語らず、笑え

笑いを見た記録・2004年下半期


12月27日/Eggman「WHO is MAKITA?」
12月23日/ルミネtheよしもと「センマ」執筆中
12月22日/しもきた空間リバティ「絹。7」
12月20日/Zepp Osaka「バッファロー吾郎の23時間半ライブ」
12月19日/笹塚ファアクトリー「ジャリズム☆ナイト」
12月17日/シアターD「渋谷新人計画」
12月16日/ルミネtheよしもと「7じ9じ」
12月14日/M−1雑感
12月12日/ルミネtheよしもと「漫ビキTOKYO」執筆中
12月12日/シアターD「毒娘音楽隊」
12月8日/PARCO劇場「志の輔らくご」
11月25日/シアターサンモール「み〜んなよしもと」
11月21日/笹塚ファクトリー「ジャリズム☆ナイト」
11月13日/下北沢「劇」小劇場「定本 喬太郎伝説」執筆中
11月12日/ルミネtheよしもと「7じ9じ み〜んなよしもと」
11月11日/下北沢「劇」小劇場「定本 喬太郎伝説」
11月5日/シアターD「渋谷新人計画」
11月3日/下北沢駅前劇場「シベリア少女鉄道・VR」
11月1日/本多劇場「トータルテンボス漫才ライブ・馬鹿武者」
10月31日/笹塚FACTORY「ジャリズム☆ナイト」
10月5日/シアターモリエール「キュートン」
9月11日/シアターD「東京麒麟ショー」執筆中
9月7日/ルミネtheよしもと「80杯・決勝」
9月2日/ルミネtheよしもと「80杯・準決勝」
8月26日/シアターリパブリック笹塚劇場「吉本新人計画」
8月24日/baseよしもと「ガブンチョLIVE」
8月23日/ルミネtheよしもと「ジェットボールアワー`04」執筆中
8月22日/BankART1929「本間しげる単独」だから執筆中なんだって
8月11日/千本桜ホール「増谷キートン単独・あやまち」
8月8日/恵比寿エコー劇場「スピードワゴンライブ[1998-2004]」ちゃんと書くから
8月3日/北沢タウンホール「東京ダイナマイト単独ライブ〜ユナイテッドステイツオブニッポン〜」震えて待て!
8月2日/紀伊国屋ホール「DVD「スジナシ2」発売記念・笑福亭鶴瓶トークショー」
7月31日/ルミネtheよしもと「タカアンドトシ・ブタまんま」
7月31日/SPACE107「チョップリン・BOOK」
7月29日/青山スパイラルホール「長井秀和単独・MONOMANIA」
7月19日/ルミネtheよしもと「元クラウディーズ」
7月17日/ルミネtheよしもと「新ジャリズム祭り」
7月14日/シアターリパブリック笹塚劇場「吉本新人計画」
7月13日/シアターモリエール「漫才orDIE」
7月13日/ルミネtheよしもと「80CUP2004」今、考え中です。細川君と同じ意見です
7月3日/ルミネtheよしもと「アウタースペース〜3つの空間〜」
7月2日/シネクイント「やりにげコージー・裏ビデオ上映会」

12月27日

日々ギャグを浴びて身をヒリヒリさせていないと気が済まない劇場通院者にとっては、M-1グランプリも笑いという大河において観光客が群がる1スポットに過ぎないのである。ということで今日はマキタスポーツの1st単独ライブという、もう一つの”M-1”へ。
くすぶる中堅野球選手なみに改名を繰り返すEggman改めてEgg Site改めEggmanで行われたライブはがっつりとバンド形式で、この日もっとも力を入れていたネタはミュージシャンの世界観模写。小器用に長渕剛から椎名林檎までの楽曲をそれっぽい詩やメロディラインで作り上げて、ずいずいと小馬鹿にしていく。
顔の芸人濃度、動きのキレ、諧謔的な笑いのセンスはどれも一流なマキタであるが、音楽という戦場にこだわりすぎる気も。同種のネタで切り込むポカスカジャンには音楽性で及ばないし、精密なモノマネが売りというわけでもなく、競技を間違えてハードル走ばかり練習している印象なのだ。走り高跳びに特化すればとても高く跳べる芸人なのに。
あともしミュージシャンでいけることがあるなら平気で芸人を捨てそうな”鶴ちゃん的志”が時折見え隠れするのも警戒せねば。ところで特典として無料配布されたマキタ学級の手焼きCDはなぜか3曲目以降が再生不能に。メジャー気取りでCCCD導入でもしたのか。そのうちオフィス北野・森社長も退陣に追い込まれるぞ。

12月22日

演劇系コントを中心に、1組に15分が与えられるショーケースライブ。大袈裟でも何でもなく、20年ぶりに、そして生で初めて太田スセリ(元・ペコちゃん)のネタを見た。古参OLを演じる一人芝居は手堅い出来で、モロ師岡のネタをそのまま女性に移植したような質感。モロ師岡の妻の楠美津香(元・ふらみんご)の一人芝居よりモロ師岡的であり、太田光の妻・太田光代より太田プロ的なのだ、って私の伝えたいことを理解してくれる医者はこの国にいるのでしょうか。
M-1グランプリを控えた東京ダイナマイトは、カーテンコールのトークで「漫才をぶっ壊してやる」「決勝用のネタをスタッフに伝えたら、危険と判断されて会議にかけられた」と嬉しいビッグマウスを連発。ちなみにこの日披露したのは談志「芝浜」さながら冬の定番ネタ「肉マン」。このネタを知って10年近い年月が流れた。そろそろ夏用にアレンジした「あいすまんじゅう(丸永製菓)」を見たいものである。

