バックナンバー・練乳工場(8月下旬)


8月31日/鳥人間コンテスト・改造人間部門で優勝

「日本語が乱れてるでヤンス」
「拙者、タカラジェンヌにて候」
「絶対何もしないから、おっぱいだけ揉ませて」
街を歩くと、そういった理論上ありえない文章である「絶対矛盾言語」をたまに耳にする。
その中で忘れられない言葉がある。フランス人・ギャンの一言だ。
俺はその時、中国は四川省・成都駅で行列に並んでいた。 学生時代の休暇を使ってぶらぶらしていたファッキン中国の旅路であったが、この成都駅から思うように先に進めなくなった。
というのも広い国土を列車移動していたのだが、このファッキン中国という国は切符が非常に手に入りにくい。 駅の窓口で発売する切符は同じ切符でも、外国人旅行者が支払う金額はファッキン中国人の3倍払うという正規の法律があり、 ではハッキネン中国人旅行業者が横流しした切符を買おうというアイディアは浮かぶものの、それが正規の5倍もするのである。
仕方なく駅に並んでみるが、ホッキニン中国はツーリスト用の切符をおそろしく少数しか発行していないので、 何時間かけて窓口まで辿りついても、たった一言「売り切れだ、帰れ」と手で払われることを数日繰り返していた。
また旅行者を苛立たせる理由のひとつとして、窓口で流暢な現地の中国語が使えない限り、 駅員は中国人用の切符は販売してくれない。 それなりの中国語を喋る日本人でも看破されてしまう実情なのだが、 どういう訳か列車の中の検察であきらかに現地人でないツーリストが、中国人用切符を提出してもまったくの不問なのである。 さらに詳しい事情が知りたければ、蔵前仁一がこれだけのネタで2冊は本を書いてるだろうからそれを参照してほしい。
それにしてもどういうシステムなんだ中国は。いつか北京でXXXXXXXXXXXXX作ってやるから覚えておけよ。 (あまりに過激すぎて自主規制しました。伏せ字部分を知りたい人は直接メールください。それでも教えられません)
今日もさんざん待って自分の番になったが、やはりというか「没有(メイヨウ)」と一言。相手にもされない始末である。
仕方ない。俺は数日並んでさすがに疲れてしまった。5倍の金を払うのは実に馬鹿馬鹿しいが、業者から買うしか手はないのかもしれない。
ふと目をやると俺の並んだ窓口が、背が高く金髪で青い目の外国人の番を迎えた。
首が緩んだシャツにバッグパックを背負った典型的よそものツーリストである。どう粘っても駄目だろう。
案の定駅の事務員は外国人用の切符は売り切れたと、社会主義国特有の疲弊した表情で顎をしゃくった。
するとその外人は鉄格子に手をかけて「俺は無実だ!ハリ・ケーン!」と訴えるようなテンションで、窓口に顔を寄せて絶叫した。
「I! AM! CHINESE!」

2週間後、チベットの安宿に滞在していた俺は同室の人にその話をすると、
「その変な野郎はこのホテルに泊まっているフランス人のギャンに違いない。今シャワーを浴びているはずだ」
と指摘されたので、半信半疑シャワールームを覗きに行った。
すると2週間前見た例の男が、壊れて熱湯しか出ないシャワーにあたって「OH、HOT!」と叫び、 その隣の壊れて冷水しか出ないシャワーを浴びて「TOO COLD!」と叫んで、 すごい勢いで2つのシャワーの間を往復していた。
旅に出ると数知れない出会いがある。それと同じ数だけ忘れたい出会いがある。


