バックナンバー・練乳工場(9月上旬)


9月9日/保谷市長の名前は保谷。田舎か?

ダカーポを読んでいたら、ギャルママの特集があって暗澹とした気持ちになったのである。
俺は別に彼女たちの生態に特別な感情は持っていない。 それどころか、ガチンコ大相撲をした落とし前に子供を産むのは偉いぐらいに思っている。
問題は、名前だ。
ギャルママ座談会に出席したギャルたちはとってもラブリーVな、 ハートマーク変換できないから代りにVだ、キッズたちを連れてきている。名前を挙げると、
「珠梨音」「海羅」「むさし」。
予想はしていた。覚悟もしていた。でもこれでは戦死していった兵隊さんに会わす顔がないであります。
「珠梨音」は中国から来た留学生のフルネームでもなく、「たまなめねえ」でもなく「じゅりね」と読む。
「海羅」はルビが振っていなかったが、「かいら」ではないか?東邦映画の怪獣みたいな名前だ。
そして今回俺が一番嫌な気持ちになったのは「むさし」だ。いやだ。ああいやだ。 蛞蝓が詰まった浴槽に冷えた尻から入浴するようなこの触感。これなら「634」の方がいい。 「GO!GO!7188」の方がまだいい。「ジェットにんぢん」、何回聞いても「ジッタリンジン」にしか聞こえない。
それにしても最近の命名はあたりの柔らかい、ひどくすべすべした響きを当て字にする傾向だが、 「むさし」のように古い名前を平仮名にすることで再生する手段があるとは思わなかった。 トゥナイト2に出てくる「小久保とものしん」もこの手か?さては「若人あきら」も?杵屋の「源平うどん」も?
少し前に新聞で読んだのは、最近命名された兄弟で「空駆(かあく)」と「星駆(まあく)」。
おえーッ。うおおおえーッ。嘔吐くよ俺は。嘔吐くって漢字でこう書くのか。それにしても、おえーッ。SPORTS,OH,YEAHだ。 Jリーグ元年に生まれた「蹴人(しゅうと)」、2000年生まれの「美礼仁亜夢(みれにあむ)」を押えてすごい名前だ。
しかし一文字一文字端正に考えて命名しましたという名前ほど、疲れるものはない。 あたりこそ柔らかいが、ひどくべたべたした印象を受けるのだ。 その子の人生に必要以上に関わろうとする親のエゴ、品のなさを感じるのは俺だけだろうか?
俺の小学校で同級生だった森の親父の名前なんて、名簿を見たら「注連男」だった。 多分注連縄から由来した「しめお」と読むと思われるが、注連縄の意味にめでたい以上も以下もあるまい。
かかりつけの町医者の石垣先生なんて「十一郎」だ。なぜなら十一男だったから。十一番目に生まれたから。
さらに弟が最後の子供だってことで「留男」。それが次に子供生まれてしまって「留次」。 以下「留次びいき」「ハリーポッタと留次の石」「留次あなたも生きぬいて」等々。 しかし「留次」。扶養する気ゼロ。 ちょっと大きい笹の葉に乗せて川に捨てても誰も咎めないだろう愛の希薄な名前だが、潔い。
だが名前なんてその程度でいいのではないか。二文字あるうちの一文字にそれなりの意味を込めて、あとはだらだらで。 三文字全部に意味を詰め込んだり、コンセプチュアルな命名は、人生を息苦しくさせて少年犯罪を増加させるに違いない。本気でそう思う。
俺は男の子を授かったら、「正一」にしようと決めている。学級委員の決戦投票を行った際に大抵黒板に正の字を書いていくが、 「鈴木正一」ならスタートの時点で6票リードできるという、ただそれだけの理由で。

