バックナンバー・練乳工場(9月下旬)


9月29日/家系ラーメン「愛犬家」

総評
先生は悲しい。予想はしていましたが、先生は悲しい。
前回発表しました「妄想恋愛ポエム」。 執筆依頼したところ、「そうだな。じゃあ、矢部美穂で書いてみるよ・・・」 とおそろしく不安な女性観を言い残したまま音信不通の森田慶二君(26才・職業・リクシャ引き)を除いて、 数多くの作品をいただきました。
その中にはようやく標準点に達する作品も見られました。例えば、
・「太腿に頭を乗せた若村麻由美に目薬を一適垂らしたい」(26才・職業・ファイザー製薬)
NHK朝ドラ出身女優は使い分けが困難です。沢口靖子は無機質すぎてドラマ性が薄いですし、 古村比呂は地味すぎて顔が思い出せませんし、川島なお美はミスDJ出身だからダメです。
そこで若村麻由美。実に正しいチョイスです。色白で巨乳で太股にのせても安定感がありそうです。
・「仕込みから丸一日かけて、腕を振るった料理を上原さくらにふるまい、 「何これ? まっずーぅい。」と言われたい」(27歳・職業・春画家)
自分の苦手分野を奔放な女性に否定されるのは、男の醍醐味です。 しかし上原さくらレベルがなじっていいのは料理までであって、これが薄給を小馬鹿にするようであれば、 即アックスボンバーでベルト剥奪です。 金銭、人生観を馬鹿にして許されるのは黒木瞳以上の美人に限られます。
・「本上まなみとドライブしてて、車庫入れで腕を助手席に乗せて後ろ見てるとき ストンとその腕に顔を乗せて「私もそんだけ真剣にみろよ」って言われた」(26才・職業・阪急交通社勤務)
素晴らしい作品です。非の打ちようがない。他の人は語尾が「たい」と願望であるのに、 彼だけ「た」とまるであった出来事かのように一人で妄想の校庭を駆け抜けてます。
ちなみにこれは実話ですが、彼はHする時に彼女の顔に本上まなみのグラビアを貼り付けて、 2週間口をきいてもらえなかった実績の持ち主です。最低です。
ここまではいい。ここまでは許せます。以下が上記の作品を台無しにする愚作の数々です。
「大橋マキを肥溜めに突き落としたい。それでも笑ってたら馬糞をくらわす」(26才・職業・砂金すくい)
突き落としたいねえ、大橋マキ。笑ってれば世間が味方につくと思ったら大間違いだぞ! 大体なんだ、「大橋マキ、今日も元気です!」ってプロ野球ニュースと関係ねえじゃねえか!
先輩、やるッす。やるッすよ、俺!!
駄目です。いけません。投稿者はこのポエムの趣旨を早く理解してください。
・「ジャックダニエルを一本あけて彼女に電話をして、「I love you」と言う。 そしてその答えが、「Me too」だった日にゃー」(27歳・職業・わんぱくざかり)
これ説明するとですね、投稿者が学生時代自宅でウイスキー飲んでたらいい気分になって、当時つきあってた女性に電話かけて おもむろに「I love you」って言ったらしいんですよ、英語で。日本人が日本人に。英語でね。
そうしたらシラフの彼女が「Me too」ってヌケヌケと答えたという話であって。実話です。 馬鹿でしょ?どう考えても馬鹿でしょ? 要はキチ・ガイ同士がつきあってた訳なんですけどね。
それにしても語尾の「だった日にゃー」が私をますます不愉快にさせます。次。
・「中国の文革で江青に裏切られることによって永遠の愛を成熟させるのです」(28才・職業・コッポラ一族)
・「最相葉月に乳ビンタされたい」(26才・職業・宮大工)
あまりにも私とセクシュアリティーがかけ離れているので、コメントする気にもなれません。
前者の宣教師口調は何ですか? 後者は前回の投稿同様、乳ビンタなら誰でもいいんですか? 二人とも二度と投稿してこないでくださいね。
・「300年伝わる鰻屋の秘伝のタレの中に全裸でダイブ」(27才・職業・吸い殻拾い)
そんなことをしたら怒られると思いますよ。それに文面に女性が登場しませんね。彼は私が責任をもって殺しておきます。
先生は疲れました。今後の精進を期待してます。ネタではなくて本当に投稿は受けつけているので、 妄想自慢・分裂症患者の男子はメールください。また次回。