12月20日

『ダイナマイト関西』が笑いのナイフを咽喉元に突きつける企画であるなら、23時間半ライブはそのナイフを使って延々と林檎を剥き続けるようなイベントだった。終演後、胸に押し寄せてくるものは「凄いものを見せられた」という感動でなく「大爆笑もだだ滑りもあった。まさに人生って幾年月」という感慨。剥いた林檎を何に使うのかはよく分からない。
当初は「おしゃべりサラダ」の増量版と聞いていたが、始まってみればこれまでバッファロー吾郎が臨床実験を繰り返していたイベント企画がめくるめく投下される。印象に残った場面を列挙すると、
・打ち合わせを公開したユニットコント制作では、一休さんを下敷きにした「頓知よ静かに流れよ」なる全面的に男闘呼組にオマージュを捧げたコントが完成。そして軽いネタ合わせののち、バッファロー吾郎・竹若が披露したダークサイド一休さんのキャラは、エグいこと山の如しグロいことボタ山の如し。あんなにちょっとセリフをなぞっただけで、こんな完成度の高いコントが出来上がるなんて。マンガが実写になるのではなく、2次元世界がそのまま立体化したのを目撃したような衝撃を覚える。
・タイトルのみ与えられる即興コント対決企画。最初に登場した浅越ゴエが巧妙な演技と見事な筋作りで物語の生地を生み出し、続く出番の竹若と友近が美しい意匠を織りなしていくが、さらに南海キャンディーズ・山崎の登場で物語は裂帛。加賀友禅の花嫁衣装が九分出来上がっていたはずなのに、突然袖なしジージャンが生まれたような展開に。さらに相方の山里もフォローするでもなく、その袖をどんどん短くするような芝居をしていた。二人揃って俳優としては0点で芸人としては高得点。
・朝8時前後の朝の体操指導として、なかやまきんに君が舞台に上がる。眠っていない客の白濁としたテンションも手伝ったのか、追い込まれたなかやまきんに君のギャグが全打席長打を叩きだし、きんに君の芸人人生ベストワークではと思うほど、場内が大爆笑に包まれた。さらにその波に乗らんとばかり飛び出したのは東京から唯一の刺客・サブミッションズ。談志姿で現れたサブミッションズ前田は江川・掛布・西本の80年代野球選手模写にくわえて、武藤敬司、金本浩二、テリー・ファンクとプロレス物真似を延々とこなし、会場の空気を一気に外気より低い絶対零度まで落としていた。さらにバッファロー吾郎とのプロレスごっこは、大阪府内で笑っているのは私と男性数名という非常事態で、「ランバージャック・デスマッチだ!」と叫んでいた割りに、結果は両者リングアウトであることが歴然。
・矢野兵藤・矢野の腰の座った泥臭いトーク、「ダイナマイト関西」でのプラン9・お〜い!久馬の魚眼的発想力、南海キャンディーズ・山里のインチキ臭さが刺激臭クラスの漫談など、見所は当然ながら満載の中で、個人的にもっとも輝いて見えたのは、ケンドーコバヤシ。関西人に「何を今さら」と鼻であしらわれるのを承知で書けば、脳にストックされたマンガ、プロレス、テレビ、それ以外の単語量と引き出すスピードが尋常ではない。ハゲズラをかぶった竹若に「ルパン3世で卵型爆弾作った博士みたいですね!」の例えに私は悶絶した。記憶はおぼろげなのにコバヤシの口から発された瞬間にイメージ像が形作られる凄さ。杖振れば何か笑いが生まれる、創造神のオーラが見え隠れする。
・それに対してだだすべりの悪魔に魅入られたのが、レイザーラモン・出渕だ。早朝にプロデュースした「欽ドン!」のパロディ企画「イズドン!」は、演者が「空を舞う埃が見えた」と語ったほど、舞台には核戦争後に残された世界なみの静寂と無風が広がっていった。その光景が半覚醒状態の脳裏に刷り込まれたのか、それ以降、出渕には女子の雲固を食べた生徒に向けるのと同等の視線が突き刺さり、何を言っても観客はほぼノーリアクション。もうzeppのステージに種を蒔いても花は育たないかもしれない。
イベントが終わってみれば、バッファロー吾郎とケンドーコバヤシのナイフは私の心を貫き、出渕のバターナイフは心のパン耳に安マーガリンを塗っていった。そしてサブミッションズは刺客にかかわらず東京に匕首を忘れてきたような気がする。

12月19日

笹塚に拠点を移してから毎回見ているジャリズムは、どんどん肩が暖まってきている感じ。渡辺はキレのあるボケが戻ってきただけでなく、やたら大声を上げたり、さらに大声を上げたままハーレーに跨る奇行を繰り出すなど、笑いの国定教科書にはどこにも書かれていない”狂気”の部分も垣間見れて嬉しい。山下も低い温度でツッコんだり、トークをふくらませては自爆するなど、いい仕事ぶりを発揮。今のジャリズムを見ていると、滅んだ恐竜のたった遺伝子一つがうまいこと復元したような感慨を覚える。
ところでこのライブで特筆すべきことは客の雰囲気の良さ。過剰に笑うヌケサク、ライブ中に携帯電話で時間を確かめるへちゃむくれが誰もいない。渡辺が今年思いついたNo1ギャグとして披露した「”女尻シリーズ”を見る時は、部屋の電気を点けて遠くから見てね!」(本当にいいギャグだ)は、客の3割を占める男性が爆笑し、残りの女性は沈黙をキープと見事なまでの良識に落ち着いていた。私がAVを見る時は部屋を真っ暗にしてモニターに鼻をこすりつけるが、人妻ものと痴女ものしか見ないので特に問題はありません。

12月16日

ケンドーコバヤシのMC見たさに忘年会で浮かれる渋谷へ。イブニング親父。風に言うなら、夜の街へレッツゴー。
登場するのは吉本興業若手なのに、様相が奇天烈山の8合目を越えた芸人ばかりのため、事務所対抗ライブを見ている気分に。ボケの少年がロボトミー手術明けみたいな役満はどう見ても大川興業、メンバーの一人にイラン人が潜伏しているデスペラードはどう見てもオフィス北野の芸風だ。あとキャベツ確認中と指圧野郎はリットン調査団ファミリーの遺伝子を受けすぎ。
さて上のビジネスクラスに昇格したのは、デスペラードとライスの二組だった。女性アイドルを二人で演じるデスペラードは純度の高い怪しさで大層面白かったのだが、驚いたのはこれが初舞台というライスだ。父親が不良に料理を教えるコントは新人らしからぬウェルメイドぶりで、笑いを取る手段も多彩。プロレスのデビュー戦においていきなりオリジナルホールドで勝ったみたいなもの。このまま発想が伸びれば、ケンドー・カシン製作の紙ベルトぐらい巻けるかもしれない。
それに対してウェルメイド感が皆無だったのは、思いついた発想を片端から舞台にかけた指圧野郎。客のツボを探ることに失敗し、指圧店が午後休業に陥るような有様に。それでも面白いことがフルタイム言えるフェロモンを発していて気になる。 しかしお笑いフェロモンでいえば、ケンドーコバヤシの発するそれは五月みどり級。初対面の芸人が目に入った刹那、いきなり投げかける例えはどれも絶品で、私は体をゆすって笑った。以下、ダイジェストでどうぞ。
「アフリカの死体みたいな顔してるね。白人だけど骨格は黒人みたいな」「自分、花くまゆうさくのマンガ出てなかった?」「胡散臭いわー。ヨーロッパの詐欺師みたいや」「よー蕎麦屋に置いてある、得体の知れない神様みたいな顔しとるな!」「君は少年院で骨抜きにされたの?」「そういうわけで印刷所の生活が嫌で飛び出してきた二人なんですけど」