8月30日/ブスのコスプレみなジャイ子

東北の地方都市で吉田はインターンをしている。 父親がソムリエ、姉がパンツ泥棒、本人が医者というアダムスファミリーさながらの家庭なのだが、 丁度勤務を始めて1年少しが経った。
やはりというか医者の収入はすさまじいものがあって、現在27歳なのだが同年代の軽く5倍は貰っているのではないだろうか? (ちなみに同年代で最下層と思われるのは前にも書いた旅行会社勤務の野村。 貯金がゼロだというのでよく調べたら、毎月珍しい日本酒の酒蓋と牛乳キャップしか貰っていなかった)
当然ながらそれなりの報酬に値する仕事をしていて、1日40時間働き、平均的会社員の5倍のオペをこなし、 帰宅後の酒量も学生時代の5倍に膨れ上がった。
しかしこの吉田の問題はその金の使い方にある。
決して吝嗇家ではないし、飲みに行けば奢ってくれる。地方都市の小料理屋で何人かで秋刀魚の刺し身をご馳走になった時は、
金はあるところにあるものだなあ
金はいいよニャ〜
320(みつを)

と色紙にしたためたくなったほどだ。私がここで問題にしたいのは吉田のごく普通の生活感覚だ。
本の話をしていてお薦めの最新刊を挙げたりすると彼が言うのは、 「おッ、それ面白そうだねえ・・・いつ文庫になるかな?」
買え。今すぐ買え。2冊買え。
「今ケーブルテレビ入るかどうかで悩んでるんだよね」
入れ。スターチャンネル全部入れ。囲碁将棋チャンネルも入れ。
さらに使っている携帯電話がPHSであることに関しては、ビルゲイツがしている未来型腕時計を買えと言いたいし、 乗っている車も国産の中流車だ。車はよく分からないが、もっと水陸両用みたいな素敵なやつに乗ればいいじゃないかと思う。
駅前の古着屋で3000円で買った「メローイエロー」と表記されたトレーナーを2日連続で着ていた時は、 もっとこうなんか黒くてラメが入ったやつを着ろと言いたかったし、 帰省中に中古CDでバービーボーイズを買っていたのを見た時は、中古で買ったことよりもそのチョイスに大いに疑問が残った。
高給取りのくせにナチュラルに庶民感覚が残っている状態というのは、逆に非常にいやらしいものである。
その意識を払拭するために、以下のような生活習慣は心がけるべきだと思う。
・吉野屋で特盛を頼んでも並の分だけ箸をつけて帰る。勘定の際600円になったのを知りつつも650円払う。
・ユニクロでMサイズかLサイズか微妙な時は両方買う。ついでにSも買う。
・ホッピーをおかわりするかどうかでは悩まない。
というか吉野屋なんて行くな。ユニクロで買うな。今時どこで飲めるんだホッピーなんて。
こういった地道な意識改革をすることでスーパードクターK(断われ急患)への道を歩んでほしいと思う今日この頃である。
とはいうものの、これは実話なのだが吉田の先輩は買い物に行くと、 もらったお釣りで10円以下の硬貨はその場に捨ててしまうという。その理由は「邪魔だから」。
ワンモアタイム。「邪魔だから」。
2階席聞こえる?「邪魔だから」。
医療ミス一つにつき指1本詰めてもまだ足りないように思うのは私だけだろうか。