9月28日/チューハイ2本でブコウスキー気分

完全に経済的な理由から自炊をしている。
先日夕食を作って箸をつけようとした時、ある光景を思い出した。
近くの弁当屋がサービスでのり弁を240円で売っていたのだ。それに対して、私のメニューを眺めると以下の通りだった。
・ご飯/5キロ2000円を40杯ぐらいで食べるので、1杯50円
・鶏と葱のオイスターソース炒め/鶏60円・葱は60円の半分を使って30円。計90円
・カニ風サラダ/280円の半額になったのを買ったので140円
・鰹の刺し身・400円の半額になったのを買って、さらに半分だけ食べるので100円
・梅干し/実家からのもらいもの
である。合計380円。のり弁より140円も高い。
私は焦った。これでは自炊している意味が全くない。市販ののり弁に負けて恥ずかしいとは思わないのか? もちろん私ではなくて、料理たちがだ。汗が噴き出る。もう食事どころではなくなった。
まず私はサラダを半分だけ食べることに決めた。これでサラダは70円相当なので、計310円ということになる。 すっかり安心して「うたばん」で石橋のトークに涙を流して笑いながら箸を進めていると、ふと気がついた。
全然のり弁より安くなっていないではないか。
幸運なことに食べ終わっていたのは鶏と葱の料理だけだ。まだ間に合う。
私はさらにサラダのカニ風の部分に手をつけず、玉葱、キャベツだけで半分食べることにした。 カニ風サラダの資産価値の低い部分だけ食べることで、一気に固定資産を下げる常套手段である。 これは私の思惑通り、私はサラダに50円相当の評価を下した。これで計290円になる。
そして鰹の刺し身には備え付けの生姜おろしを使わないことにする。ストイックさをアピールすることで、 100円から50円まで持っていく作戦だった。
だが意外なことにこれだけでは80円までしか落ちないと言う。言ってるのはもちろん私だ。 私は泣く泣く刺し身に醤油もかけないことを決意して、鰹の刺し身を60円までポイントダウンさせた。
これで計250円。その差、10円。ようやくのり弁の背中が見えてきた。
しかし百戦錬磨の私は驚く程冷静だった。よく考えてほしい。私はのり弁を食べる時、 あの得体の知れない御新香みたいなやつは食べないことにしている。 あの皮膚化した角質みたいな食べ物の値段は、せいぜい20円と見ていいだろう。 つまり、私が240円ののり弁を買ったとしても、実質的な値段と20円の差額があることになる。 この時点で私の夕食250円に対して、のり弁260円。鮮やかな逆転勝利だ。まさに理詰めの鈴木の面目躍如である。
会心の笑みを浮かべながら、テレビで野猿のダンスをうっとり見ている私に衝撃が走った。
のり弁の御新香を食べないということは、それは評価が20円減なのではないか?
何ということだ。私の夕食、250円。のり弁220円。30円も開いてしまった。 こうなったら止むを得ない。私は残りのご飯に水をざぶざぶとかけて、ひどくどうしようもない状態まで持ち込み、 念には念を入れて、近くのスーパーで鰻を購入して梅干しと一緒に頬張り、 食いあわせの領域に突入にした時は、誰もが息を呑んだ。
私は勝負のためにここまで厳しくなれる自分が正直恐ろしいとさえ思った。
戦いは終わった。もう値段とか、そういう問題ではない。ノーサイド。まさに鈴木工史上に残る厳しい戦いだった。
さすがにのり弁もこの人には勝てないと思ったのか、私の前に現われて「あれは俺の勝ちだ」と抗議はしてこなかった。 当然負けたとも言ってもこないが。