12月16日

笑い飯、麒麟を目当てにチケットを購入していたら、タカアンドトシが代演で登場する嬉しい誤算に。タカアンドトシは普段よりぐっとテンポを抑えて、M-1に向けて馬体重を最終調整している感じ。上手さと安定感が見え隠れした笑い飯には理不尽な寂しさを覚える。
それより何より中川家である。M-1グランプリ決勝進出で場内の期待値が膨れがった二組よりも、はるかに大きな笑いをかっさらっていってしまった。中田カウスの至言「漫才とは二人の仲を見せつけるもの」を体現するような舞台で、剛が好き勝手なことを呟いては、礼二も思いついたモノマネを投入とやりたい放題。ギャグの速さや馬力を競う若手に対し、持久力や投擲の距離で勝負するような漫才で、テレビのネタ番組では伝わらない笑いに思わずうっとりする。
新喜劇では東野幸治がヤクザの組長、その手下役としてほっしゃん。&ジャリズム山下が登場。やりにげコージーファミリー勢ぞろいという奇跡の配役に場内は色めきたち、ウェイブを200往復にスタンディングオベーションを朝まで敢行する。ついでに出て来いJ(杉作J太郎)! 私服のままステージに上がって来いJ(杉作J太郎)! 役者もJへの想いで頭がいっぱいになったのか、セリフ噛みが途方もなく連鎖する惨事に。終演後、退場するどの客も「噛みすぎだよねー」と口にしていたが、私がもっとも印象に残ったのはほっしゃん。はのモノのデカさだった。縦縞のルーズなパンツを履いてるだけなのに、チムコ山脈の稜線がくっきり。その向こうに夕焼けが見えるかと思った。

12月14日

11月28日
予選も見ていないし不毛な行為と知りつつ、今年もまたM-1予想を。昨年は決勝進出8組を完璧に――大穴枠が千鳥、ものまね枠がショウショウ、ピン芸人枠がエディ・マーフィーであることまでも当てた私だ。業界の注目を無視するわけにはいかないだろう。
予想としては、
POISON GIRL BAND、千鳥、チュートリアル、タカアンドトシ、南海キャンディーズ、品川庄司、シャンプーハット、スピードワゴン(いろは順)
さすがネタをやると聞けば『シブスタ』までチェックする男は言うことが違う。この1ヶ月間考え抜いた布陣を眺めて改めて思うのは、絶対当たらねえよ、これ。
関東−関西、吉本−非・吉本のバランス、さらに実績を考えたら、アンタッチャブルと笑い飯が登場するという考えが妥当なのだろう。しかし少なくとも今年のM-1は過去になく荒れるのではないか。今村荘三氏が秀作『漫才通』で指摘した通り、「よくできたネタ」「面白いネタ」より「勇気あるネタ」に対する評価の比重が高まり、それがもっとも顕著な大会になるような気がする。私もM-1の舞台で正しい漫才の枠組みを無視したスピードワゴンの交通試験ネタ、千鳥の千円札の肖像ネタ、品川庄司がオンエアバトルのチャンピオン大会でかけたコンビ解散ネタを見たいのだ。
唯一自信のある予想は、ワイルドカードでタイムマシーン3号が出てくること、レコード大賞新人賞が大塚愛ということぐらいである。

11月29日
M-1グランプリ2004の決勝進出組が正式発表される。
トータルテンボス、東京ダイナマイト、POISON GIRL BAND、タカアンドトシ、アンタッチャブル、笑い飯、千鳥、南海キャンディーズ
去年までのM-1は何だかんだ言っても、一国が戦車を買ったり人員を増強して兵力のパワーバランスを充実させるスマートな戦いだった。しかし今年のメンツは鎌を振り回した白兵戦。戦争というより町一番の力持ちを決める腕相撲大会だ。下準備云々ではなく、その日一番調子の良かった猛者が勝つ。
しかし感心するのは審査員の腹の座りよう&センスで、よくもまあ東京ダイナマイトを選んだものである。これまでほとんどの単独に足を運んだ私ですら、東京ダイナマイトの漫才は3回ぐらいしか見ていなくて、当然、競馬場でゲートが開いたらスーパーカブが疾走していくような漫才だった。あとこの結果によって12月のPOISON GIRL BAND単独がより楽しみに。
そして予想的中率が今年も10割を記録した自分の眼力には、戦慄を覚えずにはいられない。8組中4組が当たったまでは5割だが、「今年のM-1は荒れる」という予想を正解率7割と斟酌すれば、結果12割。余った2割はamazonで商品購入する時、プライスオフに使ってしまおう。

12月14日
M-1グランプリで懸念されていた松本人志の審査員辞退が、いよいよオフィシャルな場において発表される。
比喩に野球を使うのは工夫が足りないことは知りつつも、第1回M-1グランプリはそこそこ急速が出て制球力もある先発完投型投手の見本市だった。
それが今年は投手としての総合力より、誰も投げられない決め球があるかという一点が問われる大会に。ノーコンだけど球は滅法速い笑い飯。打者にぶつけても内角を突ける千鳥。軽い球質ながらもスライダーとシュートが異常にキレるタカアンドトシ。ドロップは1メートル落ちるが、たまにバッターに届かないPOISON GIRL BAND。実はドリームボールを隠しているらしい南海キャンディーズ(どちらが水原勇気でどちらが岩田鉄五郎かは未確認)。いい時は完全試合、悪い時はクラブハウスでお腹を壊す、東京ダイナマイトは外国人投手で、フライを取る時、デカい声を出せるのがアンタッチャブル。あとトータルテンボスの藤田は、投手だった静岡の高校球児時代に肩を壊しました。
そんな若手が審査員から3アウト奪取を狙うというのがM-1グランプリの命題だとしたら、もっとも投げにくい相手が誰かは語るまでもないだろう。そう、なあなあの審査がはびこる中、一人だけ辛口評論で気を吐く針すなお先生だ。清水アキラがさんざん下ネタ振りまいたあとに泣こうがビジーフォーが誰だか知らねえ70年代のカッレジチャートミュージシャンのマネでお茶を濁そうが針先生が8点といえば8点! でもJT広告の針先生の似顔絵は7点。
それはさておき、松本人志である。第1回の麒麟は松本人志から鮮やかに1ストライク取っただけで、その存在を世間に焼けつけた。回を重ねるごとに松本からカウントが稼ぎやすくなっているのは明白な事実で、今年あたりその姿は日ハムにトレードされた時期の落合博満と重なるような気もする。しかし晩年を迎えようと落合は落合であるように、我々はバッターボックスで静かに若手のフォームを睨む松本の姿を見たいのだ。ある意味、M-1のMは松本のMなのである。あとものまね王座決定戦のM。