8月29日/ブレーキこわれた自転車が山積みのベビースターに激突

ロシアの恒久的潜水艦クルスク事故で、遺族の母親がロシア政府相手に取り乱しているところへ、 注射器を手にしたひとりの女性が近づいた。彼女は背後に回り込み、針の先端を母親の背中に射しているように見えた。
その画像が公開されてショッキングな映像だと巷では騒いでいるが、はたしてそうだろうか。
時は8月末。ロシアで自由研究の宿題に人間採集を提出してもそんなに不思議ではない。 それよりあの母親があんなに公然と注射を打たれたことで、オリムピックへの切符を剥奪されたことを同情すべきであろう。
4年に1度の哀しみオリムピック。日本代表にはカズを推薦しよう。昔日本代表を外された時、 不安が原因で一晩で総白髪になったのには驚いたから。
それより、プーチンである。
本年度フォーブス誌が発表した「世界・人を殺(あや)めていそうなフェイスランキング」で 2位のロビンマスクに6万ゲーム差をつけての堂々の1位だった、武闘派モト冬木・プーチン。 元KGB(キックと・拳骨で・撲殺だ)で、コマンドサンボの使い手、さらにレニングラード柔道チャンピオンだったらしい。 政治家としての肩書きはないのか?
よく元KGB(クリントンと・ゴルビー・ブッ殺す)だったことから、日本でいうと元公安警察に例えられるが、 それは違うだろう。どちらかというと笹川良一だ。もしかすると宮崎学かもしれない。人命突破者と呼びたい。
しかしこの人が大統領というのは石原都知事が不自由に見えてくるぐらいにすごいことだ。 なぜなら選挙公約が「打倒・カレリン」だったから。もちろんスペックナイフを使って。 多分ロシアの国民も「この人だったらゴルゴ13と一騎打ちして勝てるかもしれない!」と期待していたのではないか。
それが今回の事故で一気に信用を失ってしまった。 やはり対処が悪かったとしか思えない。まずプーチンは休暇先から事故現場へ駆けつけるべきだった。
そこでマイクを向けるマスコミを殴り倒して、カメラが回ってる前で海にダイブである。 口に鉈をくわえたプーチンはグランブルーよろしく潜水していく。その過程にディープブルーのような鮫との格闘や、 ベティブルーのような目の玉えぐるほのぼのラヴがあってもポイントは高い。
そしてクルスクにたどりついたプーチンは、ぶ厚いハッチを鉈で叩き割るかもしくは目からビームを発して艦内に突入するのだ。
そこには酸素不足で蒼白になった船員たちが横たわっている。プーチンの姿を見た船員は猛烈に感激するだろう。
「大統領が来た!私たちを助けに大統領自らが来たくれたんだ・・・!」
そしてプーチンは優しく微笑むと、弱った船員ひとりひとりに鉈を振り下ろしていく・・・
ダメ!ダメダメ!そんなことしちゃ絶対ダメだよ、プーチン! 君はちょっと語感がムーミンに似てるね。でもそれに甘えるのはよくないよ!
今回の事故でプーチンはスーツの裏に星印の刺繍を118個追加して縫い付けたという。 追悼か、大洋の田代を意識した行為かは私は知る由もない。
今週末に来日するらしいが(格闘技の祭典PRIDE・10は終わったのに何故?)、 こんなことを書いていて殺されないか、本気で心配である。

8月27日/スターバックスのキャラメルフラペチーノ?パピコじゃねえか

8月28日/スターバックスのキャラメル?溶けたパピコじゃねえか


これはまさに「ショート」だ!
コンデンス・ミルク・ファクトリー(以下CMF)のニューアルバム「ショート」を聞いて ロッキングオン・ニホン編集部は感電寸前に陥った(笑)。
常にトーキョーのリアルを歌い続けるCMF。2年間の充電期間を経て――これこそ「蓄電」であるが―― 蘇ったCMFのフロントマン、キクタ・ミスズにそのタフネスを迫る!

