バックナンバー・練乳工場(10月下旬)


10月28日/カラオケを歌う順番で揉めてプログレバンド解散

どういう仕組みか全く理解していないのだが、私の愛用マシンであるMSXパソコン「人々のヒット・ビット」号を いじっていたところ、4年前のチャットの履歴がでてきた。
保存した記憶も何もない。とりあえずクリックすると驚いたことに当時チャットしていたワンシーンが現われたのである。本当に。
仙台にいた吉田という友人と私の二人で当時流行していた「トレインスポッティング」について、 どちらがその映画に対する造詣、愛着が深いかを議論していた。
高校時代はお互いを「ル・ピリエ」「フィルム・ノアール」と呼び合う程の映画好き。 もちろん自主制作映画を作っていて、毛を自主規制するかどうかでトリス片手に討論したものだ。 ここで言う毛は足の甲に生えている無意味な毛のことだが。
あまりにも胸を打つ熱いチャットなので、この場を使ってそのまま再現したいと思う。

吉田/ポスター持ってるからね。
鈴木/俺なんかTシャツ持ってる。しかもトレイソってプリントされたビンテージもの。
吉田/僕はもう、カンペン買いました。下敷きも。色鉛筆も「トレインスポッティング」で揃えたぜ。
鈴木/俺もスナック買ったよ。「トレインス」プリクラもとった。
吉田/げーいいな。仙台まだプリクラ来てない。もしかして生写真とかも持ってる?
鈴木/当たり前じゃん。追っかけもやってるよ。こないだもよみうりホール行ってきた。
吉田/アニメ化もした?
鈴木/それはまだ。CDデビューは決定。
吉田/新人王と得点王も取ったらしいね。あと、奪三振王。メジャー行きも近いな。
鈴木/マスターズで優勝もしたぞ。
吉田/山藤章二の似顔絵教室のお題だもんな。
鈴木/「トレインス」ドンジャラも出ました。
吉田/Viewsで特集やってた。
鈴木/週刊宝石の表紙。
吉田/そういえばレモン持ってたね。
鈴木/「トレインス学会」が暴露本出してた。
吉田/ふりかけも出るそうだ。ふじかけも。
鈴木/小川知子とドゥエット。
吉田/最年少記録を次々と塗り変えてる。
鈴木/紅白のトリ。
吉田/帯番組の司会を始めるらしい。
鈴木/CCガールズのサポートメンバーに昇格。
吉田/もう脱がないらしいよ、ビッグになったから。
鈴木/園遊会に出席。
吉田/原宿にカレー屋を開いた。
鈴木/死んだら驚いた。
吉田/死んで国民栄誉賞。
鈴木/飛んでイスタンブール。
吉田/泣き濡れてヨコハマ。
鈴木/尻肉つかんでオクラホマ。ところで正しい区切り方は「トレイン・スポッティング」らしい。
吉田/うちのおふくろも「ポカリス・エット」でくぎったりする。

如何だろうか。余計な部分は端折ったりしたが、それ以外は脚色は一切していない。 少し青臭い部分も見受けられるが、それは若気の至りというやつで。本当に俺と吉田に映画を語らせると、話しが尽きない。
あれから長い年月が経ったが、当然二人とも例の映画はまだ見ていない。だって便所落ちる映画なんて汚そうじゃん。