12月12日

POISON GIRL BANDの初単独は、「こんな時期に単独やらせて……」「1日でライブ用のネタを作りましたから」と吉田が多忙のあまりジーンズを洗っていないせいか、踵を何度もさすりながら愚痴った通り、入場料の500円に見合った完成度。「やる気がない」「テンション低い」「声が小さい」と見られがちなコンビだが、この舞台によって普段は1000円以上の入場料に見合った気概で挑んでいることが判明する。
といっても、ぐだぐだの漫才、ずぶずぶのコント、コンマニセンチとのスカスカトークを見せられたところで、真剣と適当の境界線が全く見えないため、結局はセンスに押し切られて面白いことに。一番ヘロヘロになっておかしくない後輩芸人を招いてのゲームコーナーが一番盛り上がったのは、ある意味シュールな結果である気も。とりわけポイントゲッターになったのは平成ノブシコブシ・吉村とグランジのボケ担当で、自ら面白くないと思う先輩芸人を果敢に告白した吉村の蛮勇には心を奪われる。その芸人が誰であるかは、口が裂けても6Bの鉛筆が折れても絶対に書くまい。ヒントになるようなフレーズも墓場まで持っていくつもりだ。
それはさておきエンディングで告知されたのは、来年2月、ルミネでPOISON GIRL BAND単独が決定したという衝撃の事実だった。全観客がM-1グランプリ出場よりも不安な気持ちに駆られたことだろう。あとそれまで平成ノブシコブシ・吉村が芸人生活を真っ当できるのかを含めて、いろいろと不安は尽きない。不安は尽きないが、笑いに待ったはないのだ。待ったなしなし。

12月8日

初めて生で立川志の輔の高座を鑑賞するため、馴染みのないPARCO劇場へ。以下、公演の仕掛けと『ポートピア連続殺人事件』の衝撃の新犯人が明記されているので、これから見る人は注意を。
当日券を求めたところ、与えられたチケットはなんと補助席ながらも前3列目。喜んで劇場に入ったのだが、補助席は縦一列に並んでおらず、前方の固定席と階段の間に生まれた奇跡のようなスペースに一席だけが押し込まれているだけ。荒野にぽつねんと置かれたスケベ椅子に座る心境で、幕が上がるのをひたすら待つ。
やがて舞台にスポットが当たり、志の輔師匠が登場。舞台角の一画にやけに厳しい目を送るので不思議に思っていると、発した声ががっつり掠れているではないか。マクラもいかにも調子を探りながらという感じで、場内に柔らかい緊張の空気が流れる。とはいえそこは落語という線の演芸の力で、話が進むごとに空気がなだらかに解けていくのだった。 演目は昔話の解釈をめぐる「こぶとり爺さん」とママさんコーラスの混乱を描いた「歓喜の歌」。後者では噺が終わると(これ以上読むとボッコちゃんの正体が書いてあるぞ! 覚悟はできてるのか!?)背面の舞台が割れ、突如現れたママさんコーラス隊が「第九」を熱唱するという衝撃の仕掛け。それよりすごいと思うのはこれだけ派手な演出をしておいて、その後、古典落語で締めるという矜持である。
最後に披露した落語は人情噺の「浜野矩随」。浜野矩随とは人名そのもので、要はバンドとボーカルの名前が同じボンジョビみたいなもの。主人公がワールドツアーを成功させ俳優に転進するくだりでは場内すすり泣きだ。人情噺は好きではない私も、「鼠穴」やら「文七元結」やら、志の輔師匠が演じると朗々とした声のせいか、ぐいぐい引き込まれるのだった。たいへん満足度の高い舞台に。
ひとつ気になったのは開幕寸前に観客に注意を促す場内係員の態度を、志の輔が軽く茶化したところ、中入り後、係員は涙にむせんでアナウンスがまともにできない事態になったこと。あれは歓喜の涙だったのか怒りの嗚咽だったのか今でも謎だ。『ポートピア連続殺人事件』を解く彼女に、誰かが犯人はヤスであると教えたのかもしれない。

11月25日

関東・関西を問わずイキのいい吉本興業若手を集めたショーケースライブは、さすがに選ばれて上京した関西勢が力で圧倒。
初めて生で見る南海キャンディーズはやけに高い二人の背丈が迫ってきて、気持ち悪さと不条理感の波にさらわれる気分を味わう。千鳥はくだらなさの極北・もしくは悪ふざけの北アイルランド“趣味が中世ヨーロッパ”ネタ。テレビで見た時から「なぜこのネタを思いついたのか」「どうしてまた舞台でかける気になったのか」「これを面白いと思う自信はどこから来るのか」と頭の上をでっかいクエスチョンマークが軽く500はよぎっていったが、目の当たりにすると方向転換前のIRA級の破壊力。今考えるとこの2組は週末に迫ったM-1準決勝の最終調整だった気もする。
一方、同じ環境だったPOISON GIRL BANDは飄々と“新宿で俺は目をつぶらない”ネタ。というか与太。今年の前半はありネタをこなさないことに心血を注いで笑いの精霊から見放されているように映ったが、久々にバカの発想が完全復活モードに。そして相変わらずツッコミの吉田はネタ中に左の二の腕を触りすぎ。あの無機質感からして、ネタが詰まったら腕をスポッと取ってごまかそうとしているに違いない。もはやIRAを越えてコブラの世界。

11月21日

地元の劇場にジャリズムのトークライブへ向かうと、ありがたいことにオープニングではネタを披露。まず渡辺が演歌の司会の前口上を何パターンかこなしたあと、
「これからは漫才師もピンで頑張らなあかんと思うねん。だから俺、ひとりコント考えてきた。見てや!」
もはや漫才ではない。というかこれ、額面通り受け取るなら復活を全否定じゃないか。
それはさておき宿題のコーナーになると、渡辺は考えてきた一発ギャグを滔々とこなしていくのであった。その衰えを知らないギャグ生産力を見ていると、つくづくジャリズムを目撃できる喜びを感じる。
やがてギャグに詰まった渡辺はネタ帳を繰りまくって、「鎖骨の窪みに醤油をつけて寿司を食べる」ギャグを見つけ出す。なんとネタ帳の「テレビの企画」欄に記されたフレーズとのこと。掘っても掘っても出てくる果てしない油の埋蔵量。いつかそれが尽きたとしても、山下の鼻頭を押さえれば微油がにじみ出てくることだろう。それがコンビというものなのだから。

