語らず、笑え

笑いを見た記録・2005年上半期


6月26日/百式(ルミネtheよしもと)
6月25日/カリカコント4(ルミネtheよしもと)
6月22日/池袋演芸場 6月下席 昼の部
6月18日/喬太郎、跳ねる 其の七(お江戸日本橋亭)
6月9日/絹9(しもきた空間リバティ)
5月29日/KIJ(ルミネtheよしもと)
5月25日/東京DE桂都丸の落語を聞く会(内幸町ホール)
5月22日/北野吉本(ルミネtheよしもと)
5月18日/立川談春独演会(ブディストホール)
5月16日/み〜んなよしもと(シアターサンモール)
5月9日/柳屋喬太郎独演会(横浜にぎわい座)
5月8日/シティボーイズミックスPRESENTS『メンタル三兄弟の恋』(アートスフィア)
5月6日/東京ダイノジ(studio DREAM MAKER)
5月1日/チョップリン単独ライブ「ウルトラシンプル」(スペース107)
4月29日/カリカコント3(ルミネtheよしもと)
4月23日/鶴瓶噺2005(青山円形劇場)
4月12日/5じ6じ(ルミネtheよしもと)
4月3日/東京ダイナマイト単独「DYNAMANIA」(シアターアプル)
3月30日/ガリットチュウ単独ライブ「熊谷岳大殺人事件」シアターサンモール)
3月27日/カリカトークショー(ラフォーレミュージアム)
3月26日/ダイナマイト関西(ルミネtheよしもと)
3月20日/第12回東西落語研鑽会(よみうりホール)
3月7日/NEXT PIN GENERATION(プーク人形劇場)
3月5日/タカアンドトシ単独「ゴリラのじゅうたん」(ルミネtheよしもと)
3月3日/椿鬼奴「鬼奴に乾杯!」&増谷キートン「あやまち−春〜ひとりよがり〜」(プーク人形劇場)
2月26日/POISON GIRL BAND単独「カド番」(ルミネtheよしもと)
2月20日/吉本新人計画(シアターモリエール)
2月20日/ヨーロッパ企画「平凡なウェーイ」(駅前劇場)
2月12日/R-1ぐらんぷり 準決勝東京大会(abc会館)
2月11日/シベリア少女鉄道「アパートの窓割ります」(TEATER TOPS)
2月5日/笑い飯のおもしろ近鉄ライブ〜東京公演〜(ルミネtheよしもと)
1月26日/吉本新人計画(笹塚ファクトリー)
1月23日/ゴジラvsキングオブコメディ(恵比寿エコー劇場)
1月7日/世界キワモノ演芸2004ファイナル!!(新宿ロフトプラスワン)
1月6日/baseVSルミネ(ルミネtheよしもと)

6月26日

2丁拳銃による100分漫才。小掘らしい小器用な発想の新ネタをたっぷり見せたあと、恒例になりつつある修士がボケの漫才や、NSC生徒が作ったようなずぶずぶコントを投入し、最後はM-1のファーストフードネタを底本にしたコンビニネタで締めるという、ほとんど完璧な舞台。芸歴12年でこんなしんどいことをやり続ける姿勢と実力もすごいが、マンネリで残すところは残し、更新するところは更新して、毎年毎年うっすらと面白くなっているのがまたすごい。
「百式2005」の「2005」はただの西暦表示ではなくて、「windows98」のようにバージョンアップした標(しるし)にすら見えてきた。ついでに歯を差し替えてヘドロから脱出しようと目論む小掘は、浮気回数を重ねるごとに「小掘120」と名前を更新していくのもいいかもしれない。