9月7日/愛をください。印税もください

9月8日/渚にまつわる瀬戸朝香


逆ギレ講座初級編

みなさん、こんにちは。逆ギレ講座初級編。講師の鈴北久美です。
さて最近巷で話題の「逆ギレ」。若者特有の文化と思われている方が多いようですが、そんなことはありません。
やり方を正しくマスターすれば、中高年の方でも周囲に迷惑をかけることなく楽しむことができるのです。
歴史を紐解いてみても、紀元前に古代エジプトが形成されたと言われるトテ・チテタの戦い(BS・2〜3CH)も、 その源はナイル川王のイタクナッタ・ラ・スグセデスの逆ギレにあるというのが定説ですし、 最近ではニュースキャスターの森本穀郎氏が不倫が発覚した際に記者会見で、
「不倫は文化だ!(号泣)」
と言い切ったのは、逆ギレとは直接関係ありませんが非常にマヌケな発言なので覚えておいて損はないでしょう。
今回「逆ギレ」の概念が分からないという方から多くのお便りをいただきました。 特に50歳以上の方と未熟児、植民地気分で来日しているヨーロッパ系モデルに理解できなかった割合が高かったようです。
それでは「逆ギレ」とは何でしょうか?
みなさまからいただいたお便りを元に、正しい「逆ギレ」を判断していきたいと思います。
・駅の売店でスポーツ新聞を買おうと思い1万円札を出したら、 キオスクのおばちゃんに馬乗り状態でボコボコパンチを浴びた。(北海道蝦夷市・雲形定規)
これは「逆ギレ」ではありませんね。ただの「逆上」です。
・借りた艶ビデオの内容が納得できなかったので、レンタルビデオ店に火をつけた。(秋田県股木郡・涸れ井戸すこうぷ)
これに至っては「逆上」というより、「放火」です。
・プロ野球を見てたら、デットボールをあてられた打者がマウンドに駆け寄り、なぜか怒った投手に返り討ちにあった。 (大阪県近鉄市・デービス)
素晴らしい。ようやくまともなのが出ました。これは正しい「逆ギレ」と言えます。
あとで詳しく説明しますが、この投手が「なぜか」怒ったというのが非常に重要な要素になってます。
・プロ野球を見てたら、デットボールをあてられた打者がマウンドに駆け寄り、なぜか怒った投手に返り討ちにあった。 そしてベンチからトンファーを手にした星野監督が現われた。(中日県福留市・タイムリーエラー)
なんですか、トンファーって?中日県は中部県の間違いではないですか?
如何でしょうか?おぼろげながら、「逆ギレ」と「放火」の違いぐらいは分かったのではないでしょうか?
それではさっそく実践編に移りましょう。


かなりの初心者でも簡単に出来る逆ギレは「待ち合わせに遅れる」です。では以下の症例を見てみましょう。
・待ち合わせ時間にあなたは5分遅れて到着。先に着いていた友人は明らかにイライラしています。
何となく気まずい空気のまま、喫茶店へ。友人はあなたが遅刻したことをネチネチと責め、 しまいには一番触れてほしくない夜尿症のことまで口にします。
そこであなたは「俺のことは悪く言ってもいいが、夜尿症の悪口は言うな!」と激怒し、 コーヒーカップの中身(コーヒー豆)を友人の顔にぶちまけます。

ここまで読んで、ああこれなら出来る、これくらいならやった事がある、 ここ十数年毎朝かかした事がないと胸を撫で下ろした方は多いのではないでしょうか? 成人男性にとって夜尿症は一番の人に言えない悩みですからね。
しかし残念ながら、これは「逆ギレ」ではないのです。
まず待ち合わせに遅れた時間は5分。これは場合によっては責められない程度の時間でしかありません。 これでは逆ギレに必要とされる「罪」が発生しない可能性だってあるのです。
そして相手があなたの遅刻に無関係な弱みに言及したこと。ここであなたには十分怒る資格が与えられました。 つまりこの状態で怒るのは「逆ギレ」ではなく、ただの「ギレ」です。
それでは次の症例を見てみましょう。

・待ち合わせ場所に1時間遅れてきたあなた。相当イライラしている取引先の足元には大量の吸い殻の山が積もっています。
「すいません!こんなに遅れてしまって・・・」
「ちょっと、鈴北さんねえ。どれだけ遅れたと思ってるんですか、あなた?」
「何だ、オラ!?ブッ殺すぞ、この定時制あがりが!」