11月12日

あまりの豪華な布陣にくらくらして、思わず会場に駆けつけ当日券を購入。しかし面子ほどにはインパクトに欠ける内容だった。一番出来がよかったのはタカアンドトシ。
レギュラーの人気にはすさまじいものがあって、「あるある探検隊」もいちいちマイナーチェンジを施しているため、飽きずに楽しめる。とはいえ薬の服用が効いて筋力もつき、記録がぐんぐん伸びている状態が今であるような気も。早く「あるある探検隊」を手放さないと、そのうち副作用に襲われる予感がしてしまう。実際に松本の腹回りはずいぶん膨張してはいないか?
そして個人的に舞台から目が離せなくなったのは、友近のウインナー店頭販売員ネタ。ラジオでケンドーコバヤシに「あのネタ、地味すぎるからうめだ花月で全然ウケへんやん! やめときって!」と注意されても、「あれ私好きなんです。だからやめません」と宣言していたネタで、噂通りおそろしく地味。地味を通り越してアイスの棒に岩塩かけてなめているような味。
しかし静かな観客を前にネタを演じる友近は、「やっぱりうけへん。まずい!」と焦る様子もなく、かといって理解不能な笑いを提供しては客を突き放すのが至上とでもいった勘違い風情でもない。自分が面白いと思うことをただただ淡々とこなす佇まいは“芸人”としか表現しようのないオーラを発しているのだった。すごい、と息を飲みつつも笑うところはほとんどなし。深すぎる、友近。はたまた舞台を去り行く背中はケンドーコバヤシが「カナダ」と例えたように大きく映った。深いだけでなく、広い。

11月11日

柳家喬太郎が第一期の集大成として、毎日演目を変えた8日連続公演「喬太郎伝説」が開催中であることに突然気づき、慌てて下北沢へ。
やさぐれたライターとそれに尽くす女の悲哀を描いた「仮名手本五段目異聞・猪会談」は人物描写力がすさまじく、まさに“劇団ひとり”の装い。かと思えば「一日署長」では、内輪受けあり、自虐ネタあり、持ち歌の「東京ホテトル音頭」熱唱ありと一人バラエティ番組状態。緊張を誘う展開で身が固くなったり、自虐する気弱さに笑ったりと完全に演者の掌上で踊った気分は「面白いじゃん落語! やるじゃん女の子!(双眸を一方向に寄せた渡辺美里の顔マネ)」だ。
ちなみに「東京ホテトル音頭」の姉妹編には「東京イメクラ音頭」「大江戸ホテトル小唄」があるらしい。いつか西武ドームで聞くことができる日を祈ろう。

11月5日

あるツテで無料入場できるというので向かった、初めての渋谷新人計画。客席を席巻しているのは脳が小さいサイコロでできている女子高生たちなのかと思いきや、周囲を見回すとマナーのいい20代や落ち着いた夫婦が目立って、身内係数は学生演劇のような高さに。
この公演はルミネ芸人のヒエラルキーにおいては、舞台に上がれる最下層の枠(さらにその下には舞台に上がれないスーパーアンタッチャブル層もインド人口の9割を超える勢いで存在する)で、当然、中学生のお別れ会ですら教室を凍りつかせそうなレベルの芸人がちらほら混じっている。とはいえ真っ暗な深海で時折才能がペンライトのように光るのを見つけるのは楽しいものだ。
今回印象に残ったのはハリセンボンという女性コンビ。二人とも全身に枯葉剤を塗りたくって完全に世界から華という華を撲滅したような気の毒なルックスをしているのだが、ボケはセンスに、ツッコミは技術に鮮やかな色が見え隠れした。あと自衛隊上がりで元・新潟のお笑い集団NAMARA所属、極寒地から匍匐前進で抜け出たような経歴のヒッキー北風というパワープレイ芸人も、典型的な“人生是芸人”タイプでたいへん気になる。
舞台に身内がいない私が唯一見守る視線を向けていたのは、POISON GIRL BANDのMCで、前回のMCが相当なていたらくだったらしく、作家にキレられて1年半もチャンスが回ってこなかったとのこと。今回見たぶんでは、なんだ結構喋れるじゃん、やっぱり脳のお笑い野が発達してるじゃんという感想。1年後にシアターDでそのMCする姿が見られることを期待している。

11月3日

ワンアイディアに基づいてハイパーなバカコントを作り上げる劇団・シベリア少女鉄道は、手術室を舞台にした「ER」のパロディ。
バカを塗りたくったらリリカルな詩ができたような舞台に満足していると、席を同じくしていた者が「この手法って昔××がやってたよねえ」と感想を述べるので、リピーターから前回公演と比較の俎上にさらされやすい劇団の不幸に改めて気づく。2度見たら早くも「前の方がよかったよなー」という“とんこつラーメン屋パラドックス”が語られ、その論理に尽かれた者からはしばしば演技力の向上すらも否定されてしまう。
はたして今回は劇場の天井が突き抜けるほどの新しいアイディアはなかった。しかしバカの濃度を濃くしてとんまの精度を高める方向性は見えたのである。新しいスープが生まれなければ、チャーシューを異様に煮詰めたり、海苔を花びらのように敷きつめたり、生海老入れたコップで裸の女をくすぐるなど、“方法論”ではなく“工夫”で勝負する段階に入ったのではないか。
それにしても横溝という挙措が不自由な役者は、立ち振る舞いがいちいち私に似ていて困る。具に紅しょうがを切らしたからとりあえずチェリー入れときましたって存在感で冷静に見れないんだよ!

11月1日

ここ最近、つまらない漫才を見なかったトータルテンボスの単独へ。おそらく新ネタであろう漫才を6〜7本ほど。
大村のギャグが相変わらず軽いのは持ち味としても、カギを握る藤田のツッコミの有効な手数が少ない。「はんぱねー」はあと2000回くらい連呼してもよかったのではないか。5分に凝縮させると面白いのに、2時間だと少し長く感じた。それよりもラフ・コントロールの実にハンサムな前説が印象に残る。
しかし一番驚いたのは、声優コンサートやピアノ発表会の客がパブリックイメージと何ら変わることがないように、ライブの客もイメージ通り9割がチャラい輩ばかりだったこと。もしくはシャバい。あるいはきびー。当然、シャバいの意味はよく分からない。

10月31日

地元の笹塚でジャリズムが見れるということで迷わず劇場へ。内容はジャリズムらしい淡々としたフリートークや、渡辺の狂気が垣間見れるモノマネなど。
その舞台の様相が一変したのは、まさかのゲスト・FUJIWARAが登場した瞬間からだった。笹塚の小さな劇場でこの2組が見れるなんて……と感慨を与える隙を全く与えないほど、FUJIWARAの二人が攻めダルマになってしゃべり倒すしゃべり倒す。舞台に並んだFUJIWARAとジャリズムの関係は、アメフトでいうなら完全にオフェンスとディフェンス。ラグビーでいうならゴールライン3m前で延々とスクラムで押しまくってる状況だった。トーク泥棒というより、トークで小さな村なら破壊するぐらいの勢いだ。
やがてFUJIWARAがトークの絨毯爆撃をさらして去った後、客席は笑い疲れて完全な焼け野原に。そこでジャリズムがトークを始めると、持ち味の前に出すぎないトークが思わずすべってるように見えてしまうのである。恐るべしFUJIWARA。エンディングで用意されていた山下36歳の誕生日を祝うミニ企画も、再び現れた原西による人類の叡智を超えたギャグ「ロイロロイロイ」(説明不可能)3連発で文字通り吹き飛ばされてしまった。恐るべしFUJIWARA。それにしても肉眼で動きを追えないギャグを見たのは初めてだ。それに比べると、気合が入った渡辺は冒頭のトークで体内の水分が10%は減りそうなほどツバを飛ばしていたが、その液状の残像ははっきり捉えられるものだった。次回はツバが見えないくらい、もっと攻めちゃえジャリズム。