6月25日

最初のコント「ファイトのファ」が、人を笑わせた経験もない小劇団が見様見真似で作った不条理芝居さながらの出来でいきなり不安に襲われる。しかしそれ以降は「カリカコント3」の勢いを持続したままのカリカ。お家芸である2人6役コント「サッカー部試合中のベンチ」や、カリカ株が某芸能人に買い占められる設定のロングコント「カリカを取り戻せ」などで、その才気と家城の天パ具合を見せつけた。どこかにたどり着くようでどこにも到着しないオチや、幕間の選曲・郷ひろみメドレーも秀逸。
またこの日は家城が「たまに発する言葉がヒットマンのように面白いからこの世界に誘った」と語る林が、テンションが上がったついでに無意識のオカマ口調で叫んだり、アドリブの一言が家城を呼吸困難に追い込んだりと絶好調。ペーパーナイフで人をめった刺しにする如き、控えめな狂気が満開に。そしてエンディングでは本公演の作・演出を担当した三瓶が登場し、手をつないだ三人の万歳で閉幕した。これからのシュールポップの命運は、三瓶の丸い肩にかかっている。

6月22日

ふと寄席へ。好みだったのは柳亭市馬「粗忽の使者」、柳家三太楼「井戸の茶碗」など。あとご機嫌なまでにアホらしかった三遊亭白鳥の「びっくり江戸前回転寿司」。なんだこのタイトルは。演目から伝わる通りに白鳥は王道の異物らしく、後から出てくる芸人のマクラでことごとくネタにされていた。目当ての柳家喬太郎は「ちりとてちん」で、口中に雅な毒豆腐が混入されては悶絶する顔芸が壮絶。鼻から上がMrビーンによく似ていた。
さて衝撃を覚えたのは、奇術の花島世津子である。極上の和菓子風味の化粧に衣装がサーモンピンク上下というセル画の国から現れた彼女は、つなぎのトークで「今日は空席以外満席で……」と戦慄の寄席ジョークを開陳。「別嬪さん別嬪さん、一つ飛ばして別嬪さん」「ブサイクといえば……君の嫁さん元気?」などのベタは若手の漫才師によって一周回ったギャグとして消化されているが、実際のところ目撃するのが難しいバーチャルな存在だ。それが全く汚れていない純正の形で見れるなんて。”場所が分からない池袋演芸場””客が誰もいない昼の末廣亭”も、落語家の中でもはや形骸化されたギャグと思わせつつ、足を運んでみるとその現象がリアルに存在したりするものだ。寄席には伝説が眠っている。その目を覚ましていいかどうかはよく分からないけれど。

6月18日

キャパ200人程度の座敷は、常連客が落語界の内輪ギャグに咆哮笑いし、新参客がその空気に戸惑うという熱湯風呂・ミーツ・パピコのような空気。敏感にその温度差をいじりながら柳家喬太郎は『純情日記・池袋編』で突然「名人の落語がなんだ! 今の噺家を見ればいいじゃないか!」と叫び、『猫久』では入りの口上を間違えたので急遽噺を『子別れ』に変える展開に。その姿は心のままシャウトし、ギターの弦が切れたといっては楽器をバンジョーに変えるロックスターのようだ。本当に跳ねていた。舞台もリズムも。
もっとも驚いた演目は最後に切り出した『棄て犬』で、新作落語なのに壮絶なまでの後味の悪さ。くだらなすぎる犬の模写の影でこんな牙を隠しているなんて。見終わったあと、笑い以外をつきつける落語の懐の深さを考えながら、東京駅を目指して道に迷う。私は野良犬にさえなれない。

6月9日

本間しげる見たさにしもきた空間リバティへ。演劇〜演芸の中間を狙う芝居仕立ての演者が売りの興業なのに、最初の2組が「ドラえもん声優変更ネタ」という深みゼロのテーマでかぶっていきなりリバティが全開に。はたしてトリ前に登場した本間は地方政治家の泥臭い選挙演説ネタ。人物描写より時事ネタに明け暮れ、初見の客まで飲み込めなかった印象でファンとしてはちょっと残念。
それよりこの興業、妙に懐かしい空気が漂うのである。狭い会場、舞台にあがる演劇くずれ、社会人が多い客層、ダメじゃん小出によるテレビを目指していない皇室ネタ、明日図鑑というユニットにさりげなく紛れ込んでいるオアシズ大久保。それは90年代初頭のボキャブラ前夜、芸人が細々と活動していたお笑いライブの光景だ。
そしてTHE GEESEというコンビはプロット重視のコントにくわえて、スーツ姿に意味不明な横文字芸名と完全に90年代初頭からの使者。初頭だけど存在はど真ん中。笑い自体は決して今とずれていないし一見こぎれいな装いなのだが、よく観察すると背の高い方の横顔が旧石器人と見紛う骨格をしている。つまり現代的なコントを古い骨盤が過去に引き寄せて、結果、中間にある90年代の臭いを振り撒いているのだろう。彼が頭蓋骨を矯正すれば、より時代に合致した芸人になるに違いない。お洒落なコントの先鋭・Z-BEAM(ズ・ビーム)ぐらいに。

