先週W杯にテレビ朝日は裏番組「十戒」を、辻仁成は結婚をぶつけなくても、と書いた矢先にまさか自分が急逝するとは。しかも翌日は村田英雄が死去。W杯で浮かれているサポーターどもには、「なにもめでたい正月にモチを詰まらせて死ななくても」という同じ意味でしかないんだろうな。そう考えると村田先生に済まない気持ちでいっぱいだ。 私の死んだ扱いを見ていて、改めて感じたのは「とくダネ」の異質性だ。前田忠明と小倉がさんざんネタにされたことを懐かしむフリから、二人が揃って「一度ナンシーさんには会って話したいとお願いしていたのだが、叶わずに終わった」と衝撃の告白。聞いてないぞ、そんなの。「マネーの虎」を見ていると叶わなくてもよい夢の存在をひしひし感じるが、自分が同等の波打ち際にいた驚きを味わった。しかし小倉と前田に好んで会おうとする奴って誰かいるのか。町山広美は会いたいって言ってたな。もちろん逆の意味で。 そんな話を聞いてぞっとしていると、別のコメンテーターが「ナンシーさんはエッセイで取り上げる人物に会うと、毒が薄れるからそれを避けていた」とフォローしていた。このコメンテーター(名前は失念)というのがまた胡散臭い奴で、私に声をかけてくれたえのきど氏との仲をしきりに強調するんだ。確かに席を同じくした記憶はあるけれども友人を名乗られても、って程度の関係性だ。 この「とくダネ」は数あるワイドショーの中でも、出演者が取材対象者とのコネクションを強調したがる体質がある。小倉は巨泉、マエチューは藤原紀香、デーブはクリントン元大統領。師弟関係の小倉はともかく、マエチュー、デーブはたった一回の邂逅を親友のように語っているのがミソだ。絶対相手は覚えていないぞ。 大物芸能人との関わり合いを示すことは芸能界的には権力の誇示にもなるわけだが、「とくダネ」でのそれは「共感」として機能している。本人や現場を知ってるから当人に近い気持ちで語れますよ、という分かりやすい論理だ。しかし異郷の存在であるべきはずの芸能人を同じ目線で語ることに何か意味はあるのか。 この希薄な共感で小腹をためようという体質は見事なまでにW杯騒ぎと同じ構造で、やはりというか「とくダネ」は連日、奥さん視聴者層を完全無視してオーレオレオレニッポンウキキキキー状態。チュニジア戦当日は小倉が青シャツ、青ネクタイ、笠井アナがサッカー柄ネクタイで登場し、佐々木アナは「番組終わったらユニフォームに着替えます!」と何もしていない自分を恥じるかのように宣言した。サッカーに対する知識や自分なりの歴史を咀嚼してコメントで提示する、というキャスターの仕事なんて最初からないかのように「関わっている」信号だけを発するのに全ての力を費やす「とくダネ」。まあ今は「僕もニッポン応援してるよウキキキー」と思考停止してウェーブ決めたがっている趨勢が圧倒的なんだろうが。何も知らない奥さんはその隙間からしかW杯に入っていけないのだろうし。 気がついたら自分の訃報よりW杯に思いを馳せていてしまった。自分だけは飲みこまれるまいと思っていたが、まさか最後の最後に。おそるべしW杯。私の心残りは未だかって満足なコメントを発したことがない室井佑月が、コメンテーター押せ押せのW杯でどんな稚拙なコメントを残したかをチェックできなかったことか。あと「会って自分を知ってもらえれば辛辣なことは書かれないはず」と信じていた小倉とチューメイには最後まで私のコラムの趣旨を理解してもらえなかったのが残念。ってそれはうそ。これだけ本人の人格とメディア内人格は違うって書いてるのに。やはりというか、私のコラムの読者層とW杯フィーバーに最初からない尻尾を振る層は、まったく対になっていることを再確認できてよかったのかも。最後なんでしおらしくしめてみました。 じゃあ私は青森に帰りますよ、ってことで。 |