見事です。「逆ギレ」に不可欠な「理不尽」が躍動するように満ちあふれています。
先程の症例に比べて相手が友人ではなく取引先という点にも注目しましょう。
そしてこうした場合、遅刻の原因は「電車が事故で止まってしまった」「起きたら待ち合わせ時刻だった」 のようなその時点では不可避の理由でなく、「床屋に行っていた」「見直したビデオが思いのほか面白くて」 「向かいの喫茶店で取引先の様子をずっと見ていた」のような投げやりで、敗訴間違いなしといった理由が「逆ギレ」を一層際立たせます。
またさらに上級になると、「遅れてすいません!」と取引先に駆け寄りながら、 その助走の勢いを利用してジャンピング・ニーという手段もあって、怒りを溜め込んだ相手の意表を突いて与えるダメージも大です。
しかし初心者がやると逆ギレなのか、ただのわんぱくなのか判別が難しいのでここではお薦めしません。
時間となりましたので今回はここまで。それでは次回までの宿題です。
「下着を盗んだ罪を咎められて、盗みに入った家族を虐殺」
少し初心者には難しいかもしれませんが、盗んだ下着を頭にかぶって「俺は何もしてねえのに、ヂグジョー!」 と泣きながら純粋さをアピールしつつ殺戮をくわえていくことで、通りがかりの人にも 「お、これは見事な逆ギレだねえ・・・」と認知してもらえることでしょう。
テキストは全国の書店で販売中です。それではまた来週。


9月5日/墓石ドミノをよけたら火葬炉に墜落

日比谷野外音楽堂に行ってきた。初めてバンド形態で生演奏をする中村一義を見るためである。
スペースシャワー主催ということで複数のバンドが登場する、要はロックフェスティバルの形態であった。
会場には私が「第三文明」と同じくらい敬愛する雑誌「ロッキング・オン・ジャパン」のフェスティバルで売られていたと思われる 「ROCK FESTIVAL JAPAN2000」とプリントされたTシャツを着た人を多数見かけた。 要するに日能研カバンみたいな集団性を誇示する道具であるらしい。
それにしてもロックンロールを理解していない輩が多すぎることが、私にとって苦痛になっている。
10年前エコーズが解散する時に辻仁成先生が「ロックは死んだ」といった時点で、ロックは死んだのである。
芥川賞受賞の際「日本語を守る」と豪語していた辻先生のことだから、 いつか筆を降ろす時に「日本語も死んだ」というのは間違いない。 (他にも離婚する時「南果歩は死んだ」、ドラマ終了時に「菅野美穂は死んだ」、街で双眼鏡片手に「川村かおりはどこだ」 と公式に発言している)
私が確認しているところでは、日本にロックンロールが存在したのはたった2回しかない。
10年前エロ雑誌「宝島」で、ダイヤモンド星印乳業ユカイという専修大学卒のロックンローラーが、 自身のバンド解散のインタビューをホテルのスイートルームでバーボン片手に語っていたのが1回。
そして先日NHKの「ポップ・ジャム」において、 ラルク&シェルのギターの人(尊敬の念を込めてギタリストとはあえて呼ばない)が煙草をくわえながら演奏していたのがもう1回である。
公共放送なのに堂々と煙草を吸う反骨精神。 別にライブハウスの演奏でもないスタジオ収録で、本番に合わせてわざわざ吸い出したとしか思えない絶妙なタイミング。 さらによく見ると煙は立っていない気遣い。ロックンロールを見た。これならママも心配しない。甘くないのにシュガーレスだ。
あと「僕らは音楽がないと生きていけない」とモノクロ撮影で渋く語っていたTOKIOが、 つんくプロデュースの「みんなでアッハッハ、こりゃオッホッホノホ」を歌っていた割り切り方もロックだったし、 最近ジッタリンジンのコピーで世に出たホワイトベリーというブラスバンド部有志みたいなバンドも、 このまま成長すれば2年後にはロックンロールになっているだろう。
そういう訳で日本に存在したロックンロールは過去4回しかないのを知らずに、誰もが声高にロックを語っている。
さてフェスティバルでは初っ端からスリーピースの爆音ギター、 それに中学校の英語教科書に出てくる文章を叫ぶいわゆるラウド系バンドが登場したので、 私はいきなりおなかが痛くなったがこれも勉強と思い耳を傾けた。 しかしその後ハイスタンダードのコピーバンドが40組も続いた時には、心底おかあさんのおっぱいが飲みたくなった。
そのうちバンプ・オブ・チキンという人気があるらしいバンドが出てきて、 「立たないで聞いてる奴、ムカつくんだよ」とかひどくイキがったMCをするので、 さだまさしの終戦記念日長崎コンサートしか参加した事がない私はひどく不安になったが (まっさんのトークに下ネタはないし、最後は国旗掲揚しながら「防人の歌」を大合唱するので、家族揃って安心して行ける)、 その後大甘なメロディにのせて、歌詞のサビで「愛する人を守るため」というガッチャマンのようなフレーズを歌っていたので、 悪ぶってるけど本当はいい人たちなんだなと安心して座ってウォークマンを聞いていた。
やがていくつかのバンドの演奏が終わり、日もとっぷり沈んだ夜8時。中村一義はその小さな姿を現した。