5月29日

木村祐一・板尾創路・千原ジュニアがお揃いの白ツナギで登場したライブは、薄い緊張感の中、企画をこなしていくごゆるりとした内容。闊達に仕切る木村、意外に前に出てボケる板尾に対して、ジュニアは先輩からいじられるどうにも煮え切らないポジションに。その姿は時代を風靡したロックスターがスタジオミュージシャンとしてサイドギターを刻んでる如し。寂しいことこの上ない。つくづくジュニアはリードギターを弾かせてナンボの男だと確認する。
また各自が”家にあるけれど使わずに持て余しているモノ”を持参するコーナーで、ジュニアが持ってきたのは『シャイニング』でドアを叩き壊すような大振りのハンマー。なんでもボクサーの畑山からトレーニング用に貰ったらしい。ジュニアよ昔の狂気があるならそのハンマーを振り回し、舞台上を全て破壊し尽くしてしまえ! と熱い眼差しを送ったが、もし実践したとしても白いツナギを着ているため解体業者にしか見えないのであった。次回はエレキギターの全壊を望む。KISSのようにダミーでいいから。

5月25日

柳家喬太郎見たさに、いささか逡巡しながら会場へ。特定の落語家を追ってほとんど素養がない上方落語会に足を運ぶなんて、私は”ブームの潮流を感じて落語を見るようになって1年いよいよ趣味を「落語」と称しだして2年後には歌舞伎を語りだすサブカルあがりの妙齢女性”か。ああ自分が恥ずかしい。そう考えているとこの日に喬太郎がかけた演目の題名『夜の慣用句』も、落語会に冠せられた『東京DE』も、全てが恥ずかしく思えてきた。
さてトリの桂都丸は、貧乏人が橋の上から屋形舟を覗いてジェラシーに身を焦がすだけの噺『遊山舟』を。同様にしみったれた江戸落語はいくつもあるけれども、見慣れない見台あり、ひざ隠しあり、鳴り物もふんだんに使って、この進捗のなさ。そのスケールの小ささに胸をくすぐられる。またマクラで都丸は訪れた小学校の落語感想文集を衿から取り出すなど、上方落語家らしいなりふり構わなさを披露。そしてこの師匠、一度ざこば一門を退会後、復帰した経験の持ち主らしい。あのざこばに背いて再び親子の盃を交わす。これはなりふり構わないレベルではなく、もはや堅気ですらないのかもしれない。恥ずかしさのあまり始終俯いていたので、その指先は確認していません。俯いていたのDE。

5月22日

東京ダイナマイト、トータルテンボス、POISON GIRL BANDという精鋭3組による小国の寄り合い。事務所の国境を越えて仲良く手を取り合ってる印象を全く与えず、東京ダイナマイトだけ地続きで不法入国してきた亡命民の装いだ。
そしてイベントのほとんどを占めた舞台上コンパ企画は、何ひとつ大きな笑いの波が起きない、はてしなくスカスカでカラカラのゴビ砂漠アワー。開始20秒で席を立ちたいと思ったら1時間強も続いて、私はもう少しで死後硬直するところだった。きっとあれは新手の拷問で、裏でゲシュタポが糸を引いていたのだろう。
それでも舞台にはコンパの相手役としてグラビアモデル予備軍が6人も並び、芸人の小競り合いを無視して眺めれば眼福は眼福。そんな主婦ならではのアイディア生活で凌ぐことも可能ではあったが、私の視線はトータルテンボス・藤田に釘付けに。500打席連続ノーヒットを叩きだしたこの日の藤田は、どうかぶせても絶対にスベる、発売中止のコンドームみたいな状況に陥っていた。当初あまりのウケなさに刃物のような険しさを目つきに漂わせ、そのうち全てを諦め心が涅槃の王国に到着したのだろうか、次第に優しい眼光にシフトしていく。それでも最後は客と対峙する勇気を失って、心が折れる寸前の状態で相方の大村だけに向かって漫才していた。あの密入国に失敗して死刑を待つ捕虜の眼差しは、篠田節子『弥勒』の世界である。結局、誰ひとり国境を越える旅人が現れなかったスモールイベント。

