを作って泊まりこむ者すらいた。
今日は松竹芸能のますだおかだが吉本が昼に公演している定例の舞台に立つのである。これはどれくらい画期的かというとKKKに松崎しげるが参加するようなもの、宝塚に佐野元春が入団するような快挙だ。それだけ大阪における吉本と松竹の間を流れる川は深くて暗い。
行列は会場の裏手に回り、その数ざっと200人。この異種格闘を一目見ようとこれだけ人が集まるとはさすが大阪だ。こんな情熱的な連中に破れて観覧できないのなら諦めもつく。 朝9時ぐらいに吉本の社員が顔を出し、「今夜のハリガネロックのイベントは予定枚数終了しましたー」と声をあげる。その途端、俺の前に並んでいた200人の少女が「漂流教室」さながら一斉に姿を消した。全員が今日の舞台を最後に東京進出していくハリガネロックを一目見ようとしたファンだったのである。俺は4ケタの補欠番号が繰り上げ入学したような顔をして、最前列に並び直した。
さて結局簡単に入れた定例公演。ますだおかだは角座で老人相手に鍛えたせいか、いつもよりスピードを抑えた話芸で老若男女を相手にしても確実に笑いをとる。俺が期待した松竹にふれた自虐ネタで会場に緊張が走る光景はなし。
トリのオール阪神巨人が抜群で会場中がウケまくった。中田カウスボタンにしても宮川大助花子にしても、NGKのトリを飾る芸人は板の上に立つと本当に力がある。ガンガン笑いを取ったあまり、ネタが脱線しすぎた終盤はズブズブな終わり方だったが、それすら面白かった。
夜は吉本若手芸人のバトルロワイヤル「ガブンチョWAR」に。見たくてたまらなかった麒麟が仕事のため休演で肩を落とすものの、アドリブになってもテンポが崩れないNON−STYLEの漫才が良い。あと笑い飯。いきなり不安をそそるコンビ名だが、出てきた二人が小奇麗な20代前半ばかりの中、思いきり20代後半の薄汚いオッサンなので心惹かれる。ネタはお互いが負けじとボケをかぶせていく、そこらの関西人が立ち話してるようにも見える荒削りで危険な漫才。なんだこれ? あんまりセオリーもなさそう。変。しかしこれが面白いのだから、お笑いの奥は深い。
右横のチビでブスは「むっちゃかわいー」を連発し、左横のデブでブスは応援しているコンビが合格すると、喜びで汚い涙を流した。恋愛をモチーフにしたコント。キャーキャー言われることを前提とした女装。確実に客にへつらったネタ作りをしたコンビが数組いた。俺はこんなものを見に来たのではないと串カツ屋で一杯ひっかけて、深夜バスで大阪を後にした。

3月18日

地元のグリーンホール相模大野で二ヶ月に一度開催される八起寄席へ。
1800円の当日券を買って中に入れば地味な演者に枯れた観客。なんとなく二時間をやり過ごす。しかしこれでよいのではないか? 生活圏内にある手軽にだらしなく笑える寄席は決して悪くない。
前座がやっていた「豆屋」が莫迦々々しくてよい噺。先日末広亭で見た女流動物形態模写の江戸家まねき猫が出演したが、よく考えると彼女って本家ニャン娘だ。

2月24日

目黒区民センターで「コメプッシュ」。
大手事務所から若手芸人を集めたショーケースライブ。あまり期待しないで行ったが高水準のネタを満喫。
「機動戦士ヤツダム」を演じたエレキコミック。アドリブを多用する好不調の波が激しいコンビだが、ふざけっぷりが絶好調だった。
それよりもガリットチュウである。ダカーポの忘年会に芸人として呼ばれチムコ芸する姿に大いに嫉妬したものだが、舞台を初めてビックリ。こいつら本当バカ。久しぶりに見たよ、あんなバカが二人出てくるコント。くだらねえ、本当にくだらねえ。キャリアが長いわりには吉本で冷遇されてるが、もっとスポットが当たればよいなと思う。

2月16日

後楽園ホールで「笑点」の公開録画を見学。
何の後ろめたいこともない。しかし取材であることは声を大にして言いたい。二度言いたい。にぎやかなこの街の空に思いきり声を張り上げたい。
木久蔵師匠のギャグがことごとくヒット。時事川柳で読み上げた「やだねったらやだね/氷川きよしかな」って意味不明のうえに二音節。台本有無の問題じゃなくて、すげえよあんた。

2月13日

下北沢ザ・スズナリで清水宏のサタデーナイトライブ。昨年トンパチライブで見た「映画予告編」ネタの破綻したテンションに心底笑ったので足を運んでみる。
ケラや明石家さんま、宮藤宮九郎に原案を出してもらったという一人芝居群は、低い水位で整然と完成してしまった印象で物足りない出来。清水の魅力はギャグをはずして生れた客席の隙間に活路を見出す瞬間だ。その時客にかみつくスピードとテンションは野生動物に近いものがある。次に見る時はアウェイの舞台で。しかし下北沢演劇祭参加って何でもありか。