9月26日/「高橋が剃毛したから」と嬉々として髭を剃る小出監督

部屋にいると呼び鈴が鳴った。国勢調査かヨネスケだろうと思って、ドアを開けると新聞勧誘員だった。
何たる不覚。しかしチェーンロックをしていてよかった。常にドアノブをアイロンで熱していた努力が報われたというものだ。
するとドアの隙間からコワモテのオヤヂが、あくまでも自分のペースで説明を始めた。
「お兄さんさあ、今、新聞取ってる?」
「いちご新聞と大衆紙・サンは読んでますけど」
「またまたー。じゃあ取ってないのね? 実はお願いがあるんだけどさあ・・・ウチ、Y新聞なんだけどね(1)。 昨日読売ジャイアンツ優勝したじゃない(2)? ヨ・ミ・ウ・リ。それで優勝のノルマがあるんだけど(3)、 今日一軒も客取ってないのよ(4)! 今事務所に本部から部長来ててさ(5)、まさか手ぶらでは帰れないじゃん! ネ、それはそうでしょ? 午後7時まで帰って来いって言うんだけど(6・その時丁度7時だった)、 助けると思って契約してくれないかなあ。あ、前ここに住んでた人はそれで助けてもらったんだよね(7)」
すげえ嘘!
もう、なんだ、ミスター・嘘。レッツ・嘘。ザ・嘘。ラ・九州。
100円ショップ・ダイソーの「ザ・布」とか「ザ・紙」とかのPOPの横に「ザ・嘘」と書いて置いても遜色ない嘘っぷり。 これを信じるほっぺの赤い日本人はまだいるのだろうか?
特に(3)(5)(6)(7)。「頭の体操」に出てくるウソツキ村住民ぐらい、歴然な嘘である。
真実は(4)ぐらいだろう。なんだか(1)と(2)も本当か怪しくなってくる。 本当か? 本当は産経新聞で、優勝したのは産経アトムスではないのか?
「ごらんの通りの億ションですが、実は僕、朝日の新聞奨学生なんです」
「母がナベツネに犯されたので」
「こんにちは、私、カンボジア系ベトナム人のシン・ブンです」と、さまざまな言い訳を考えたが、 ふざけると尻子玉を抜かれそうな雰囲気だったので、正攻法で「ダメです」と断わった。
すると勧誘員は急遽路線変更をして、新しい提案をした。
「じゃあ、これはどう? オレもこのまんまじゃまっすぐ帰れないのは分かるよね? だから、オレがお兄さんに3ヶ月分の新聞代を今ここで預ける!」
「はい? そのお金で契約したことにすればいいんですか?」
「・・・いや、いいんだよ。ただ預かってもらえれば」
ミスター・破綻もさらに襲名である。何を言ってるのか私にはまったく分かりません。 サー・破綻の称号もあなたのものだ。ザ・破綻。チェ・ゲバラ。の・ようなもの。
とにかくそのオヤヂが3ヶ月分相当だと言って置いていったチャカを、早く取りにくるように私は祈っています。