・結論から言ってしまうと、このアルバムはロック史の中における最高傑作であると断言したい!
「ありがとうございます(笑)」
・前作の「ナイスミュージック」も最高傑作だったし、午前中インタビューした新人バンドも最高傑作だったんですけど、 それをこの「ショート」は3時間ばかりで軽く更新してしまいましたね。
「まあ、俺としては前回のアルバムの時の鈴北くんのインタビューも最高傑作だと思ってますよ」
・(笑)で、これだけのアルバム出したオフの背景にすごい興味があったんです。 前作の後、ツアーをサーキットして2年近い空白があったんですが。
「ツアーで全力出して、終わったら完全に抜け殻状態になっちゃって。そいで吸収も兼ねてNY行ってましたね」
・その行動力に日本だけでは飽き足らないCMFの姿勢を感じるんですよね。 要はキクタさんは日本の中だけで流通している空気感だけでは息苦しいというか。何か収穫はありました?
「いいスタジオがあったのと、あとおいしい家系ラーメンの店を発見しましたね」
・へえ、NYまで進出してるんですか?マンハッタンあたりですか。
「ビブレの裏手かな」
・目印まで日本企業のビルだったと。
「あ、俺がさっきから言ってるNYって、西横浜のことだからね」
・結局僕はCMFが他のバンドと一線を引いてるのは、そのドメスティックなものへの態度じゃないかと思っていたんです。 あんまり日本人がオフにアメリカだヨーロッパだって風潮は、それこそ画一的でどこか間抜けというか。
「西横浜に1ヶ月いた後は、ロンドンに行ったんだよね」
・ロンドンだけはアリじゃないんですか。ブレイクビーツだって要は和洋折衷ですし。
「マカレナもそうだしね」
・まあオフよりもっと聞きたかったことは――新作の「ショート」。これ、すごい意味深いタイトルだなあと。
「そうですね」
・今若者がキレやすいとか言われていて、その原因は何だか分からない時代じゃないですか。 その閉塞感やイライラを「ショート」の一言で表しているという気がしたんですが。
「や。このショートは野球のショートから来てるんだけど」
・野球の守備のショートですか?なんでまた?
「好きだから」


・それはそれですごい象徴的だと思うんですよ。今ミュージックシーンにおけるCMFのポジションって、かなり遊撃手に近いなと。 肩強くねえとできねえぞ!みたいな。守り深いぞ!みたいな部分をすごい感じるんです。
「それはありますね」
・二遊間抜かせねえぞ!っていうのもそうだし、背番号6だぞ!みたいな部分とか特にそうじゃないですか?
「まさにそうかもしれない」
・だから僕はアルバムタイトル聞いた時にすぐ永島敏行主演の「サード」を思い出したんです。
「そこまで意識はしてなかったけれど、そういう古き良き時代の映画への郷愁っていうのは常にあって―― いつかそれに対するオマージュっつうか、アンサーソングとしてね、答え出さないと俺的にヤバいぞ、 っていうマグマはすげえ溜まっていた気はする」
・ははははは。笑うところじゃないんですけど、よくロッキングオンだとこうして無意味に笑っているんで。ははははは。
「ははははは。笑ってるところだけが無意味な訳じゃないけどね。ははははは」
・で、僕が今回一番スゲエなと思った歌詞があって、<意味なんてもう何もないなんて/僕が飛ばしすぎたジョークさ>の箇所なんですけど。
「ちょっと前になるけど、いわゆる渋谷系でくくられた音楽があったじゃないですか。 あの当りに共通してた概念って、それこそ新しい音楽やメッセージはない、意味なんてないぜって事だと思うんですよ。 そういうものがあるから海の向こうで流行している曲の方法論を――言い方は悪いけど――平気でパクれるみたいなね。 でも俺はそうじゃないと思った。やっぱりどこかにオリジナリティは残ってるんだって思いをね、その歌詞にしてみたっていうのはあって」
・でもこの歌詞自体は小沢健二のファーストアルバムにあった曲のパクリですよね。
「あのアルバム、好きなんだよね」
・確信犯的な行為なんですか?
「よく聞いてたね、小沢健二のファーストなんて」
・それなりに話題になったじゃないですか。
「ウソ、廃盤じゃないの?まさかさっきの歌詞って結構有名だとか?」
・最後にキクタさんから「ショート」の総括的なコメントなんかもらえたら、ありがたいんですが。
「今回はいいキクタモードで作れた部分はすごい強くて、メッセージ性は今までで一番強いんじゃないかな。 他人同士がひとつの世界を共有できたら気持ちいいんじゃないか――宗教的な意味じゃなくてさ、それこそイマジン的な世界観みたいな、 そういう不変な物に目を向けてほしいってことをこのインタビューで言いたかったんだよね」
・インタビューで、ということはアルバムの曲でいうと――
「いや、アルバムでは特にそれについては歌ってないな」
・またそれはどうして?
「や。だって面倒臭いし、別に言いたいことはアルバム出したあとインタビューで言えばいい訳だからさ」
・それはその通りです。
「や。だから来月「「ショート」についての20000字インタビュー」が2枚組CDで出るから、それ聞けばもうバッチリだぜ!ってことで」
・ははははは。つまり今回のアルバムは予習編ってことですね。ややややや。
「ややややや。笑い方間違ってない?ややややや」
(黒地に白抜きの「J」のロゴ。「自慰評論」の「J」かと思われる。)