10月24日/新わらべは、ノゾミ・クダケ・チルナカレ

告白すると私は方言フェチである。 地方の電車で方言で話している少女たちはそれだけで評価が三割増しだし、一度でいいから、
「これ、よけといてよ」
「え、どこに置けばいいの?」
「だからあ、よけてって・・・あ」と口に手をやって、「そうかあ、こっちじゃ捨てるって言うんだっけ」 さらに右手を目の前に垂直に立て左手を後頭部にやり、「メンゴメンゴ!」
最後はともかく、この通じないお国言葉をポロッと言う行為をやってみたいと願っている。
何故方言に興味があるかというと、私は神奈川出身で地元固有の言葉がないから憧れるのかもしれない。
そんな私がかかさず見ている教育テレビの番組が、日曜7時、さんまのからくりテレビと視聴率の鎬を削る 「ふるさと日本のことば」である。毎回、一都道府県を選んでその地の方言をレポートする番組で、 前回「島根県」で小紋の和服を着た松本侑子が出雲弁をベラベラ喋った時は、 京都の女性に「あかん、堪忍」と言われるのを夢に持つ私は興奮を抑えられなかった。
そして今回は「神奈川県」。はたして方言もないのに番組は成立するのだろうか?当然私はチャンネルを合わせた。
出演者は司会のアナウンサー、当地出身の有名人、地元で方言を研究している大学教授なのだが、 鶴見出身の阿木耀子がゲストなのはいいとして、偉いさんはいきなり静岡大学の教授であった。 しかも眼鏡がずり落ちて半分耄碌している。思いきり不安がよぎる。
「さて神奈川の方言というと「・・・じゃん」「・・・だべ」ですね」と冒頭でアナウンサーがふると、 驚くかなもう手駒がなくなってしまった。開始してまだ5分しか経っていない。
秋田県の回なんか、お国特有の単語を並べ、イントネーションだけで県を三地域に分け、果ては文法まで言及して、 番組の最後はゲストも教授も地元とは関係ないアナウンサーまでテンションが上がり、俺にも秋田弁を語らせろとマイクを奪い合っていて、 とても40分とは思えない凝縮ぶりで「基礎英語」と比べても遜色がない内容だったというのに。
どうした神奈川。危機を背負いながらレポーターは急遽横浜港に飛び、港に伝わるハマコトバを報告する。
「港で働く人の間で使われる独特な言葉があります・・・倉庫のことを上屋(うえや)というのですが、これは英語のwarehouseが変化したと言われます。 食事をチャブというのですが、これは中国語でテーブルクロスをさす卓袱(チャーフー)から来てるようです」
成る程ね。待て。これってただの業界の符号じゃねえか?
しかしそれは僕の早とちり。画面がスタジオに戻るとパネルで分かりやすく説明してくれました。
「これと同じように、ハイカラはhigh colorが、メリケンはAmericanが由来です」ためになるねえ。
待てこら。なめてるのか。これ外来語の説明じゃねえか。 「アイスクリンの語源はアイスクリームです」のダメ押し弾まで叩き込んでいた。言われなくても分かる。
番組は深い言及を避け、視聴者から募った21世紀に残したい神奈川の言葉コーナーに移行した。
「たとえば「きっかり」・・・これは丁度という意味なんですねえ」
暖かみある言葉だよね「きっかり」。僕も大好き! おいおいおい共通語だろ、それ? 広辞苑どころか英和辞典にも出てると思う。
「他には「あたりばち」・・・これはすり鉢のことなんです!」
エーッ!「あたりばち」って神奈川の方言だったの! 超カルチャーショックっす自分!
いや、その言葉そんなに使わないし。たいして違いないから分かるしさ。そんなに力強く言われても。
裏番組が日本シリーズだったことも手伝って、集中力の疎かな視聴者を騙し騙し番組は40分伸ばしきって最後の総括までたどりついた。
「阿木さん、やはり作詞する時は一つの言葉に想いをこめるというのは・・・」とアナウンサーがふると、
「ええ、それはありますねえ」まったく神奈川関係なし。
「教授、今日番組を通して何か感じたことは?」
教授はズリ下がった眼鏡をかけ直し、「あ、はい?今、なんと?」
聞いてすらいませんでした。
今回発見したのは阿木耀子は可愛くて僕的にはまだ十分セーフということだけです。竜道に尻をバチで叩かれた時には僕のところにおいで。 郷土愛問題についてはまたそのうち。

10月23日/ダイエー松中は悪いかりあげくん

ふいにつけたテレビに映ったのは、踊り狂うヒスパニック系集団だった。 難民船がたまたま新大陸について喜んでいる映像かと思ったが、そんな小踊りではなく何だか複雑なステップである。
その手前の客席にコロコロ太った胡散臭い台湾人ブローカーがいたので、ああこれは人身売買ドキュメントだなと気づいたが、 よく見るとそれは常に坂本龍一程度に時代をあやしく半歩リードする、我らがオピニオンリーダー・村上龍氏ではないか!
龍さんのぶ厚い顔面はニコニコ笑っていて、視線の先には一人のフィリピン移民女が慣れないステップを踏んでいた。
やはり人身売買か。しかし「角川ハルキ文庫」に対抗して「村上ヤッツケ文庫」を刊行すると噂される程、 出版物を出しまくっている龍さん。「神は細部に宿る」なんて絶対出版したことすら忘れていると思う。 あの痛風体型は贅沢しているはずなのに何故?
よく見るとフィリピン女性は化粧の薄い中山美穂だった。
どうもここは村上龍・第二の故郷キューバ(もちろん第一の故郷はポップアートで、第三の故郷はチャーザー村だ) で、ゆるいゆるい時間が流れる日曜午後のありがち女優外国探訪企画のエスコートをしているらしい。 要は格が高いウルルン滞在記。最後に飛行機の時間が迫ってトイレ行けないとか泣いておけばオールOK大団円ワールドである。
龍さんは今日もアルマーニのポロシャツをアルマーニのチノパンツの中に入れ込んでいるが、 イトーヨーカ堂のザ・セールで購入した衣料にしか見えない。ダンスしていなのに一人だけシャツに汗が滲んでいる。
中山美穂はルンバ習得のためステップを猛特訓しているらしく、なかなか上手に踊っていた。 とはいえ日本人体型で胴が長く足も太いので、キューバ人の中にいると少し浮くよなあと素人の俺は見ていた。
練習が終わり、中山に近づく龍さん。おもむろにテレビカメラを指を突きつけ、
「日本は絶望的だ。この国のステップが何だか分かるか?アメリカにNOをつきつけてきたポリシーそのものだ。 日本が無条件降伏した理由がオレにはわからない。守るもんなんてないことを証明してしまったんだ。 競争がない日本に本当の女優はいない。 「毎度お騒がせします」に出て、「ちょっとだけAカッコC」のラジオに出ていたアイドルなんて、とんでもでべそだ」
と怒りにまかせて中山美穂の頬を拳で殴った。
というのは嘘で、「うーん、いいよ。すごい上達してるねえ」 とタンクトップの中山にスケベな笑いを振りまいていた。
ややあって画面はキューバの人気ミュージシャンのコンサート。 ブエナ・シスタ・介護・クラブのような町のよぼよぼ俳句会ではなく、熱気に溢れたステージで、 冗談ではなく3、4万人もいるかという観衆が平野のように広がっている。 さすがキューバ。インクがないという理由でパスポートに出入国スタンプ押さない貧困国。他に娯楽はないのか。
その圧倒的な光景を目の当たりにした中山は相当昂揚してしまい、 目を潤ませて「・・・すごい。すごすぎる・・・私って何?」とコトを終えた後のように口をパクつかせていた。 その横に近づき肩にそっと手を置く村上龍。
汚ねえ〜!あまりに卑怯・・・この手を使っていくら女を抱いたんだろうか?
今回俺は龍さんの本質を見抜いたと思っている。それは「世界に厳しく、身内に優しい」である。