10月5日

キュートンファミリーが次々とドン滑り芸を披露する“ドンペリ”コーナーのインパクト強し。とりわけ絶好調だったのは、登場するたび整合性の欠片もない独りよがりコント(それも8割が下ネタで構築)を振舞い、「うわー」と叫びながら退場していくおかっぺ。舞台下手の客席で見ていると、固まった笑顔で去る様はベンザブロックCMの空飛ぶ森口博子を思わせた。きっと二人ともあのまま宇宙へ向かい、やがては塵となるに違いない。
カリカ家城曰く「同期の三瓶がいなければもっと注目されていた」というおかっぺであるが、どう見ても同じ地平には立っていないだろう。あのドテラは朴訥ではなくて、家で延々とテレビ見てる不登校児の象徴である。おパンツ! カルパッチョ固め! だからこのギャグはいつ使えばいいのだ。

9月7日

2年前に開催された5じ6じカップの盛り上がりに比べると、80杯の決勝トーナメントはほぼ“どんずべり”のムードに。
その理由は軽く1ギガぐらい思いつくが、象徴的だったのは決勝戦。トーナメント第1回戦と同じネタを繰り出してきたおはよう。と、冴えないコントを披露したトータルテンボスの対戦は、どちらが勝ってもいい戦いではなく、どちらが負けてもいい戦いでしかなかった。準決勝までのトータルテンボスの漫才は、言葉遊びに特化したネタと藤田の言語が絡み合って底知れないことになっていたというのに。この栄冠は完全に十両優勝のそれ。藤田がハワイから来たばかりの力士に見える。

9月2日

芸人36組が2ヶ月にまたがるリーグ戦を行い、チャンピオンを決める80杯。そのベスト16によるトーナメントに向かう。
普段注目していない若手に印象的なネタが多く、玉置浩二の「田園」を歌い上げたミルククラウンのしつこさ、胡散臭いサラリーマンを演じたピース綾部の蛾が燐粉を撒き散らすような存在感に笑う。綾部の容貌は一見爽やかに見えるが、顕微鏡で細胞を拡大したら「変態」の字が浮かび上がる顔をしている。
さらに衝撃を受けたのはこりゃめでてーなで、音楽教師のコントはキャリア2年とは思えないまとまりよう。産後1時間で歩き出して1歳の誕生日には経を読んでるような早熟ぶりだ。
それに対して、2年前の5じ6じカップで活躍したハローバイバイやカリカは低迷し、チャイルドマシーンに至ってはベスト16にすら駒を進めなかった。これは笑いのセンスがズレたのではなく、同じネタを繰り返しすぎて老朽化が著しく進行してしまった結果なのだろう。どんな見事な意匠の物件でも、壁にヒビが入っていれば金を出して住もうとは思わない。
かと思えば1回戦を勝ち抜いた古いネタに改良をくわえてリフォームを施すタカアンドトシ、中2精神剥き出しの悪ふざけコントをぶつけて飽きを防ぐパンクブーブーのような若手中堅芸人もいるのだ。パンクブーブーは日本庭園にバラックを建てるような違法増築ではあるけれど。

8月26日

人力舎から参戦したキングオブコメディがぶっちぎりの強さで吉本芸人を制する。3分半の制約の中、スピードをあげて無理矢理ネタを詰め込む“らしくなさ”を発揮していたが、それでも面白い。
私の中で今もっとも面白いコント師の座はドランクドラゴンからキングオブコメディに変わるかもしれない。ちなみにその前はジャリズム。その前はフォークダンスDE成子坂。とはいえ原点はデンジャラスにあるので、座ったところでたいした価値はないのだが。

8月24日

所用で大阪に来たついでに、通算3度目になるガブンチョLIVEを観賞。
以前キングコングやロザンが出ていた頃、人気のあるガブンチョ組は芸人基礎体力がついていないのにテレビや他ライブで使われていたせいで、週1でこしらえる新ネタは詰めきれなさや、コンビの磨耗ぶりがやけに目についた。しかし現在はガブンチョライブに専念させているらしく(エンディングで他舞台の告知がほとんどない)、見るに忍びないネタは以前よりも減った気がする。方針の胎盤が安定してネタの首が座った感じだ。
気になった芸人は、「バス事故に遭遇した時、人はどんな走馬灯を見るか」という、若手なら誰でも通過する定番テーマの漫才を披露したトリオ・にのうらご。最近のトリオは、明るくてタイプの似たボケ二人が差し障りのないギャグを交替で連呼する芸風が主流である中、ここのボケ二人が醸し出す雰囲気は断然に“陰”。そのわりにコンビネーションはしっかりしていて、握りを抜いたようなボケを切れ目なくつないでいくのだった。柔軟入り混じる、というより、暗い照明の中華料理屋で軟水と硬水をいっぺんに出されたような、口当たりがいいのだか悪いのだか分からない芸風で、たいへん気になる。
また同じくトリオ・三羽烏の教育実習生ネタは、完全にコンビで成立する展開に、終盤間際になってもう一人のボケがからむ新鮮な構成。コンビではプラスマイナス、イシバシハザマ、なぎさが印象に残った。特になぎさのツッコミは客席右手奥を睨む癖があり、その時の目つきが尋常じゃなく悪すぎ。霊でも見えるのか。
なにはさておき、今回の大阪滞在でもっとも驚いたのはMCのレギュラーがちゃんと仕事をしていたこと、それと千鳥が地上波の深夜番組に冠番組を持っていたことである。

8月11日

関係者席の前列に座ったため、リンダ、はんぺん、しんじ、おかっぺというオスカー並みのVIPが揃い踏みする光景を目撃する。
さて肝心のライブはというと増谷がひたすら脱いでいた印象で、幕間のビデオ「波打ち際を水着で全力疾走するキートン」が、ただそれだけの映像なのに素晴らしい出来。あとはそれ以上の記憶もそれ以下の記憶もない。階段を降りて行く退場の際、Tバッグ姿でグッズ販売する増谷の尻の横を通過したことは特によく覚えている。