8月25日/エコーズー

高校2年の時、関西からイク島は転校してきた。
バスケとヒップホップが好きでおよそ種が違う動物のように思えたが、 性格は卑屈で浅草キッドのファンという接点が僕らを仲良くさせた。 もうひとつ重要な共通項は景山民夫を愛読していたことである。
当時の景山さんは週刊朝日に「だから何なんだ」を連載し、 書き出した冒険小説で直木賞や吉川英治文学新人賞を総ナメにして、 海洋動物に似た顔面から滲み出す動物性脂が乗り切っていた時期だった。 僕とイク島の景山さんへの評価も、面白い、カッコいい、そして大嘘つきだという点で一致していた。
「普通の生活」のエッセーの形をとった自慢話、「食わせろ」の社会への提言風の陰口、 「遠い海から来たCOO」ののび太の恐竜そのまんまの展開と 景山さんの魅力は尽きないが、エッセーを一貫して垣間見れる「粋」の精神を僕は感じていた。
フィリピンのカジノで現地の年収に相当する額を儲けて一晩で使いきる話(多分嘘だと思う)、 愛車のボロボロになったフォードが廃車になるのが嫌で、近くの原っぱで遊んでいた少年に「これやるよ」と キーを渡してしまう話(絶対ウソだと思う)。金やモノに固執しない物質面の粋もさることながら、 景山さんは原発、環境問題、いわゆる社会の巨悪的な存在に、笑いを取りながら発言していったのだ。
正しいことを正しいというのは簡単だし、正論を声高に主張するのはカッコ悪い。 そういう結論を導き出した者は大抵が世界に対して無関心を決め込む手段を選ぶところ、 景山さんは主張にギャグを織り交ぜながら、時には主張そのものをギャグに自己相対化して戦っていた。 そのしなやかな姿は僕にとっての粋以外の他のなにものでもなかった。
そしてある時期を境に、愛だのつながりだの生きがいだの障害者青年の主張みたいな単語が文章に散りばめられるようになる。 近所の猫をベースで叩いてボコボコにしていたパンクロッカーが突然、 「いいかいチミタキ、鯨は食べちゃダメだヲ。ピースピースグリーンピース」と説教を始めたような転身である。 その正論を拳を振り上げて語る景山さんの姿は、粋から一番離れた位置にいるように見えた。
そうしてすっかり心が離れた時期に、景山さんは自宅で火災事故に遭い、唐突に亡くなられた。
僕は誰に何を言えばいいのか分からず、1年ぶりぐらいにイク島の携帯に電話をした。
「景山さん、死んじゃったなあ」
「・・・うん」
「あっけねえな、あんな死に方しちゃうなんてさ」
言葉が続かなかった。
それから無闇に時は流れて、最近僕は本屋で景山さんの遺稿集を見かけた。手にしようとしたその時に 「ああ、読んでも失望するだけだ」と直感が走って、背表紙の寸前で指が止まってしまった。
その指先と背表紙の距離は見た目よりも、ひどく遠く離れている気がした。
その時も僕は動揺して2年ぶりぐらいにイク島に電話しようかと思ったが、伝える事が何もないのに気づいて、 イク島の携帯番号をメモリーから消去した。
今僕はイク島に電話しなかったことを後悔している。 早く裁判所に行ってその名字を改名した方がいいとアドバイスすべきだったからだ。

8月24日/僕の話を聞いてよ、DJ(デニム・常着)!