5月18日

初めて見る談春の落語は「文違い」と「芝浜」の二席で、至極真っ当で折り目正しい古典落語。飛び道具的銃弾がないため私の心は打ち抜かれないなーと思っていたら、全身全霊博打打ちの談春が抱える濁った魅力というか、薄暗い色彩の華が徐々に効いてきて、「芝浜」 を見終わると大層いい塩梅に。急遽近所の居酒屋に寄って、鯵のたたきを肴に冷やの酒を飲んだ。
それよりも特筆すべきは築地本願寺内にある会場のミステリアスぶりである。2階ホールの下は結婚式場の待ち合いロビーになってるらしく、物販物として数珠や紅白饅頭や読経テープや「聖教新聞」を凌ぐ啓蒙マガジン「築地本願寺新報」や、仏教徒御用達香水「オートトワレ『聖』」の姿が。その訳の分からなさは会場内にも及び、寒い天候の築地で「芝浜」と客が感情移入するのに絶好の条件にかかわらず、空調は激しくレッドの側にオン。会場は『ザ・ガマン』決勝ビニールハウスに匹敵する暑さに包まれ、談春は汗を拭いながら大晦日の風景を演じる始末だった。
その勢いに圧されたのか、配られたアンケートの質問「温泉場で開く談春の落語会ツアーに参加したいか?」に対する回答は「1・したい 2・絶対したい 3・してもよい 4・したくない」という謎めいた配置に。このリズムだと「3・絶対したくて体が火照ってるの 4・というか、もう温泉にいる」の順番でしょうに。寺で見る落語はどこか磁場が狂っている。

5月16日

ブレイクが期待される若手芸人15組によるショーケースライブ。下は芸歴13年のたむらけんじから、上は幽玄界代表の公家芸人・竹内大納言ターボαまでと実に多彩な顔ぶれだ。
内容は意外に粒ぞろい。お目当てのアジアンは期待通りの堂に入った漫才で、パンクブーブーによる『フォーン・ブース』を下敷きにしたようなストーカーファンのコントも、笑いのポイントを見誤らない手堅い出来だった。また目が覚めるようなネタではないものの、麒麟・田村の全身からはアホの風がそよぎ、ピース・綾部は変態独特の酢酸臭を放ちまくり。これからよく分からない面白さを生み出しそうな気配が地味に伝わってきた。
個人的に心が折れるほどショックだったのは、ゲームコーナーのキーワードで「千代の富士」の単語が現れた時、横にいた少女が呟いた「誰それ。全然知らないんですけど」の一言。おまえら昭和の大横綱・千代の富士貢だぞ! 娘の死を乗り越えて優勝したこともテーマソングが松山千春作曲の『燃える涙』であることも親方になったら弟子が集団脱走したことも知らないのか! ちなみに「料理は愛情」の結城貢は「すすむ」であって「みつぐ」じゃないからな!
そんな怒りにうち震えて私が太刀を振り回してると、少女の熱い眼差しはもう一つのウルフ・オオカミ少年へ。こんな髷も結えないふんどしかつぎを世間はいつまで関取扱いするのか。