2月11日

ダイノジの単独ライブにシアターアプルへ。
潔いまでのコント攻勢。大谷がボケのコント、大地がボケのコント、どちらでもないコント。関西で苦戦しているのは、そのキャラ設定と発想が自由すぎるからだろう。しかし大地の動きは広い会場でも十分通用する。ファンサービスを込めて作り直した「タクシー無線」「ダイノジロック」を見るかぎり、もう一つ上に飛び出しそうな予感がした。
開演前に作家の山田さんに連れられてバックステージを訪れ、品川庄司の品川と6年ぶりに再会する。あまり会話もはずまずドラマが全く生まれない俺と品川の間で、チャイルドマシーンの山本がモーニング娘。の新曲をCDウォークマンで聞きながら唸っていた。

2月10日

シアターVアカサカで島根さだよしのソロライブを。
ツインカムが解散し、ピン芸人になって初のステージ。客演があった「レストラン」が島根の異常なキャラと反復ギャグで優れていたが、舞台に他の誰かがいる時に本領を発揮するコンビ体質のままというのはどうなのだろう。しかしウエイトレス役の女の子が尋常ではなく可愛かったこと、関係者の「いい女」比が高アベレージだったことに全てを許す優しい気持ちになる。

2月9日

恵比寿エコー劇場におぎやはぎ単独ライブへ。
唯一の東京組としてM1に出場しながら、4つの予選を通過したとは思えない気のぬけた漫才で最低点を叩き出した彼ら。
しかしおぎやはぎを「関東代表の漫才」として紹介したのは誤りもいいところである。覇気があるんだかないんだか、言葉のチョイスが優れているんだかいないんだか、地域性その他諸々を超越して他の何にも似ていないコンビなのだから。というよりその本質を真面目に考えるほど、ひどくどうでもいい気分になってくる芸風である。オールコントの今回も衣装チェンジなしと緩みっぱなしだった。
開演前、客が関係者席を振りかえってざわついていたが、みんな間違えてはいけない。あれは小西康陽でも阪神の川尻でもなくてバナナマンの日村だ。

1月27日

雨があがった日曜日の午後。ふと時間が空いた健全な27歳の青年がすることといえば一つ。
それは寄席に行くことである。という訳で新宿末広亭へ足を運ぶと、ものすごいものを見てしまった。落語芸術協会会長・桂文治の落語だ。
座布団にたどり着くまでのよたよたした入場にいきなり目を奪われるが、始まった落語は完全に成熟と耄碌の間を行き交い、スリリングそのもの。皮肉ではなく衝撃的に面白かった。志ん生を見る時はあんな気分になったのだろうか。
ボケの立ち方が妙にツッコミに背中を向けるWモアモア、鼻の頭に紙をのせる芸だけで5分以上引っ張った曲芸のボンボンブラザースが秀逸。同行した芸人にいじられやすい体質の遠藤は本領を発揮し、ボンボンブラザースに鞄を奪われて舞台まで追いかけていた。だから日曜の午後に俺たちは何してるって話だ。

1月20日

旅先の沖縄で地元演芸集団FECのライブを見る。
地方のお笑い集団に見合ったレベルだが、客の笑いが意外に辛かったのが印象的。トリを飾ったデブ二人組・てつよしは相当達者で、特に方言でたたみかける瞬間、会場が余所者には分からないグルーブに包まれたのが逆に心地よかった。って沖縄にまで行って海にも行かず俺は何をしているのだろう。

1月17日

大久保でポカスカジャンライブ。今回の白眉はメンバーが女の甲斐性なさを競うネタの中で、玉井が妻から渡された離婚届を舞台に持ってきたこと。しかもガチンコの申請用紙でライブの後に杉並区役所に持っていくという。
芸人は恥を捨て何かを失うことで笑いを獲得する。当日女にふられていた俺には玉井が神のように映った。最後はとどめにメンバーが破局に至るまでの愛の歴史を振り返り、失意に打ちのめされた玉井は腰に力が入らずその場にしゃがみこんだ。それを見て客は爆笑。笑いって本当に素敵だと思う。

1月6日

関西から送られてきた「オールザッツ漫才」のビデオをチェック。「オールザッツ」とは年末に夜中5時間ぶっとおしで行われる吉本のネタ見せ番組である。
麒麟、レギュラーも確かに面白いが、森三中の面白さって何だ。ただメガネ、デブ、チビの不美人トリコロール三人組が舞台で騒いでいるだけのようにも見えるが、どうにも面白い。コント「鳥」に至っては1分に見えないほど中身が濃いのに何も残らない凄さ。俺はキャラ勝負コントや見切り発車のシュールコントのような理屈で計れない笑いは嫌いなはずのに、どういうことだろう。
コメディNo1の前田師匠は「笑いには理屈はいらんが計算はいる」と言った。要はそういうことかもしれない。ラーメンズの対極的存在、反「知」の先鋒として森三中には頑張ってほしいと思う。ところでチビでデブでブスの中島はなぜか優香に似ている。これ本当に。


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