9月25日/少年法改正により、ホワイトベリー強制送還

近所の公園は小さな市民球場になっている。 そこで俺はジョギングをするのだが、その日もいつも通り40分きっかり走り終えて、バックネット裏の石段に腰を下ろした。
すると正面の約20メートル前方に、高校生カップルが唇を合わせてチュパチュパ音を立ててやがるではないか。 走りだした時にも見たような気がするから、40分もよろしくやっている計算になる。
これがアメリカナイズというやつなのか?それなら俺にも銃を売ってほしい。 それが駄目なら犬の散歩者から糞を低レートで買って投げつけてやろうかとぼんやり考えてると、 唇を塞がれた女とあろうことか目があってしまった。
まずい。これでは俺がベラカミショー見たさにここに座ってるみたいじゃないか! 断じて違うぞ。ここはいつも俺が座っているポイントなのだ。
あわてて目を逸らし、もういいかなと思ってゆっくり視線を戻すと、女はまだ俺を見ていた。
どういうことだ。最近の保健体育では、スッパカスッパカさえずる時は目をつぶることも教えないのか? そんなことはいい。とりあえず今は逃げたい。
だがここで場所を変えたら、「シャブリ合い見たさに座ったはいいが感づかれて逃げだす沖仲仕」に思われるのは必至だ。
冗談ではない。誰がおまえらなんて、おまえらのせめぎあいなんて、畜生ビリヤード台の上に押し倒してキューを使っておしおきしてやる、 でももうこっちを見てないだろうからそろそろ見てもいいだろと顔を上げると、女はまだ俺を見ていた。
気のせいか瞳には少し侮蔑が込もっているように見えた。俺はある想像が浮かんで恐ろしくなった。
もしやこいつは俺が40分ジョギングしたのはここに座るための前フリだと考えているのではないか? それで失せろと言いたいがためにしつこく睨んでいるのではないか?
ああ失せたい。オーバーオールのポケットに無造作に手をつっこんで口笛を吹きながらさりげなく消えたいよ。だがここで逃げたら 「レロレロ同好会見たさに前フリのために40分も走って座ったはいいが感づかれて尻尾を巻いて逃げる小作農」 であることを認めることになる。そんな勇気は俺にはとてもなかった。
恐怖のあまり膝をかかえて震えていたら、いつのまにかカップルはキュッパカキュッパカ総会を休止して、缶ジュースを口に運んで談笑している。
なんだ、今度は水分補給か?ネクターかオリーブオイルの小瓶だったらまさに潤滑油だなと思った途端、新たな不安がよぎる。
こいつらが缶をそのままにして帰ったらどうしよう?
俺は神経質なところがあって、煙草やキューバ葉巻のポイ捨て、自分以外の者によるゴミ収集を守らない行為がどうしても許せないのだ。 だからこいつらが缶をそのままにして帰ったら、ゴミぐらい持って帰れ!このおしべ&めしべ!と注意するのを抑えられないだろう。
だがそれはどう見たって「こすり合い見たさに前フリのために40分も走って座ったはいいが感づかれて逃げるに逃げれず 結局逆上したバーテン見習い」にしか映らないではないか? それは嫌だ。それだけは勘弁だ。
苦しまぎれに陰毛をちぎっては投げちぎっては投げていると、いつの間にかカップルは立ち上がって帰りだしていた。 しかもゴミ用と思われるコンビニの袋を手にして歩いている。俺は心底ほっとした。 だがカップルがいた跡地に目がいくと、きれいに缶が残っているではないか。
どういうことであろうか? たまたま最初からあった缶なのか? それとも奴等が置いていった缶なのか? 実に気になる。今すぐ缶に触れれば残った体温でどちらか判別できるだろう。
俺は走り寄って、缶に手を伸ばした。缶の横に脚が見えた。
どういうわけだか帰ったと思われたカップルがひき返して屹立と構えていて、俺を見下ろしていた。
これはまずい。どう考えてもまずい。
まるで俺が「体液のエール交換見たさに前フリのために40分も走って座ったはいいが感づかれて逃げるに逃げれず しまいにはトチ狂って飲み物に手を伸ばした人生ゲームの青ピン野郎」みたいではないか。
人間がイメージできる範囲で一番嫌な笑顔を作って俺が会釈すると、女は軽蔑を込めて叫んだ。
「ちょっと、何してんのよ! この、体液のエール交換見たさに前フリのために40分も走って座ったはいいけど感づかれて逃げるに逃げれず しまいにはトチ狂って飲み物に手を伸ばした人生ゲームの青ピン野郎!」
自分めがけて飛んできた女の蹴りをスローモーションのように感じながら、俺はこういうのをビンゴと言うのだなと考えていた。

