バックナンバー・練乳工場(2002年4月〜6月)


6月14日/DASH!村で原発誘致運動開始!

先週W杯にテレビ朝日は裏番組「十戒」を、辻仁成は結婚をぶつけなくても、と書いた矢先にまさか自分が急逝するとは。しかも翌日は村田英雄が死去。W杯で浮かれているサポーターどもには、「なにもめでたい正月にモチを詰まらせて死ななくても」という同じ意味でしかないんだろうな。そう考えると村田先生に済まない気持ちでいっぱいだ。
私の死んだ扱いを見ていて、改めて感じたのは「とくダネ」の異質性だ。前田忠明と小倉がさんざんネタにされたことを懐かしむフリから、二人が揃って「一度ナンシーさんには会って話したいとお願いしていたのだが、叶わずに終わった」と衝撃の告白。聞いてないぞ、そんなの。「マネーの虎」を見ていると叶わなくてもよい夢の存在をひしひし感じるが、自分が同等の波打ち際にいた驚きを味わった。しかし小倉と前田に好んで会おうとする奴って誰かいるのか。町山広美は会いたいって言ってたな。もちろん逆の意味で。
そんな話を聞いてぞっとしていると、別のコメンテーターが「ナンシーさんはエッセイで取り上げる人物に会うと、毒が薄れるからそれを避けていた」とフォローしていた。このコメンテーター(名前は失念)というのがまた胡散臭い奴で、私に声をかけてくれたえのきど氏との仲をしきりに強調するんだ。確かに席を同じくした記憶はあるけれども友人を名乗られても、って程度の関係性だ。
この「とくダネ」は数あるワイドショーの中でも、出演者が取材対象者とのコネクションを強調したがる体質がある。小倉は巨泉、マエチューは藤原紀香、デーブはクリントン元大統領。師弟関係の小倉はともかく、マエチュー、デーブはたった一回の邂逅を親友のように語っているのがミソだ。絶対相手は覚えていないぞ。
大物芸能人との関わり合いを示すことは芸能界的には権力の誇示にもなるわけだが、「とくダネ」でのそれは「共感」として機能している。本人や現場を知ってるから当人に近い気持ちで語れますよ、という分かりやすい論理だ。しかし異郷の存在であるべきはずの芸能人を同じ目線で語ることに何か意味はあるのか。
この希薄な共感で小腹をためようという体質は見事なまでにW杯騒ぎと同じ構造で、やはりというか「とくダネ」は連日、奥さん視聴者層を完全無視してオーレオレオレニッポンウキキキキー状態。チュニジア戦当日は小倉が青シャツ、青ネクタイ、笠井アナがサッカー柄ネクタイで登場し、佐々木アナは「番組終わったらユニフォームに着替えます!」と何もしていない自分を恥じるかのように宣言した。サッカーに対する知識や自分なりの歴史を咀嚼してコメントで提示する、というキャスターの仕事なんて最初からないかのように「関わっている」信号だけを発するのに全ての力を費やす「とくダネ」。まあ今は「僕もニッポン応援してるよウキキキー」と思考停止してウェーブ決めたがっている趨勢が圧倒的なんだろうが。何も知らない奥さんはその隙間からしかW杯に入っていけないのだろうし。
気がついたら自分の訃報よりW杯に思いを馳せていてしまった。自分だけは飲みこまれるまいと思っていたが、まさか最後の最後に。おそるべしW杯。私の心残りは未だかって満足なコメントを発したことがない室井佑月が、コメンテーター押せ押せのW杯でどんな稚拙なコメントを残したかをチェックできなかったことか。あと「会って自分を知ってもらえれば辛辣なことは書かれないはず」と信じていた小倉とチューメイには最後まで私のコラムの趣旨を理解してもらえなかったのが残念。ってそれはうそ。これだけ本人の人格とメディア内人格は違うって書いてるのに。やはりというか、私のコラムの読者層とW杯フィーバーに最初からない尻尾を振る層は、まったく対になっていることを再確認できてよかったのかも。最後なんでしおらしくしめてみました。
じゃあ私は青森に帰りますよ、ってことで。