パラグライダーの着地に失敗して背骨を陥没してしまったらしい。友人の能登くんが入院したのである。
帰省していた友人の吉田と病院に向かった。お見舞いは吉田の提案で中古CDを持っていった。 なかなか悪くないアイディアだと思った。食べ物は体調で嗜好も変わるだろうし、花も管理が面倒だ。 CDならそれなりの暇潰しとして最適だろうから。
入院部屋に入ると、腰にギブスをはめて能登くんはベッドで仰向けになっていた。 思ったより顔色はよかった。お見舞いだよと声をかけ、我々は慎重に選んだCDを渡していった。
まずはジャケットが面白いという理由だけで買った大江千里の「レッドモンキー・なんたらフィッシュ」を一枚。 全盛期の大江千里 が出産の瞬間に「トップランナーはおれだ」と絶叫しているような顔のどアップ。眼鏡男にしか出せないフェロモンが咲き乱れている。
次に平井賢の弟分と称してKATSUMIを。タワーレコードでヘビーローテーションだと説明すると、能登くんは素直に信じていた。 帯コピーの「今もっともなトレンディなハートフルボイス」に愚息も昇天だ。
とどめにドラゴンアッシュファミリー期待の新人としてBOYOーBOZOを差し出すと、 能登くんの興奮と歓喜は頂点に達した。しかし、
「あれ?でもこのBOYOーBOZOって元TMネットワークの人じゃない?見たことあるよ」
と入院患者とは思えない鋭い追及を見せたので、酸素吸入のチューブを軽くつまむと能登くんはすやすやと眠りだした。
しばらくして目覚めた能登くんはCDの裏面を移動する虹色の光沢を、きらきらした瞳で不思議そうに眺めていた。
さてお見舞いに持っていったCDは全部でアルバム3枚、シングル2枚。かかった費用は400円である。
はっきり言って、これはCDでもなんでもない。
丸いし、穴も開いてるし、プレイヤーにかければ音まで出るし、 うまく回転を加えて投擲すれば小動物の首だって切れるが、 1枚100円の値がついた時点でCDとしての本質を失っている。これはCDという記号でしかない。
半額のCDは中古CDと言える。1000円均一のCDは相当に安くなったCDである。 300円均一コーナーに置かれたCDは、自らが「俺はCDなのか?」と疑問を抱きだしていて、 既に円周の輪郭が点線状になって現世と向こうの世界を存在が行き来している。 そして100円均一。もうCDと呼べる代物ではなく、「シーシー」とか「ひい爺」あたりの名前で再生した物質でしかない。
お見舞いで渡しておいてひどい意見であるが、100円で買ったCDの音楽に感動なんてするものか。
それは3000円だったものが100円に下がるような音楽だから価値がないのではなく、 100円で買えることが全ての価値を喪失させているのである。
平日65円で売っているマクドナルドのハンバーガーにも同じことが言える。まずいとか以前の問題で、これは食べ物ではない。
休日に130円で買って食べるとまだ食感が残っているし、あまりおいしいものではないなと感想も残る。 だが平日に同じ商品を買って食べても、食べた気がしない。というか、食べていない。
65円のハンバーガーを口に入れて咀嚼し嚥下したところで、ものを食べたとは認められないのだ。
よく見ると同じ空間で120円で爽健美茶が売っているではないか。 「メインの食べ物の値段>サブの飲み物の値段」という物理学の定理が崩壊しているのだから、ますますそれは食べ物ではないのである。
この商品を食べる行為まで昇華するには、ある種の経験が必要だ。 例えばスーパーで1本100円で3本セット200円のジュースに目をやりつつ、2本を単品として200円払って買う。 そこで本当は買えたはずのもう1本のジュースの味をひたすら想像する。 この記号と化した味覚を獲得できた者のみにだけが、65円のハンバーガーを味わえるのである。 こんなことを書いていると自分が別役実になった気がしてくるから、素敵だ。
ちなみに100円ショップで売っている、4本で100円の100円ライター。 これも100円ライターではない。抽象的な意味ではなく、ひたすら具現的な意味で。