9月24日/「おっはー」と見せかけて、ネック・ハンギング・ツリー

外では細かい雨が降っている。俺と柳沢は暇をもてあまし、薄暗い部屋で天井を見つめている。 腹が締めつけられるように、きゅうと音がした。俺は呟いた。
「腹減ったな」「減った」「焼き肉とかどうよ」「いいねえ、肉焼きたいねえ」
「やっぱり焼き肉だよなあ」
「カルビも上を頼んでさ、もう火もちょっと強すぎるぐらいなの。で鉄板にのせるとジャーッって音がして、 脂がボトボト、ボトボトだぜ?垂れるんだよ」「いいねえ」
「で上カルビがこんがり焼けたら、次はコブクロね。これはそんな派手じゃないんだけど、忘れた頃にパンッって 音がしてはじけて、中のエキスが飛んだりしてさ」「たまんねえなあ」
「コブクロが真っ黒に焼けたら、次はタン塩焼くの。軽く炙る方がいいって奴もいるけど、俺はダメ、 ちょっと厚めのタンをさ、表裏、もう炭みたいに焼いて」「柳沢さ、おまえさ」
「焼きてえなあ。店の人からも、今日も焼いてますねえとか思わず言われちゃうの」「食おうよ」
「食う?」「焼くのもいいけどさ、いつ食うんだよ」
「いや、俺は・・・俺は、食べるようなあれじゃないからさ」
「食わないの? あれ、おまえ何か信仰とかしてたっけ? まずいこと聞いたか、俺?」
「そんなんじゃなくてさ。焼いてるだけでいいんだよ、俺は。 俺みたいな人間は、焼かしてもらうだけでありがたいって思ってます。違う?」
「聞かれても困るんだけど。いや、焼いたんだから食わない?普通」
「だから、肉食べるようなステージじゃないんだよ、俺は!」「ステージ?」
「ああ、なんか、いやになってきたよ。あ、なんか、涙でてきた。なんだよ、泣いちゃおかしいか!? おかしきゃ笑えばいいじゃねえか。俺、おまえとはうまくやれそうにねえよ!」
「鮨とかどうよ」「鮨、いいねえ。お鮨はいいねえ」
「横浜駅の地下に安いんだけど、これがうまい鮨屋があってさ」「見たいねえ」
「三崎港のやつだから新鮮で」「暖簾は何色してる?」
「うん?紺じゃないか? で、特にイワシがうまくてさ」 「紺だよなあ、暖簾は紺だ。で、入り口は、やっぱりあれか、引き戸?」
「まあそうだろ、鮨屋だし。それで、そのイワシがさ」「入り口のマットにさ、泥取りの金具ついてた?」
「入んないの?」「はい? 何が?」「鮨屋来たんだから、せめて入ろうよ。おまえ、鮨は食うんだろ? さっきお鮨はいいって言ったよな?」
「・・・本望だね」
「答えがよく分からない」
「片腹痛いよ。神様は俺が鮨をつまむことなんて望んでません。違う?」
「だから聞かれても困るんだけど」
「見たいよ。鮨屋見たいよ。今夜、気が済むまで鮨屋見たいよ!」「今夜?」
「冗談じゃねえぞ。なに見てんだよ! 別に俺な、同情してほしくてこんなこと言ってんじゃねえからな!」
「最近好きな女の子がいてさ」「いいねえ」
「テレビに出てる子なんだけど」「いいねえ、誰よ」
「大橋マキちゃん」「あのフジテレビのアナウンサー? あ、いつも笑ってる子だ。あれは可愛いねえ」
「だろ? 可愛いだろ?」「うん、あの子は可愛い」
「見てると、もう胸がむずむずするんだよ」
「殴りたいねえ」
「殴る? 殴るの? 可愛いんだろ?」
「顔の形が変わるくらいブン殴りたいなあ」
「俺もそれは手伝う」

9月22日/地域振興券で叩く女の頬

みなさん、こんにちは。サガノヘルマーです。
現在発売中のダカーポ「思想としての美女」に私の原稿が掲載されているのでよかったらチェックしてください。
マガジンハウスさん、いつもありがとうございます。確信を持って、この文章は読んでいないでしょうけど。
今度は「ホットドッグプレス」にもぜひ書かせてください。
何? あれマガジンハウスじゃないの? 雑誌じゃん。雑誌なのに? 「UNO!」も? 「03」も違うの? 「ヒストリーズ・ラン」は? あれはそうなんだけど触れちゃダメなの?
さて寄稿する際、私は頼まれもしないのに必ず2本送ることにしている。 それは好きな女の子を振り向かせるためには過剰な行為が必要だという私の信念に基づく。
あなたは小学生時代、好きな子の前で無理して牛乳を2本飲んだことはないか? それを吐く時も牛乳といためそばの2回に吐き分けることでマッチョさを誇示しなかったか? 防災頭巾の表と裏の両面に顔をうずめなかったか? 少なくとも私はそんなことはしない。
そういう訳で前回同様、ボツ原稿を供養としてここで公開する次第である。読み返すとボツになった原因がよく分かる。 ボツ果汁度が高いこと高いこと。ちなみに今回のテーマは「秋における美」である。