5月9日

演目は古典「お菊の皿」と新作「母恋くらげ」。初めて見る喬太郎の古典は、鬼気迫りながらも緻密な演技と、壮大でいて莫迦々々しい物語という新作の骨子そのまま。本人は「古典も新作もどちらも中途半端で」と自嘲していたが、二つの惑星の引力が影響を与えあって、かってない形の星が生まれそうな気配すら感じる。
そしてこの日一番笑ったのは、横浜出身の喬太郎による神奈川県の鉄道に関するマクラ。東横線の至らなさ、高島町駅の存在意義、横浜駅の悲哀を語りつくし、客席にいた神奈川県民のボルテージは、京急快速特急の運転なみにヒートアップ。終演後、妙な郷愁に囚われた私は横浜駅界隈を無意味にうろついて、挙句、相鉄線に乗って実家に帰ってしまったぐらいだ。喬太郎の芸は人を動かす力がある――神奈川限定で。お笑いアテスト評点65点。

5月8日

昨年・一昨年は初日に足を運んで、小さな違和感が拭えなかったシティボーイズのライブ。しかし初日から楽日にかけて内容がずんずん変化すると聞き、今年は意趣を新たに楽日の公演へ。はたしてこれが久しぶりに衝撃を覚える出来だった。
特に『リフトに取り残された詩人たち』『暴漢に襲われて旅館に逃げた警官』『あらゆる状況におけるリーチ』のコントが絶品。くだらなすぎる発想のコントに、プロフェッショナルきわまりない照明や音響がからみ、舞台装置にこれでもかと金をかける無意味さ。シティボーイズの舞台が笑えるのは、もはや宮沢章夫が支えてきた80年代のように”最先端のコント”を見せてくれるからではないのだろう。今や唯一無二の”日本一濃密に無意味な空間”を曝け出すから面白いのだ。これ以上コントの内実を考えるのは、円の輪郭を物差しで測るような行為だから、今年の感想はここまで。
ちなみに劇場で手渡されたチラシには、11月同劇場で開催される倉本聰作・演出、富良野塾の公演予告が。キャッチコピーは”宇宙で一番きれいな水は、あなたの心から湧き出ている”で、サブタイトルは”クリスマスに舞い降りた二人の天使のメッセージ”。そして満を持したタイトルが”地球、光りなさい!”である。自分の瞳を疑う必要なんてないんだよ、だって”地球、光りなさい!”だから。いよいよ惑星に対して命令形で語り始めた倉本先生。これはあらゆる面においてシティボーイズと対極の舞台になるに違いない。しかしながらおそらく笑いの量は同じ。

5月6日

ダイノジ&東京ダイナマイトの合同ライブは、ほとんど準備してないことが一目瞭然なのにフリートークでお茶を濁さず、ユニットコントやコラ ボ企画が満載と意欲的な方向性。競技のルールすら把握してないバカ学生がとりあえず合宿しちゃえ感に満ちていた。
そして内容はといえば、ぐだぐだ。それも全方位的にぐだぐだ。水道橋博士に”自分の世界観を作品化することに一切迷いがない”と評されたハチミツ二郎が、おおちのツナギを着て他人の土俵に足を踏み入れた途端に陥るぐだぐだ。追い詰められたおおちが類まれなる爆発力を見せるものの、後半に失速していくぐだぐだ。大谷&ハチミツがアドリブで漫才を始め、手に汗握る神経戦が結局どこにも辿りつかないぐだぐだ。しかしキャリアがそうさせるのか、ぐだぐだの着地点はどれも笑いに。パラシュートは開かなかったけど、膝すりむいて笑顔で生還したような舞台だ。
また個人的にテンションが上がったのは、ダイノジと東京ダイナマイトに挟まれてサンドウィッチマンが登場したこと。このお笑いブームの最中、その893にしか見えない外見とオーラが確実にテレビを遠ざけている奇跡の二人である。以前目にしたVシネマのモノマネをふんだんに織り込んだ漫才が法にでも引っ掛かったか、この日披露したのはピザ屋のコント。そしてこのコントがやたらまともで手堅すぎ。パンの間に挟まれてるのは芥子だけかと思ったら、しっかりと具が詰まっているのだった。もちろんビジュアルはサンドイッチというより人の指があしらわれたホットドッグだ。それにしてもハチミツが時折垣間見せるブラックな人脈が、サンドウィッチマンの世界観を軽く凌駕していることが気になって仕方ありません。