能登くんの枕元にCDプレイヤーは置いてなかった。ますます100円中古CDの意味がなくなっていくのである。


8月23日/大橋巨泉トリビュートライブ

先日、友人数名と「めしべ国際シンポジウム」を開催した際に「鈴木あみは日増しに可愛くなくなっていく」 という議題が満場一致で可決された。
主観が強く反映され、一朝一夕では結論が出ないアイドル問題の線引き。 その前の「一番いい匂いがしそうな女性は誰か」という議題では、興奮してビールのピッチャーを倒した者まで現われ、 団体の公共の利益を著しく損なうという理由で退会の運びとなったほどだ。彼には三千円を置いて帰ってもらった。 ちなみに議題の正解は「TBSの進藤アナウンサー」である。
そんな状況にもかかわらず、鈴木あみ問題が見せたコンセンサスの固さはどこから来るのだろうか?
まず重要なのは、誰もが「鈴木あみはアリ」思想を一度通過している点である。
一時期、鈴木杏樹美人節がもてはやされた時、目を覚ませ!奴の肌質は石だ!と世間に警鐘を鳴らし続け、 たまごっちにもベルギーワッフルにも動じなかった、本物の真贋を判別できる私である。「猿岩石日記」は買ったが。 周囲がどれだけ動物占いに浮かれていようが、存在すら認めなかった私である。「続・猿岩石日記」も買ってしまったが。
しかしその私ですら鈴木あみ擁護派であった過去は否定できない。
それでは自らの鈴木あみ歴を検証してみよう。
・鈴木あみ潜伏期(1998年春〜1999年初春)
声帯にまでエフェクトがかかっている栄養失調児・小室哲哉氏からモノが違うと (小室氏は「ミョノガチギャイマシュヨ」と発音)まで絶賛されてデビューを果たした彼女の存在を、私は無視していた。
単純に「ASAYAN」を見ていなかったのと、私が一時期金銭的に支援していた未婦人団体において
「あいつー、堀越の前に栗高いたんだけど(鈴木あみの出身は私と学区が同じ座間の栗原高校だった)、 (す)っげー、性格悪いんだってー、超ムカツクー、ロシアの沈んだ船はクルスクー」
とよくある地元情報を複数から耳にしていたせいで、女性は性格のみを重視する私にとって興味も湧かなかった。
・鈴木あみ疾病期(1999年春〜1999年秋)
テレビでを歌っている姿と写真誌のグラビアで彼女を見た私は、 「こんな愛くるしい娘が性格が悪いはずないじゃないか!大体あの悪口言ってた奴等は請求額だって違ってたし・・・」
と確信し、一気に「鈴木あみ=アリ」論者へ変貌を遂げる。
決め手は「Be together」の露出の多いコスチュームと、フライデーで盗撮したブルマ姿だった。
サラサラした髪質と尖った口先が小動物のように可愛く、 深田恭子とメール交換していると知った時はその中に入り込めないかと真剣に悩み、 それが駄目なら妹として迎え入れても構わないと思いつめていた時期である。
・鈴木あみ収斂期(2000年冬〜何も言えなくて、夏)
鈴木あみの新曲に前ほどの爆発力がなくなり、その回数も落ち着いてきたメディアへの露出をたまに目にすると、 「何か最近可愛くなくなったような・・・」と感じるようになる。 とはいえ彼女の容姿に大きな変化は見られないので気のせいだと一蹴していた。
だが私の論旨に同調する識者は多かった。日増しに何かツキのようなものが落ちていくように見えると。
しかし鈴木あみは「落ちた」のではないだろう。
少女から大人への過渡期の旬をメディアで売ってしまった故に、 大人の完成形に近づく彼女に喪失感を覚えるのだと私は考えている。
まるで今の鈴木あみは見えない羽衣を脱いだようだ。
そう思っていたら、テレビでクーラーのCMに出てくる鈴木あみは明らかに頬の肉がつきだしていた。 瘤と呼んでも差し支えないかもしれない。 「あみーご、ファンレターはぜっんぶ読んでるよ!」とか、すごい嘘をついた罰なのではないか。