当時の俺は地方の県立高校三年生で文系という世界でもっとも不要な存在であった。
夏休みの模試によってプロ野球選手より一足早い戦力外通告を突きつけられた文系男子は、 文化祭という今考えるとイースタンリーグ優勝のようなはかない歓喜に身をやつして、 いよいよごまかしが効かない秋が訪れるのだった。
河合塾模試で二の腕に「E判定」の焼き印を押された男子は、教室の後へ後ろへと滓のように澱んでは、 ギターの早弾きを競い、ビッグトゥモローを熟読しては一発逆転を夢想し、 山川の参考書のカドを使って歯垢をほじくる技術を取得していき、ますますダメになっていく。
そしてこの時期、なぜか、まったくもってどういうわけか、学業がプーシャカラカな男子は 容姿がトテチテターな女子とつきあい始めるのである。
俺の高校は丘の上にあって駅から道なりに街路樹が植えられていた。 銀杏が黄金色の葉を落とす中、学校へ向かって坂を登る俺の前に文系でもっとも脳の宅地面積が狭い横沢と、 文系でもっとも顔面の宅地面積が広い鹿野さんが肩を並べて歩いているのが見えた。
秋風がやさしくそよぎ、風下の俺はその異臭に坂の傾斜をきつく感じる。
一気に小走りに抜かそうと決めて、駆け出した俺の耳に横沢の、
「この銀杏・・・絨毯みたいだね」と甘く囁く声が聞こえ、俺はそのまま勾配を駅まで転げ落ちた。 駅前の内田屋書房にぶつかり、それが決定打となってその弱小本屋は翌日からルミネへの建て直しを始めた。
それにしても十八才の秋。男子は常に不安で、さらに思春期特有のカルシウム不足から、くすんだ日常を否定するように 全てが美しく見える時期がある。星座。雨上がりの風景。ファミコンの画面。誰も横沢を責めることはできない。
今になって分かるが、秋に女性は美しく見えるのではなく美しくなるのである。虫を誘う花の花弁が色づくように、 独り身のクリスマスの虚空を意識しだした女性はある匂いを分泌し始める。
男子は現状の不安を拭うために美を求め、女子は先にある不安を見越して美を発する。 その需要線と供給線がX軸ぎりぎりの低い位置で横沢と鹿野さんは重なったのである。一言でまとめるなら、事故だ。
やがて年が明けて受験も片付いた冬、二人が別れたというひどく無価値なニュースを知り、 男にとって秋は思い出の季節であり、女には通過する季節でしかないことを俺は悟った。
想いを遂げたように銀杏が落ち、それが足元に広がって思い出の季節に誘ってくれる秋になると、俺は思い出す。 銀杏が絨毯というより、鹿野さんの顔は絨毯爆撃のような顔をしていたことを。

以上。如何でしょうか、この投げやりなオチ。テーマにかかわらず、鹿野さんが美しいと一言も言っていないのが素敵だ。 でも本当にそんな顔だったのだから仕方ないじゃないか。
絨毯爆撃というか、トーチカ大損傷。というか、地雷犬大粉砕。というか、コソボ謝肉祭みたいな顔を鹿野さんはしていた。
横沢と鹿野さんは実在だが、かぎりなく本名に近い仮名である。本名を知りたい人は近くの神奈川県立厚木高校卒業生に聞けば教えてくれるだろう。
職場に緑のジャージで通勤している人がいたら、多分それだ。「違う」と言われたら、それはただの相当健康な人だ。