8月2日

名古屋のCBCで鶴瓶とゲスト一人がからんで、アドリブの小芝居を展開する「スジナシ」。そのDVDを流しながら鶴瓶が一人喋りする発売イベントに潜り込む。
鶴瓶の話芸についてはいつか考察するとして、一番笑ったのは蛭子能収がゲストに招かれたコント。鶴瓶の予想を裏切るフリに対して、生まれたての草食動物のように怯えた表情を浮かべる蛭子さん。しかしさらに追い詰められると、なぜか笑いを漏らし始めるのであった。行動原理が抑制の効いた人間のものではなく、完全に動物のそれ。無脊椎動物という意味での「スジナシ」なのか。
他者とのからみに関しては異様に自由領域が広い鶴瓶は、DVD上映が終わるとなんと即興コントの相手を客席に募っていた。そして信じられないことに、立候補する蛮勇むき出しの素人がいるのである。それよりも私はプロ同士の技術のぶつかりあいを見たいと思う。希望のゲストは大橋巨泉。股間も公約もパイプカットされた真のスジナシ男だから。社会風刺。エスプリエスプリ。

7月31日

最初と最後に漫才を据えて中盤をコントで固める、普段の単独ライブと同じ構成。圧倒的な手数が持ち味の漫才はやや低調だったものの、コントが全部違うパターンだったことに感心する。
中でも面白かったのは本人の彼女という設定で女装した二人が、若かりし写真を公開してはケチをつけまくるコント。単独ライブでこの手のネタはどうしたってうける磐石の企画ではある。しかし衝撃的なタカの肥満児姿には「ゴルフコンペ後に食事してるオッサンだよ!」、身を持て余した大きい椅子でくつろぐ幼少時のトシには「これロシアの皇帝? この後、核ミサイルのボタン押すんでしょ?」とツッコミが冴えまくっていた。
さてその約1週間後、フジテレビ深夜に放送された『登竜門F』に二人は出演。キャッチコピーは、“北の国から新鮮な産地直送の笑いをお届け”だった。ホクレンの農作物をスーパーのチラシに載せるような杜撰仕事、とみるのは容易いし、正しい。しかし業界関係者が未だ二人に「北海道出身」以上の色を見出していない状況を読む必要もあるだろう。せめてタカが頻繁に連呼するフレーズ「タコの赤ちゃん」が流行れば。タコの赤ちゃん。タコの赤ちゃん。どうやって流行るんだ、これ。

7月31日

関東ではなかなかお目にかかれないチョップリンの初単独は、とにかくコントに次ぐコントの構成で、その数はなんと十数本。特に「道を訊ねる上半身マネキンの男」「SONYの人事部長がなぜかルンペン」のコントは秀作。
独特な設定のわりには展開や芝居が破綻せず、時に設定や自ら課した縛りに溺れていくシュールコントの負の側面がない。正統派コントが徒競走で早さを競っているところ、競歩で対抗しようとするのがシュールの手口であるが、チョップリンは徒競走に堂々と参加しつつ、スタート地点を20メートルほどゴールに寄せてズルしている感じだ。
それにしても冒頭の「三日月に腰掛けるオッサン」のコントも熟練なんだかセリフが出ないんだか、独特の長い間だったし、芸風は松竹っぽくないし、だからといってよいこの影響も感じさせないし、実に不思議なコンビである。安田大サーカスが松竹のエイリアン(容姿のみ)なら、チョップリンは松竹のミュータントか。
思えば先日、大竹まこと氏を取材した際、チョップリンについて軽く話をふると「……あいつらは化けるかもしれない」と若手に対する最大の賛辞を送っていたのである。そしてそのあと間髪を入れず呟いた言葉が、「まあ、その可能性は10%だけどな」。この発言は照れに違いないとスタッフを見ると、一様に頷いていた光景が今でも忘れられません。

7月29日

長井秀和単独は笑いどころの少ない一人コントを中心に延々と2時間弱。
ネジの発注先も決まらないまま、ロケットだけ発射させてしまったような見切り発射感が満載で、企画・演出・ブレーン・そして本人、誰もゴールの具体像が浮かんでいなかったのではないだろうか。漫談以外、体技もこなせるはずの長井秀和にとって得する部分があまりに少ないライブだった。
夏休みという理由以外に思いつかないのだが、後席にいたのはなぜか子供で、公演中に熱中していたのは舞台ではなく手元のお菓子。この日の長井秀和はメンズポッキーに敗北した。

7月19日

千原Jr、木村祐一、倉本美津留によるライブは、ぐだぐだ話しながらコントが成立しそうな鉱脈を見つけ次第、アドリブのギャグで筋を作るお笑い版ジャムセッション。「俺たちはオモロいけど、お客さんには難しいかな〜」という頭でっかちなネタに陥るのではと危惧していたが、蓋を開けてみるとさすがに充実した内容だった。
中でも“一人が小説のタイトルを提示し、二人が挙げた最後の一行のうち正しい方を選ぶ”即興のやりあいは、大喜利の要素にくわえてトークの広がりも出て、なんとも面白い。こういうトークが生かされるリングに立つと、Jrは大振りのパンチや刃のようなカウンターを仕掛けてくるのだった。さらに「あしたのジョー」好きなJrには、ハリマオのようなロープの反動を利用したミサイルパンチも繰り出して欲しいと思う。あのキャラはいなかったことになっているかもしれないが。

7月17日

5ヶ月ぶりのジャリズム単独。
前回のジャリズム祭りが“ジャリズムが復活した”イベントであったなら、今回は“面白いジャリズムが復活した”イベントだった。選挙立候補者、幼児番組のお兄さん、トイレット男など、渡辺のキャラを設定したコント風の漫才を中心に、新ネタを続々と放出。これでもかと注ぎ込まれるアイディア満載のギャグは、復帰直後のように台本先行の臭いが全くせず、山下のツッコミも呼吸がバッチリ。ノスタルジー目当てでなくひたすらバカコントを見に来た観客も満足させうる現在進行形の笑いで、濃密にくだらない時間だった。
幕間の映像も充実していて、特に秀逸だったのは取り返しのつかない方向に鍛え上げたマッスル・ガールの写真にアフレコを添えた昔話ネタ。そしてファミコン童貞の山下にコントローラーをあてがい、操作の稚拙ぶりを観察する「はじめてのスーパーマリオ」映像にも客席は大喝采を送っていたが、私は何が面白いのか全く分からなかった。というのは私もファミコンという第三の性の身体にふれたことがないチェリーボーイ。小学生の時に仕入れた「ボンバリング・ベイは海がピンクになる」という知識(意味は未だに分からない)で成長が止まっているのだ。キノコでマリオが大きくなるって常識なの? 周囲があまりにも笑っていたため、滅多にしない作り笑いで急場をしのぐ。