まあ座りなさいよ。いいんだよ上司の俺がいいって言ってるんだから。そういう時は座るもんなの。 何で呼び出されたかさ、おまえ分かってる? ああ分かってるのな。そうか自覚はあるんだ一応。そうだよ、おまえが次長によろしくお願いしますって電話一本入れなかったから先方すごい揉めちゃってるんだよ。 おまえさあ、何度も言うようだけど自分だけよければいいの? 自分だけふるポテ振れればそれでいいの? 人のことなんか全然考えてないのな、おまえって。ローソンの隣にローソン建てちゃう人間なんだよ。あげくの果てに日照権一人占めしちゃうタイプ。 若い奴ってのは、なんでこうさあ、欲がないのかね。おまえってカレッジチャートにランクインしたら満足しちゃうね絶対。上見ないね。ソバ食ったら明日はコロッケソバって思わない? カレー食った翌日はカレーパンって発想ないの? 何だろうね、俺から言わせたらプライドばかりあるんだ。自分だけ別だと思ってるんだ。自分がインスタルメンタル演奏してるからって特別視してない? そうやっていつまでメンバーチェンジ繰り返すつもり? 全然特別じゃないよ、おまえなんか。映画のエンドロール最後まで見たからってその映画誰よりも理解した気分になってるんじゃねえぞ! 仕事無難に済めばいいなーとしか思ってないだろ。つぶし利くからって経済学部選んでね? 心理学科入ったら意外に地味な実験ばかりで凹んでね? フローリングの物件にこだわりすぎて大事なもの見失ってるよ、おまえ。ロフトにはしゃぐのなんて最初だけだからな! 要はさ、カッコばかり気取られてるの。キャッシュバックキャンペーンに踊らされてるんだよ! 間接照明だったら何でもいいのかよ! 婦人雑誌の重さに挫けてるんじゃねーよ。二段組の小説を避けて通ってるんじゃねーよ。何度閉店セールしたら気が済むの? おまえがそんな態度だか先方はいつまでたってもパケット通信中なんだよ! いいのかよ、気がついたらおまえは和民チェーンの傘下になってるぜ? 実家帰ったらどこもかしこもパーキングだぜ? ・・・あのさ、俺だっておまえが憎くて説教してるんじゃないんだ。分かるよ、俺も新人の時同じ道通ってきたんだから。そりゃあ好きじゃないミュージシャンのMCは確かにつらい。でもな、いいか、外タレだってみんな好きでダジャレCMやってる訳じゃねえんだよ。 だからいくら網棚捜したって「ぴあ」はないんだよ。朝礼台の下には何も置いてないんだよ。自分から積極的に仕事してかないとダメなの。二歩でいいじゃん。間違えて同じコミックス二冊買ったっていいじゃん。攻めないと。仕事は攻めていかないと。俺なんか日めくりカレンダー一日に二枚破いてるよ。白線の前で電車待つよ。中華の円卓回すときだって、誰にも取らせねえっていつも思ってる。大丈夫。当日券がいっぱい余ってても、おまえがチケットセゾンに並んだことは無にならないからさ。はい、いいよ、デスク帰って。話はこれでおしまい。 ああ課長どうも。今ですか? いやあ課の若い奴にちょっとね、まあ説教みたいなものをね。ええ。しかしあれですな。何言ってるんだか分からないって顔して聞いてましたけど、本当に若い奴は理解しようって気はあるんですかね? |
爆笑。 私のように人を笑わせることに重きを置いている人間にとって、なんとも甘美な響きがする言葉である。爆笑。ああ口にしただけで腰の下が溶けそう。今のところ「松浦亜弥」の次に口にするだけで嬉しい単語だと思う。 しかしながらギャグに携わる者ならば誰でも知っているのだ。本当の爆笑なんて人生で数えるぐらいしか巡り合えないということを。 そして私は今日その爆笑と遭遇したのだった。
昨日まで空を覆っていた曇り空はどこへやら、今日は朝から染めたような快晴が続いている。私はお気に入りの音楽をかけながら洗濯をし、近くの市営ジムへと出かけるべくジャージに着替えた。仕事も人間関係もおおむね良好。いくつかの些細な悩みを抱えながら、人生はまずまず快調だ。
笑った。 |
「雪が激しくなってきたなあ。岡村、さっきの道は正しかったのか?」 |