ロックンロールとは何かなんて知らないし、興味もない。
確かなのは明日はこのホームページが更新しないことだけだ。 なぜなら私は中村一義のニューアルバムを繰り返し聞き続けているだろうから。


9月4日/包茎は原点回帰とは言わない

窓の下に東京の夜景が広がっている。銀の砂が風で舞う暗いリオデジャネイロの海をぼくは思いだしていた。
さっきからぼくと彼女のワインは減っていない。ぼくのお気に入りのシャトー・ラトゥールの78年もの。 気詰まりな空気がグラスの下に滓と一緒に沈殿していくみたいだ。
「これ」彼女が封筒を差し出した。中身を開けると、1万円札が見えた。
「何これ」
「こないだのお金。ご馳走になったし、それに――」
「みなまで言うなよ。あれはぼくのおごりさ。君はロハでいい」
しばらくぼくらはシーソー・ゲイムのようなやり取りをしたが、諦めた彼女は封筒をバニティ・バッグの中にしまった。 それは思い出をしまうというようなセンチメンタルな行為ではなくて。
「でも」
「でももへちまもあるもんか」
「でもね、貸しを作ったなんて思わないでほしいの」
「ああ――もちのろんさ。きょうび一度おごったぐらいで、そんな事は思いやしないよ」
二人は各々のディナーを再開した――黙々と。錫のフォークとナイフだけが遠慮がちな会話をしていた。
ぼくらはどうしてこんなになってしまったのだろう?いつからかぼくは彼女でない女性を愛して、 まるでロールシャッハ・テストの呼応する図版のように彼女もぼく以外の男性を愛するようになっていた ――それだけのことなのだろうか?
「もう終わりね」
ぼくはアカデミー賞を逃した男優さながら肩をすくめてみせた。
「そうかもしれない。そしてそうでないかもしれない。兎に角、ふたりは花の独身貴族に戻るってやつさ」
「独身?あなたはいつまでチョンガーでいるつもりなのかしら」
「君の方だって、お盛んらしいじゃないか――あの、へちゃむくれとね」
彼女は口に運んでいた冷えたクレソンを皿の上に力強く叩きつけると、コンソメゼリーが小さく揺れた。 彼女の頬に石榴のジェリーのように赤みがさしているのが、はっきりと見えた。
「ひどいわ。何よ、ひょうろく玉って」
「そんな事は言ってない。ぼくはへちゃむくれと言ったんだ。気を害したなら、あやまる」
「ちゃんと――ちゃんとあやまってよ!」
ぼくは彼女が一歩も引かない気配を感じたので深く頭をさげて、言った――
「あいすいません」
感情を必至でコントロールしようとして、彼女は横を向いてしまった。 ぼくは聞こえないように「くわばら、くわばら」と呟くのがやっとだった。
彼女の動揺は手にとるようにわかった。滞仏経験もある彼女が――今でもぼくには信じられないのだけれどーー ピュイ産のレンズ豆スープにライ麦パンを浸して食べはじめたのだから!
「よせよ。ずぼらこくなよ」
彼女は涙を浮かべた瞳をぼくに向けて、ジャンヌ・ダルクを彷彿とさせる毅然さで言い放った。
「ずぼらなんか――こいてないわ」
沈黙をパートナーにディナーを終えて、デザートにぼくはガレットを、彼女はブラジルプリンをオーダーした。
「今まで楽しかったわ」
「それは君だけじゃない。ぼくもこれで終わりなんて残念だ。残念至極だよ」
「いつか」彼女はサマー・スクールを待ちわびる少女のような遠い目をして、言った。
「いつか、あなたをぎゃふんと言わせてやるわ」
「合点だ。合点承知の助だとも」
「お客さま、コーヒーのおかわりはよろしいですか?」
髪がいたんだ女子高生のアルバイトが雑にカップにブレンドをついでくれた。
うつろう夜景の中、前方の市民公園で家族連れがロケット花火を打ち上げているのが見えた―― いつかはぼくらもあんなファミリー・ドレイマみたいな家族を目指していたんだな、と思うと胸がちくりと痛んだ。
その光景が、夏とロイヤルホストのフランス料理フェアの終わりを告げているようにぼくには映った。

9月3日/トゥナイト2で乱と辻のツーショット。そのオーラ!