10月21日/星がありません勝つまでは(相撲)

冬物の衣料を取りに実家に帰ったのである。
俺がいた部屋は整然と片付いていたが、壁にかかったレターラックはそのままだった。 束になったハガキを掴みとり、俺は目当ての一枚を捜した。
あれは2週間前か。何気なく読んでいた朝刊で、ひとつの記事が目に飛び込んできた。

電車内で女子高校生(16)に触るなどしたとして、警視庁北沢署は6日までに、 強制わいせつの現行犯でテレビXXXのアナウンサーS容疑者(27)を逮捕した。
調べによると、S容疑者は3日午前8時ごろ、K線S−I駅間の車内で、 女子高校生の体に触るなど痴漢行為をしたため、女子高校生がIで同容疑者を駅員に突き出し、逮捕された。 同容疑者は容疑を否認しているという。
S容疑者は取材のため前日から出張中で、待ち合わせ場所のK線H駅に向かう途中だった。 同局は6日、「疑いを持たれたことが放送人として問題」として、S容疑者が担当していた番組を終了すると発表した。

俺は呆然とした。このSというのが高校の同級生だったのだ。
インターネットで調べたところ、Sが担当していた番組名は「もてなしキング」ということが判明。 いや、そんなことはどうでもいい。
高校3年生の時に同級だった俺たちは、生きている価値が限りなく薄い文系仲間として熱を帯びた関係であった。
明らかに現役合格できなさそうなバカだけで肩を寄せ合い、推薦入学者の悪口を語り、 推薦入学でも可愛い女子は湛え、2浪で帝京に行った小菅(現パチプロ)は徹底的に罵った、あの青春の日々。
当然みんな大学を滑り尽くし、陰で勉強していた俺だけ現役合格を果たした優しいメモリーズ。
確かSからハガキを何かで貰っていたのだが・・・と捜していくと目的のハガキは1枚ではなかった。 このSが筆まめな奴で、高校卒業、浪人の近況報告、大学に入学した自慢と節目節目にハガキを送っていたのである。 しかもどれもやたら凝ったイラスト&おもしろ文章つきだ。記憶通り、いい奴だ。
そして就職の内定が出ると、殆ど連絡の途絶えていた俺にやはりハガキは届いていた。

工はどんな進路を歩んでますか?俺はなんとアナウンサーになってしまった。
X系列なので2、3年後はXXXXニュース、XXXXテレビに出る予定。
しかしあくまで未定。なぜならその前にクビになるかもしれんから。

で、その横の矢印の先には、テレビの中、そのSがフルチンで股間にモザイクがかかって変質者スマイルを浮かべているイラストが。
どう考えても軽い受け狙いで、「順風満帆な俺が猥褻な形でテレビ出たりして・・・」という余裕に溢れたギャグなのに、 今見るとどうツッコんでいいのか見失うくらいに笑えません。哀しすぎます。
多分こういうのを英語に訳すと、「ジャストミート」と言うのだろう。
とりあえず無事社会復帰できることだけを祈っているよ、俺は。

ウチの近くの定食屋に大きい看板がかかっていて、メニューが大書されている。
「こばち」
「ごはん」
「おしんこ」
「みそ汁」
右端を縦から読むと、見事に「ちんこ汁」だ。こういうのをサブリミナルというのか。
本筋には関係ないが、あまりにせつないからおまけだ!今日はもう寝ます。


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