バックナンバー・練乳工場(6月上旬)


6月10日/ハートチップルを嗅いで伊藤英明バッドトリップ

書き始めて10ヶ月の日々が経つ「練乳工場」。今まで読者からのリアクションが大きかった回は何か。もっとも大きな反響を呼んだのは、いつ書いたかは失念したが「なぜフミヤを笑わないのか?」と問題提起した回である。
世間的には「セクシー」として解釈されているフミヤ。だが俺には「色気づいたパペット」にしか映らない、と告発した途端、同意のメール、激励の電報、パチンコ屋開店を祝う花輪、国民年金の催促状、マスターズ招待通知が続々と舞い込んできた。
しかしながら俺も仕事が入る身になって忙しくなると、不本意ながらフミヤから目を離す日々が続いていた。
そして今日、自宅で半紙の間に細い色紙を挟む仕事に熱中していると、何気なくつけていたテレビが携帯着信に反応したオーディオ機器のように突然ブルブル震えだした。もしやと画面を凝視すると、むべなるかな、「ミュージックステーション」に出演したフミヤが足を組替えているではないか! そのオーラに横でハッピを着たEE−JUMPのただでさえ線の細いジャリの線がますます細く見える。マッキー極細。横の女性アナが段取りにそって進行していた。
「フミヤさんはこの番組が始まって以来、ずっと出ていただいているんです。それでは一緒に歩んだ15年を振り返ってみましょう・・・」
まさか昭和の演芸史が何の予告もなしに見れるとは!俺の血液が一気に股間(袋)に集中する。
まずはお手並み拝見とばかりに「NANA」「夜明けのブレス」「I LOVE YOU SAYONARA」がダイジェストで流れた。
俺は違和感を覚えた。左耳のピアスが気になるものの、フミヤの歌う佇まいは全く悪くない。それどころか懐かしいチェッカーズの楽曲にノスタルジーさえ感じそうになる自分すらいた。
俺が指をさして笑ったチビポップは幻影だったのだろうか?
がっくり肩を落として電源を落とそうとした刹那、今まで利かない利かないとキノコを咀嚼してきたツケが一気にラッシュとなって押し寄せた。ワンダーフミヤランドはソロになった瞬間から、狂い咲きを始めたのだ。その開いた花弁は青い薔薇といった珍種の趣ではなく、畳の隙間から生えてきた椎茸に近い。
まずは「タイムマシーン」のフミヤがリーゼントで登場。まだアルピニスト野口の制覇していないであろう険しい嶺が、フミヤに頭上でぷるぷる震える。よく見ると尖った髪の先で蝿が貫通していた。
次は革ジャンを着たフミヤが足を高く上げる画面に切り替わる。テロップに「ワイルドなダンスを披露!」とあるが、曲はどういうわけかミディアムテンポ。病棟のラジオ体操を見ているようなシンコペーションが炸裂だ。
俺の動悸が烈しくなるのを見透かしたように、歌舞伎町ホストメッシュを入れたフミヤが青いカラーコンタクトを角膜にブチ込んでご機嫌をうかがう。キャンパスにいたら無条件で椅子に画鋲を仕込まれるタイプだと思った。曲は「DO NOT」。確かにこれ以上は勘弁してほしい。サビの「ドント行こうぜ、サラリーマン諸君よ」のコーラスワークが胸を打たずにはいられない。
あまりの感動で全身に黄疸が走りだした俺を嘲笑うかのように、フミヤはアフロ&顔の半分はあるデカサングラスで熱唱し始めた。曲は衝撃で忘れてしまったが「俺が夕焼けだた頃〜、兄貴は胸焼けで〜ダバダバ〜」みたいな歌だったと思う。多分。
この四番手がピークかと思いきや、怪我前の吉村なみに最強の五番打者が控えていた。長髪を後ろで束ねて頬ヒゲを蓄えたフミヤ解禁である。スタジオのフミヤは「うーん、イチローみたいだったねえ」とご満悦モードだが、俺には世界最強のミュージシャン・プリンスがダブって見えた。もちろんファッションではなく背の丈が。
最後には食後のデザートなみに黄色い小宮山メガネをかけたフミヤが「風の時代」という、野村秋介でも作詞しないような前近代的唱歌を歌いあげると、VTRは使命を果たしたかのように、絶えた。テレビの前にいた俺の全身も寝汗でびっしょり濡れている。
フミヤ(チビセクシー)「アフロもメッシュも僕がやったあと、流行したんですよねえ・・・」
タモリ(本物)「やっぱり時代より少し早いんじゃない?」
聞き捨てならないトークを残したフミヤは新曲を歌うためにスタンバイする。新曲タイトルは、みなさん、「UPSIDE DOWN」ですよ!「UPSIDE DOWN」って!
「UPSIDE DOWN」って!
分娩台上の格好でひっくり返った俺がフグリ越しに見たのは、赤のスウェットでまとめたフミヤが飛べるとでも思ったのか、マイクスタンドを頭上でぐるぐる旋回させている映像だった。それを見て「今着てるのはパジャマ?」と俺は考えていた。今本屋に置いてあるやけに細長いフミヤのフォトエッセイ本、誰か僕にください。

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