6月9日/牛の反芻がスローフードの原点

まあ座りなさいよ。いいんだよ上司の俺がいいって言ってるんだから。そういう時は座るもんなの。
何で呼び出されたかさ、おまえ分かってる? ああ分かってるのな。そうか自覚はあるんだ一応。そうだよ、おまえが次長によろしくお願いしますって電話一本入れなかったから先方すごい揉めちゃってるんだよ。
おまえさあ、何度も言うようだけど自分だけよければいいの? 自分だけふるポテ振れればそれでいいの? 人のことなんか全然考えてないのな、おまえって。ローソンの隣にローソン建てちゃう人間なんだよ。あげくの果てに日照権一人占めしちゃうタイプ。
若い奴ってのは、なんでこうさあ、欲がないのかね。おまえってカレッジチャートにランクインしたら満足しちゃうね絶対。上見ないね。ソバ食ったら明日はコロッケソバって思わない? カレー食った翌日はカレーパンって発想ないの?
何だろうね、俺から言わせたらプライドばかりあるんだ。自分だけ別だと思ってるんだ。自分がインスタルメンタル演奏してるからって特別視してない? そうやっていつまでメンバーチェンジ繰り返すつもり? 全然特別じゃないよ、おまえなんか。映画のエンドロール最後まで見たからってその映画誰よりも理解した気分になってるんじゃねえぞ!
仕事無難に済めばいいなーとしか思ってないだろ。つぶし利くからって経済学部選んでね? 心理学科入ったら意外に地味な実験ばかりで凹んでね? フローリングの物件にこだわりすぎて大事なもの見失ってるよ、おまえ。ロフトにはしゃぐのなんて最初だけだからな!
要はさ、カッコばかり気取られてるの。キャッシュバックキャンペーンに踊らされてるんだよ! 間接照明だったら何でもいいのかよ! 婦人雑誌の重さに挫けてるんじゃねーよ。二段組の小説を避けて通ってるんじゃねーよ。何度閉店セールしたら気が済むの? おまえがそんな態度だか先方はいつまでたってもパケット通信中なんだよ! いいのかよ、気がついたらおまえは和民チェーンの傘下になってるぜ? 実家帰ったらどこもかしこもパーキングだぜ?
・・・あのさ、俺だっておまえが憎くて説教してるんじゃないんだ。分かるよ、俺も新人の時同じ道通ってきたんだから。そりゃあ好きじゃないミュージシャンのMCは確かにつらい。でもな、いいか、外タレだってみんな好きでダジャレCMやってる訳じゃねえんだよ。
だからいくら網棚捜したって「ぴあ」はないんだよ。朝礼台の下には何も置いてないんだよ。自分から積極的に仕事してかないとダメなの。二歩でいいじゃん。間違えて同じコミックス二冊買ったっていいじゃん。攻めないと。仕事は攻めていかないと。俺なんか日めくりカレンダー一日に二枚破いてるよ。白線の前で電車待つよ。中華の円卓回すときだって、誰にも取らせねえっていつも思ってる。大丈夫。当日券がいっぱい余ってても、おまえがチケットセゾンに並んだことは無にならないからさ。はい、いいよ、デスク帰って。話はこれでおしまい。
ああ課長どうも。今ですか? いやあ課の若い奴にちょっとね、まあ説教みたいなものをね。ええ。しかしあれですな。何言ってるんだか分からないって顔して聞いてましたけど、本当に若い奴は理解しようって気はあるんですかね?

5月4日/NHK・BSスペシャル「裸にしたい男たち」渡哲也

爆笑。
私のように人を笑わせることに重きを置いている人間にとって、なんとも甘美な響きがする言葉である。爆笑。ああ口にしただけで腰の下が溶けそう。今のところ「松浦亜弥」の次に口にするだけで嬉しい単語だと思う。
しかしながらギャグに携わる者ならば誰でも知っているのだ。本当の爆笑なんて人生で数えるぐらいしか巡り合えないということを。
そして私は今日その爆笑と遭遇したのだった。

昨日まで空を覆っていた曇り空はどこへやら、今日は朝から染めたような快晴が続いている。私はお気に入りの音楽をかけながら洗濯をし、近くの市営ジムへと出かけるべくジャージに着替えた。仕事も人間関係もおおむね良好。いくつかの些細な悩みを抱えながら、人生はまずまず快調だ。
アパートの階段を降りると、郵便受けに一枚の封書が差し込まれている。何気なくそれを抜き取ると、「東京地方裁判所」と明記されていた。
・ ・・裁判所。
この驚くほど善良な市民である私の元になぜ裁判所から通知が。ゴミ出し日も守るし電車で老人には席を譲り紫綬褒章にノミネートされかかったこの私だ。
心当たりは、もちろん、ある。去年の年末、トランステクノが有名な某バーで27歳にもなって食い逃げしました。しかも年収1000万円の医者と共に。でもあれは既に時効のはずではないか? マスターが許すとか、あれは本当は俺が悪かったんだとか言ったと風の便りで聞いている。
じゃああれだろうか。こないだ私鉄沿線で飲んでいたら終電がなくなって、一緒に飲んでいた駅二つ隣に住む友人に置き去りにされた件。あれは死ぬかと思った。特にターミナル駅でもないから店も何もやってなくて凍えていると、友人からメールが着信してこれで助かったと涙したら、「冷たかったな?」と過去形の感想が書いてあった時は。あれは全身が爆(は)ぜたなあ。いや待て。あの件では私は何も悪いことをしていないぞ。では何故裁判所から? まさか図書館の本延滞で? ぴあに連載している笑うところが皆無のエッセイ「しあわせスイッチ」に対する私的な悪口が原因で?
おそるおそる封書を開くと冒頭に「破産宣告の通知」と書かれている。破産者に指定されているのは株式会社同朋舎。
どこかで聞いたことがある名前だ。確か私はそこから単行本を二冊出していたはず。
私は落ち着こうと部屋に戻り、まず裁判所からの通知を貰ったことがないものだから、その真贋を確かめるべく、すかして見たり、紙飛行機にして飛ばしてみたり、裏に筆で「平和の光」と書初めてみたり、全裸になってチムポの先に貼りつけ部屋をぐるぐる回ると風圧で落ちないことを確認してみたりした。さらに市営ジムに行って一汗流したあと帰ってから淡麗グリーンラベルを一杯飲む。「飲む」と書いてルビは「やる」。
結論。これは鉄板で本物通知である。
たまたま5月1日に記帳した預金通帳を開いて確認してみた。4月末に振りこまれる予定であった同朋舎の稿料18万円と経費2万円はそこに記載されていない。