5月1日

とりわけ度肝を抜かれるわけでもないけれども、静かな佳作が根を張るように揃ったライブ。良くも悪くも醒めた印象が強いわりに、悩むジェイソン、二代目志村けんオーディション、横柄な牛丼屋コントなど、西野が激しさを露にするネタに秀作率が高いのだった。
そして驚いたのは、常識の地平から片足だけ踏み外して無表情に淡々と狂う小林・それにキレる西野という図式が完成した時、ダウンタウンのコントが見事にかぶること。それもまんま血を受け継いだというより、成分献血したような影の落とし方。誰も注目していないが、寂れた地方のくすんだ港では船乗りそっくりの子供が成長しているのだ。そんなモンスターが生まれる畏怖を孕みつつ、二人の栄養摂取は献血のお礼についてきたコーヒー牛乳だけである気も。育つのか。

4月29日

舞台を見ている最中から「ああ今えらいもの見せられてるなー俺は」という思いがよぎっていった怒涛のライブ。
動きとツッコミの少なさや、声の小ささの言い訳として機能しがちなシュールのレッテルをベリベリと剥がすかのように、2時間もの間、カリカは動きっぱなし&叫びっぱなし。しかし設定も本筋もオチも定番の展開を裏切っていく姿勢はシュールのそれで、特に最後の漫才『帰ってこい!』はカリカの全てをさらけ出した怪演に。それも大衆受けしそうな狂気キワキワの世界ではなく、直球で王道で常夏の狂気が剥き出し。タイヤを出したままのコンコルドが着陸せず延々と滑走路すれすれを疾走してるような、圧倒的熱量と無意味さがそこにはあった。平伏。脱帽。失禁。おむつチェンジ。某雑誌の取材で「僕らのジャンルはシュールじゃなくてシュールポップですから」と家城が語っていたシュールポップ誕生の瞬間を肉眼で目撃してしまった感じだ。今日のカリカはひとつの色彩に名前を与えた。
ちなみにその際、原稿に使わなかった言葉を引用すると、「改めて声を大にして言いたいのは、僕らは爆発するシュールということ。伝わらないことを全力で叫ぶのがシュールポップなんですよ! これをやってるのはカリカと…………あと…ガリットチュウだけですね」
創世した新世界で生み出した仮想民がいきなりガリットチュウ。まるで巨人と楽天だけが参加を表明した新リーグ構想のようだ。あと平成ノブシコブシ・吉村も伝わらないことを堂々と大声で叫んでいるから、同ジャンルの鬼っ子としてマークした方がよいと思う。新リーグの仲間に加わるにはまだバットの持ち方すら危ういとはいえ。

4月23日

初めて笑福亭鶴瓶のトークライブへ。終盤に若干の決まりごとを入れながら、フリーで2時間・5日間を別内容で一人語りする驚異のライブである。
はたして鶴瓶の一人語りは、時代を切り開くような新しいセンスがあるわけでもなく、中にはそれほど笑えない話もちらほらと。しかしどうしたって面白いのだった。話が転がったかと思えば元に戻り、1時間が経過したあたりから、存在するのかしないのか定かでないライブの全体像がぼんやりと浮かびあがる。点が線につながる面白さもさることながら、鶴瓶が30年間培ってきた芸や経験が9m90cm積み上げられ、10mに届くか届かないかという笑いの攻防戦を見せられている感じだ。そしてその分厚い堆積を隠したまま鶴瓶は舞台に上がる。円形劇場なので垣間見れた対面の客はどれも食卓を囲むように弛緩した笑顔で、演者も客も幸福な空間に置いているのだなと思う。
そして劇場を出たところ、なんと若い男の出待ちが群がっているのである。「ぬかる民の残党がこんなところに!?」と驚いたが、全員が隣の青山劇場で催されていた「アニー」の子役目当てだった。さきほどの客と正反対にタイトなスマイルを浮かべて撮影に励む男たち。子役に何cmの堆積があるのか、私は知らない。