8月22日/ホームチームのボケの方がK1参戦かと思ったら、レイ・セフォー

僕にとっての2000年最後の夏が終わっていきます。
今年も僕は2000年最後のブラウン管で、白球を追う2000年で最後の君達の姿を見つめてきました。
君達はこの甲子園のグラウンドの上で笑った。そして泣いた。拳を突き上げた。 ロージンバッグがない時は汗で湿った陰蓑をつまんだ。ロージンバッグが見つかっても陰蓑はつまんだ。
感情を剥き出しにするのは、決して恥ずかしいことなんかじゃない。それは貴重な経験なんだよ。 僕だって26歳でセミナーに通うようになって初めてそれに気がついたんだ。
今年も感動をありがとう。お父さんお母さん僕を産んでくれてありがとう。
僕が今年見た中で一番印象に残っているチームは沖縄の那覇高校です。
すごいみんな個性的だった!片足を思い切り上げたり、背中を思い切りまるめて球を待つ変則的打法のバッター ・・・沖縄という存在だけで十分変則的なのに、打法まで変則的なんて、すごいよ!
沖縄の選手は名前も生い立ちも卒業式のいざこざも本当に全てが個性的で、見ていて気持ちよかった。
那覇高校の主将がインタビューを受けてたけど、中日の井上をさらに垢抜けなくしたような 都会ではまず見れない種の顔をしていたね。ヒト目オキナワ科なのかな?その朴訥さ、忘れないでほしいと思うんだ。
僕が甲子園に足を運ぶ理由は、大人たちが忘れているひたむきなプレーを見れるからなんだ。
みんなもちろん24時間テレビは見たよね?僕は実家に帰れたら標準録画したビデオを見直すつもりなんだけど、 今年は全国の小学校で長雑巾がけを競ったんだよ。
20人ぐらいが一斉に横に並んで特別使用の長い長い雑巾をかけてスピードを競うという、 くその役にも立たない競技なんだけど、そのくその役にも立たないことに打ち込む小学生のひたむきさ!純粋さ!
ある小学校ではクラスで選抜メンバーを決めるため予選をしたんだけど、 タイムが優れなくて選ばれなかった純くんという男の子がいたんだ・・・ その時点では僕はテレビ局に差別はよくないって電話しかけたんだよ!
でも本番の生中継を見たらレポーターの女性が、
「先程のVTRで選ばれなかった純くんですが・・・見てください!実は今日正式メンバーに加われたんです!」
なんと雑巾に手をかけた純くんの晴れがましい笑顔が画面いっぱいにアップになったんだ! やったね、J・U・N・K・U・N!でもレギュラーから外された子供に関して誰もツッコまないのかな?
まあ、いいや、感動したんだから!感動をありがとう!感動をありがとう!感動をありがとう!
こんなに興奮していたら僕、オリムピックが始まったら死んじゃうよ!
黒い人たちが水の中で泳ぐ光景なんて想像できるかい!? クソー、サッカーの試合なんて球じゃなくて劣等民族を蹴ればいいんだよ畜生!
ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。 施設でテレビが見れるのはここだけだからここは追い出さないでください。もうしません。
そろそろ甲子園の決勝が始まります。君達はかけがいのない瞬間を生きているんだね。 悔いのないように、一球一球に今までの全てをぶつけるつもりで頑張ってください。
これが終わったら大学二部の受験にひたむきに!無計画な上京にひたむきに! 階下に親がいる彼女の部屋での性行為にひたむきに!心から応援してます。
ついに試合開始のサイレンが聞こえてきました。ドキドキするなあ。
違いました。食事の時間のサイレンでした。

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