7月14日

ドリアンズを生で初めて見る。九州吉本所属だったこのコンビは、何年か前に見た「オールザッツ漫才」で、ツッコミの堤が1分の間に3回噛むという霊長類最悪の失態を犯していたので、なんでまた東京に来るのかという印象。しかし実際目の当たりにすると、声量、身のこなし、舞台の使い方、どれも堂々としたもので、本日登場した15組の中で唯一プロの技術だった。さすがに7年目というキャリアは侮れない。
かたやほぼ同じ芸歴を誇るコンマニセンチはただの悪ふざけで、3分半の舞台で1分以上もテンション頼りの自己紹介をしたかと思えば、展開がよく分からないコントは一人が椅子から転げ落ち一人がダイビングしてオチがつくリアクション芸。あまりのくだらなさに私はアンケートでドリアンズにすら入れなかった票をコンマニセンチに投じた。最後の大喜利コーナーでも、ただただ前に出ようとする姿勢のせいで、周囲の客席から「しつこい」「うるさい」「もういいから」の声が漏れていたコンマニセンチ竹永。あと3年続ければ本物である。もちろん本物のバカ。

7月13日

毎回、シークレットゲスト数組を招くこのライブ。ジパング上陸作戦、東京ダイナマイト、サンドイッチマンと続いて、トリを飾ったのはホームチーム。漫才終了後のダイノジと与座の沖縄トークが滅法面白い。芸人に明るさを求めない私ですら心の薄殻を破きそうになる、与座の天真爛漫なカラフルさ。もっとテレビでスポットが当たっていいような気もするが、芸能界における沖縄お笑いの椅子はガレッジセールと喜納昌吉(比例代表区の当選コメントなのにカタコト)でいっぱいなのだろうか。
そしてその真逆の存在だったのが、高解析を誇る私の芸人魚群探知機に全く引っかからなかった無名のコンビ・サンドイッチマンである。派手なスーツを着こなした百人町に千人はいそうな事務所系チンピラと、白く染めた髪に柄シャツのおしぼりを配りそうな兵隊系チンピラの二人が舞台に登場すると、まずは哀川翔・清水健太郎・志賀勝とハリウッドスターの物真似を3連発。学校に行けば「借王(シャッキング)」や「修羅がゆく」のVシネマトークばかりしている女子高生たちのハートをいきなり鷲づかみだ。この見慣れなさと雰囲気は大部屋俳優による余興漫才だろうか? しかしこなれた漫才の間やコントの演技は素人の芸ではなく、ますます謎は深まるばかり。
はたしてダイノジとの絡みで判明したのは、このコンビが純・芸人であること。そしてなぜか893関係の営業に狩りだされる機会が多く、この芸風に落ち着いたらしい。どんな芸人だそれは。とはいえ“某広域暴力団の忘年会に総合司会として呼ばれた話”“某ねずみ講の営業でビンゴゲームを仕切った話”は絶品。地上波でこの話を聞く機会は永遠にないだろうが、『実話GON ナックルズ』あたりにヨイショ中山の経験談として掲載されていても私は驚かない。

7月3日

プラン9の単独は3部構成。最初の浅越・鈴木プロデュースの架空の演芸コンクールは、登場する芸人4組に目新しい切り口が何もなく、続くヤナギブソン・灘儀プロデュースのパネルトークは、似た有名人の写真を並べたり、おもしろカバーソングを流すという、サブカル雑誌読者コーナー1斤におけるパンの耳のさらに残滓のような内容。トリを務めた久馬プロデュースのテレビ局を舞台にしたロングコントも、中学校演劇クラブ卒業公演なみの稚拙な脚本にげんなりする。
では目も当てられないほどひどい舞台だったかというと、5人のポテンシャルが高いから何とかそれなりに成立してしまうのであった。リアルな演技や集団プレーから派生する演劇的な笑いという神経系が未発達なのに対して、芸人運動神経だけはギニアの高地民族のような高さ。しかし結局のところ、5人の1+1+1+1+1の総和が5に満たないのである。巨人打線が大砲ばかりでつながらないのであれば、プラン9は1番から9番までがヤクルトの宮本。「巧打者だけれども。でもしかし」としか言いようがない。私がお金を払って目撃したいのは、1+1が3にも10にも跳ね上がる瞬間なのに。
一方、ゲスト出演したハリガネロック大上のベースボール漫談とハリウッド・ザコシショウの心神喪失者にしか見えない奇行は、おそろしいほど暖かい客を凍りつかせるほどの滑りよう。しかし二人とも一歩も退かずにギャグを連呼していく姿に、1を1としてさらけだそうとする佇まいの潔さとでも言おうか、見るべき価値を感じるのであった。正確に言うと二人のネタは1ではなく、0・01以下という視力測定不可の数値のような気もするのだが。

7月2日

レイトショーの時間に渋谷シネクイントへ。テレビ東京の良心的番組「やりにげコージー」による芸人ビデオ上映会の観覧が当たったのである。
バッファロー吾郎・木村とケンドーコバヤシによる「長州力と越中詩郎がM−1に出るコント」の12分完全バージョンを前座試合に据えて、メインイベントを張ったのは放映時間3分に満たない、ほっしゃん。のビデオ。地上波では放送を自粛した白いビッグウェンズデー見たさに、深夜番組の海辺をうろつく陸サーファーたちが約200人も結集した。
ほっしゃん。本人とMCの千原兄弟が登場し、「R38指定にしたい」「以前この劇場で上映していた『バッファロー‘66』に少しも劣っていない」とJrの熱いリコメンドを受けて本編に。まずうどん職人の体(てい)をしたほっしゃん。は、鼻から吸い込んだうどんを口から出して両端を乾布摩擦のように引っ張り合う芸を披露。ブロードウェイでもロングラン間違いなしのスケール大きなマジックだ。しかし体調を崩していて、収録前には好物のバニラアイスをたらふく食べていたほっしゃん。鼻と口を結ぶ通信ケーブルのこすれ具合が情報容量いっぱいに達してくると瞳がだんだん潤んできて、画面は問題の場面に突入した。
その瞬間、口から放出された吐瀉物は「白無垢」「処女雪」「名誉白人」と形容しても足りないほどに美しい白さを湛え、そのシルクを思わせる滑らかな幕は、魔法の絨毯のように空中で永遠の皺を刻んだのだった――ああ面倒くせえ。要は面白いゲロなんだよ! ゲーッつって会場ドッカンドッカン。ゲボゲボゲボゲボワッハッハ。それ以上の報告ができません。
それにしてもあんな面白いゲロが吐けるとは、さすがはほっしゃん。奇跡の芸人の名に恥じない仕事である。全く深読みする必要がない面白さの中、唯一謎だったのは一般客に混じっていた荒川良々ぐらいだ。


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