行けなくなったという理由で友達から試写会のチケットを譲ってもらった俺は有楽町まで足を運んだ。
メル・ギブソン主演の独立戦争を舞台にした映画、「パトリ夫」。その前に行った試写会はオリバーストーンだった。 無料の前に主義も主張もない。
上演開始して1時間経っても主役の女性が出てこなかった。おかしいな、と思って気がついたのだが、 俺はまったく冗談抜きでメル・ギブソンとメグ・ライアンを一緒にして考えていたのだ。
幼児期に太った黒人の家政婦(もちろん名前はアマンダ)に虐待されたトラウマからか、 俺は外国人俳優が見分けがつかない、そして名前が覚えられない。 キャメロン・ディアスとマット・デイモンのどちらが男か、とみのもんたに「クイズ・ミリオネア」で聞かれたとしても、 俺は会場アンケートを使う権利を行使してしまうことだろう。 この二人に元ロッテのディアス(腕相撲チャンピオン)が乱入したら、いよいよ自信はなくなってくる。 ここ10年近鉄にいた黒人助っ人カルタをやっても、勝つ見込みはまったくないのである。
この話はいつかするとして、さらに俺の知人には「洋画を見てもどの国の映画かわからない」やつがいる。 つまりやつの頭の中には「日本語で喋る映画」「そうでない映画」「角川映画」しかカテゴリーが存在していない。
そんな事を思い出していると映画は終盤にさしかかっていて、主役のメロ・ギブスニが戦場で国旗を振り回していた。 メリケンの愛国嗜好にいささかうんざりしながら、マッカーサーを意識してコーンパイプをくゆらかす俺の頭の中に閃くものがあった。
洋画を見分ける方法が形になって浮かびあがっていた。俺が見つけたのは、
「エンディングにスプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」を流して違和感がない映画はアメリカ映画」であると。 思い出してほしい。「ロッキー」「メジャーリーグ」「プラトーン」見てないけど「アルマゲドン」、どれもお似合いではないか。
「地獄の黙示録」で沼からカーツ大佐が現われたところに「ボーン・イン・ザ・USA」。
「ディア・ハンター」で拳銃で頭をフッ飛ばされたところで「ボーン・イン・ザ・USA」。
スーさんが釣り竿磨いてるところに「ボーン・イン・ザ・USA」。ナイスミュージック。ああナイスミュージックじゃあないか。
さらに見分け方の応用も考えた。子供がやたら出てきてボロ球でサッカーを始めたら、スウェーデン映画。
子供がやたら出てきてボロ球すら出てこない程貧乏だったら、イラン映画。
なんかよく分からないが女が壷を持って二点を往復していたら、アルメニア映画。
プールサイドで胸の薄い少年二人が「おまえんとこに来た家政婦、もうヤッたか?」「そんなんじゃないよ、バカ」 みたいな会話を交わしていて、初心なボクの方がオペラグラスを取り出してぼんやり眺めていると、 メッキ加工したような美尻を発見。焦点を上げていくと淡い心を抱く家政婦と父親が水着でイチャイチャしていたら、イタリア映画。
美尻が振り向いてダンプ松本だったら、「毎度おさわがせします」である。
さて試写会が終わり、俺の横で焼きそばを頬張ってたおばさん二人組が(お祭りなのか、これは?)、 「まー、最後無事でよかったわねー、んー」と感想を漏らしていた。
それ以上でもそれ以下でもない、ハリウッド映画の帰結がそこにあった。

9月1日/フリードリンクコーナーにもずく

夏!海に謎の漂着物!山に節の多い虫の群れ!そして僕らのシドニーオリムピックがすぐそこに!
ということで僕なりのオリムピック記念で最近のプロレスの小ネタをいくつか。