笑った。
私は久しぶりに、本気で、笑った。


4月9日/SASUKEセカンドステージ・女湯覗き岩場登り

鈴木工版・岡村靖幸トリビュート作品「祈りの季節」

「雪が激しくなってきたなあ。岡村、さっきの道は正しかったのか?」
「曲がる順序を間違えて」
「やはりそうか・・・まずいな俺たち遭難してしまったみたいだぞ!」
「まるで責めてるみたいだ。動機が不純な僕を」
「わざと間違えたのかよ! しかし登山にしてはおまえ軽装すぎやしないか?」
「赤のブーツとやけにすれすれのミニ」
「そんな格好で山登るなよ! 死ぬぞ!」
「始めようよ二人はもう全裸」
「いつの間に? 寒―ッ! って雪山を裸で登る訳ないだろ!」
「やっぱ俺はやっぱ裸がカッコいい人がカッコいいと思うよ」
「おまえ何言ってるんだ? 実は俺は両親を雪山で遭難して亡くしていてな・・・」
「シュクドンツクボンボーンオーライ」
「人の話を聞けよ! おお、そんなことをしてるうちに目の前にあばら屋を発見!」
「赤羽サンシャイン」
「どう見ても廃屋だろ! まあいい、中に入るぞ!
・ ・・ふう助かった。死ぬかと思ったー」
「どう僕の部屋? 一緒に暮らしたい?」
「どう考えてもおまえの家じゃないよ! 俺たちは遭難したんだよ!」
「ビデオとかファミコンとかあるし、何時だってコンビニエンスストアはやってるしね」
「そんなのどこにもないぞ。あばら屋の中にはムシロが一枚あるだけ」
「最新型のベッドだよ」
「すごい言いようだな! ・・・しかし参ったなあ」
「どうしようかなって迷ってちゃダメじゃんよ。オレとガンバろうぜ」
「そうだな。なんとかして助かる手段を考えないと・・・」
「今夜電話してこいよ。来年の作戦考えようぜ」
「今の作戦を考えるんだよ! それにどうして電話で相談するんだ?」
「電話なんかやめてさ六本木で会おうよ」
「ちょと待て! おまえ突然ケータイを使って誰と話してるんだ!」
「汗まみれのスター」
「なんかすごいな! しかしここ圏外じゃないのか? ・・・ああ腹減った。岡村、なんか食料あるか?」
「持ちかえりのジャンクフードとパック入りの烏龍茶」
「よし、それ食べよう」
「おいしかったよ特別のサンドイッチ」
「もう食べちゃったのかよデブちん! ああ眠くなってきた。なんかして気を紛らわさないと」
「そんなに話したことないじゃん。僕と」
「そうだなあ、話でもするか。俺たち、同じ山岳サークルなのにお互いのことよく知らないし。岡村って齢はいくつなの?」
「たぶん23歳」
「たぶん? 仕事は?」
「職場はディスコで」
「水商売か」
「遅番のウェイトレス」
「なぜウェイトレス? 趣味は?」
「せつない夜は屋上にのぼって風に訊ねてるんだ」
「イタい趣味だなあ」
「子供の頃から上達するため練習中だい」
「そんなのに上達や練習があるのか? ところで俺の趣味は」
「僕に話してよ今すぐ話してよ僕に話してよ」
「そんなに聞きたいのか? 俺の趣味はね、人間観察」
「Oh!バカげた趣味だな!」
「おまえに言われたくないよ!」
「あなたの生き方ダイッ嫌いだよ」
「そこまで言うか! あとエレキギター弾くのが趣味かな」
「友達は君のこと不良だと決めつけている」
「高度成長期かよ!」
「来週には裁かれてるはずだぜ」
「ロックで裁かれるなんて文革の中国か、ここは! ところで岡村、助かったら何したい?」
「星空の下ですべり台のぼりたい。今晩はそうしたい」
「おまえはアホか?」
「もうごめんさ毎年あんな夜はイヤだ」
「どっちなんだよ! しかも毎年やってるのか? 俺はね、助かったら息子を抱きしめたいな」
「本当に欲しいものはそれなの?」
「おまえに言われたくないよ!」
「あなたの生き方ダイッ嫌いだよ」
「しつこいな!」
「プーシャカラカプーシャカラカプー」
「何言ってるか分からないよ! ・・・ああ、寒くなってきたなあ」
「ベランダ立って胸を張れ」
「死んじゃうよ! あれ? ドアをノックする音が聞こえないか?
・・・救助隊だ!助かったぞ、岡村!」
「窓の外からパパとママが手を振ってる」
「って俺たち死んでたのか! ギャフン!(×0×)」


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