9月21日/交尾するAIBOに水をかけたら、錆びた

久しぶりにスリリングな光景を見た。オリムピックの男子水泳自由形の予選に登場したギニアの選手である。 すごいことに彼は泳げなかった。
水中カメラで捉える映像は、足こそついていないものの、泳ぎというよりかは「マリリンに逢いたい」、 泳ぎというよりかはニルヴァーナのジャケットで水中で札を追いかける子供、生け簀の中で水流に身をまかせる死んだ鯵、 冬の市営プールに漂う藻であった。事実100メートルを完泳した経験がなかったらしい。
で、最後の10メートルはクラゲに刺されて逃げ惑うお父さんみたいな必死の泳法で足を漕いで、どうにかゴール。
スタジアムは歓喜のスタンディングオベーションをした後、白人と先住民が別々にウェーブをこなして 「ワイルド・シング」を大合唱。ゴム風船を飛ばして広沢のふがいなさをなじった。
俺が見たテレビニュースの論調は「これぞまさにオリムピック! 参加することに意義ありですね」であり、 その後「感動をありがとう!」と香のようなものを焚いてスタジオ中が大号泣していた。
とはいえ、どんな角度から取り上げてもこれは感動とは無縁の事件だと思う。明らかに黒人スイマーがいやいや泳いでたから。
しかし早速スポーツジャーナリズムはこれを意味のある出来事として、情報を発信している。俺が確認した記事は以下の通りだ。

・参加することは意義であり、時には残酷な試練を生む。
飛び込み台にあがった22才のスイマーである君は、緊張で黒人のくせに表情が蒼白になっていた。 だが完泳したゴールで会場の拍手を浴びた君は、喜びで黒人のくせに表情に赤みがさしていた。
彼が内戦中のギニア(鈴木工註・そんな事実はない)に持ち帰るものはあまりにも、大きいはずだ。
世界がひとつになった喜びを届けるように、シドニーから、風が吹く。
(朝日新聞論説委員・西村欣也)

・なんとかならんか、日本競泳陣も。オレにいわせりゃあ銀や銅メダルもらって喜ぶのは、 マージャンでマンガンあがるようなもんではないかな?
日本人と巨人ファンは優等民族なんだから、 金メダルか優勝しなきゃダメ! アハハハ・・・(と、力なく笑う)
うーん、泳ぎに気迫がないのだなあ。その点ギニアの選手は大したもんだ。こんなところにもモスビー効果がでていると見た。
オレは宣言する。この調子が続くようなら、桑田、近鉄にトレードするぞ!(鈴木工註・この記者はそんなに偉いのか?)
(報知新聞「激ペンです」白取晋)

・ここまで堕ちたかオリンピック。
金にまみれたスポーツ大会が祭典きどりとは肩腹痛い。
選手村でピンサロを捜してさまよう近鉄・中村は強制帰国しろ。
ギニアの黒人選手が泳いでも水に溶けないウラのウラ。
(9月20日付日刊ゲンダイ・見出しが長いため、本文の掲載スペースはなし)

・「やっぱり、世界のトップクラスは違いますよネ。ボクなんかもう一度鍛え直さないと通用しませんよ」 と、黒いイチロー(鈴木工註・どうもこの記者にとって全てのスポーツマンはイチローに見えるらしい) は行きつけの小料理屋で、箸をつけて語った。店の主人はこの痩身な肉体にのどこに旺盛な食欲があるのかと 驚きを隠さなかった。
(Number「日本シリーズ直前シドニー日記」永谷脩)

・ギニア選手、敗れるーー!
記者陣の前予想では圧倒的なギニア選手の不利だったが、筆者だけは勝利を信じていた。
常識をくつがえすのが、プロレス。
くつがえしてこそ、プロレス。
泳ぎきった時点でNKホールの観客は興奮に包まれ、 まさに今大会におけるベストバウトとなった。謙吾を信じていてよかった! (鈴木工註・どうもこの記者は知らないスポーツ選手は、勝手にパンクラスの選手の名前で呼んでるらしい)
「あいつの気持ちは伝わった。あとは一段一段昇りつめてこい」バックステージでその奮闘をたたえたファンデンホーヘンバレム。
確かに大敗には違いない。しかしこれだけは伝えておきたい。決して謙吾の目は死んでなかった、とーー。
(9月28日号「週刊プロレス」安田拡了)

文章はマシンが自動的に作成してくれるので、スポーツジャーナリズムの懐は実に深い。
まことに残念なことに、もっとも記事が期待された二人のジャーナリスト、ノンフィクション界と胡散臭いヒゲ界を代表する カリスマ・金子達人氏は銚子にサンマ漁のため不観戦、 いつも長嶋監督の横にいる焼きゴリラは、自分の香水の匂いに卒倒したために記事が書けなかったらしい。
とにかく俺は言いたい。「17才ソープ・金はいくつ」の見出しの語尾を「ら」に読み違えると、とてもひわいだと。


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