大仁田厚が創設したFMWという団体がある。 アメリカンプロレスのようなギミックに重きを置いた(サンタを信じる無垢な少女が見ても打ち合わせと分かる展開) エンターテイメントプロレスが身上なのだが、 この団体はAV男優とか団体の社長とかレスラーでない人が平気でリングにあがるのも特徴の一つだ。
先日はカナダの人気ミュージシャンと称する、××船から脱走してきたような胡散臭いキャプテン・ジャックなる黒人が登場し、 なぜか、まったくもってどういう経緯か不明だが、FMWの闘いの輪に加わることをリング上で表明した。
客席のプロレスファンはリングに上がる黒人はロッキー3に出てくる挑戦者しか知らないので、 「あれは誰だ?」と騒ぎ出した。カナダ人ならキャプテン・ジャックを知っているかといえばそれも疑問ではある。
そこでリングアナが名前を紹介し、「彼の本業はミュージシャンで、レスリングは素人ですが・・・」と説明すると、 なぜか、まったくもってどういうわけか、キャプテン・ジャックは「素人」という単語に素早く反応し、
「テメー、今俺のことをアマチュアと言いやがったな!ふざけるな、ブッ殺す!」
と英語でまくしたてた次の瞬間ブチきれて、リングアナを押し倒し鉄拳制裁を振り下ろしたのである。これは危険な状態だ!
だがその台詞まわし、リングアナへの攻撃、どこから見ても「素人」を純粋抽出して体現した以外のなにものでもなかった。 「素人の完全体」という言葉が頭に浮かぶ。
特にリングアナをボコボコにするフォームはどう贔屓目に見ても、空気の抜けたダッチワイフに腰を振る童貞にしか見えなかった。

先日ヒクソンに負けて引退を表明した船木誠勝率いるパンクラス。 船木はヒクソンには負けたが、額の狭さと金髪の不自然さでは世界トップクラスのレスラーであった。
その格闘技指向の強い団体に富宅という中堅レスラーがいる。
僕はパンクラスの試合を見たことがないので正確な事は分からないが、雑誌で見る限り勝った試合の印象が薄い選手である。 大抵力をつけてきた新人に苦杯を喫し、怪我をして長期療養して、復帰戦をしては感動して号泣している 彼が漂わせるイメージはベテランというよりもロートルのそれに近い。
そして昔は富宅佑輔という名前だったはずなのだが、いつのまにか富宅飛駆(たかく)に名前が変わっていた。 巨人の野村が貴仁を空生と改名したのもどうかと思ったが。それに空生っていまだに何て読んでいいのか分からない。 そういういかにも想いを込めた改名が物哀しいなあと思っていたら、それだけではすまなかった。
レスラーの入場音楽は士気を高めるせいかハードロック系が多い。もしくは蛇メタ。ボンジョビとかハノイロックスとか44マグナムとか。 例外で思いつくのは藤原喜明の「ワルキューレの騎行」だが、そういうクラシックも趣き深いものだ。
しかし富宅が入場テーマに選んだのは「タクシードライバーのテーマ」。どうしろというのだ?
万が一対戦相手が「ディア・ハンターのテーマ」だったら、間違えて追悼のテンカウントゴングを鳴らしそうになるだろう。
冷静に考えると俺を撃って葬ってくれというメッセージだろうか?こんなに哀しいレスラーを僕は他に知らない。

IWAジャパンという非常にジャンクな団体があって、 僕の地元に来た時はジェイソンというレスラーがチェーンソーを振り回しながら会場を2周して客を蹴散らし、 ファイナルマッチでは上田馬の助とターザン後藤がフォークと包丁でフェンシングをしてくれた (正確に言うとフェンシングではないが。それ以前にプロレスでもないが)、プロの在り方を熟知している団体である。
数年前、その川崎球場大会に友人が足を運んだ。 そこに登場したのはザ・シーク。職業、趣味、特技、性別、今日のラッキーカラー、その全てが「反則」と言っても過言ではない、 肉体が水分と鉄分と反則で形成されている御仁である。
入場するや客席に飛び込み、椅子は投げるは、客を竹刀で追いかけまわすは、本部席の机壊すは、セコンドを試合前に流血させるは 球場というビッグイベントを意識してかシークはノリノリ。 リングに上がるまでたっぷり30分もかけるベストテイクといっていい内容だったという。
そして仕上げにリングで火を一吹き。火はよせと注意を促すレフリーをシークが、ほんのちょっと軽くこずいた。
手を出されたレフリーが反則負けを告げると、ゴングが鳴って試合終了。
スタジアム中が「今までのは反則じゃなかったの?」と椅子からずり落ち、 全ての客の頭がガクッと下がった瞬間、遠くからは川崎球場が地盤沈下したように見えたという。
この話は僕の中で「とっておきのいい話」に分類されている。


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