4月12日

取材でルミネに足を運んだついでに、久しぶりに5時台のライブを観覧する。ほとんど見ることがなかった80バトルは3月に終わっていて、再び舞台は5じ6じに逆戻り。火星旅行している間に滅んだ地球で再び文明が甦り、帰ったら結局風景は何も変わっていなかった印象だ。
この日目を引いたのはゴングショーに出ていたうがじんで、時代劇のコスチュームをしたまま、野球コントをこなすという訳の分からなさ。客が設定を理解しきれないのは当然としても、演者までもが全てを把握ないままコントに挑んでいる様子である。しかしながら新しい星に向かっていることは確かで、この先、何かどえらい生命体と邂逅するかもしれないし、そのまま宇宙の塵に消えるかもしれない。今後が楽しみ。
ただ1分の出番にかかわらず、尺八を吹くどくろ団の登場は相変わらず健在だった。それはまるで地球に帰ってきても形を変えなかった自由の女神のよう。この惑星では地面を掘ったら尺八を掲げるどくろ団像が現れるのか。

4月3日

3年前の冬。コンビを組んで間もない東京ダイナマイトはシアターアプルにいた。そのライブの感想をハチミツ二郎は後日「すげえ。吉本にいればあんなライブが出来るのか」とHPの日記にしたためている。その年、二人を圧倒したダイノジはM-1決勝進出を果たした。
そして東京ダイナマイトは3年がかりでシアターアプルの舞台を踏むことになる。客席はあの日のようにフルハウス。それはM-1よりも東京ダイナマイトが”到達”を象徴した出来事に見えた。
はたして満を持したライブは幕間の映像が存外に適当な出来で、その分コントに力を注ぎこんだことが歴然。ジグゾーパズルで常に3ピース足りないような居心地の悪い笑いは、ますます完成の域に近づき、冒頭から続いた「職員室」「麺の湯きり」「レストラン」のたたみかけに至っては「このステージ、どれだけ面白くなるのか」と息を呑む仕上がりだった。
しかし段取りミスやマイクの不調も手伝い、後半になると徐々に失速。グランドフィナーレで二人がCCBを熱唱する時には、ダイナマイト爆発点とそのボタンを押す技師以上に舞台と客席の距離が開いていた。パズルのピースが欠けた箇所に『たべっこどうぶつ』の動物ビスケットを入れ込んだような未完成ぶりが、東京ダイナマイトらしいといえばらしい。
またこの日の告知によれば、5月にはダイノジと合同ライブを開催し、今夏にはこれも3年ぶりに野音に進出するという。まさに時代は糾える縄の如し。さらに遡ってハチミツは吉本で作家を、松田は名古屋でピン芸人へと戻るかもしれない。それでも二人で肉マンネタをやっていそうだけど。

3月30日

ほぼ満員に近い盛況ぶりだったサンモール。ゲストに平畠を招いたオープニングの茶番、後輩芸人総出演の大家族コント、幕間に流れた「キスイヤ」のパロディ映像など、どれも中身のないバカコントがめくるめく展開する。キャラクターに比重を置いたらしからぬカリスマ美容師コントが抜群の出来で、福島は言ってることの2割しか聞き取れない時点で美容師免許を没収したくなるような怪演だった。最近見た若手のライブの中では充実の内容だったせいか、終演後の会場は観客の暖かい拍手に包まれる。
しかしどのコントも「これからどううねる?」と展開が楽しみになったところで早々と終息していくのだった。もっとアクセルを踏み込めば新しい世界が開ける気がする中、高速に乗った次のICで下りるような物足りなさも。さっきの美容師ライセンスと一緒に没収した原付免許を返すから、地の果てまで気長に運転してもらいたいものである。
また意外な発見としてはネタふりで見られる二人の正統な演技がやたら上手いこと。どこでそんなドライビングテクを身につけたのか。ずっとお笑い界を無免許で暴走していると思っていたのに。

3月27日

「俺、そんなにカリカが好きだっけ?」という思いを抱えたまま、会場へ。
チケット発売当初は「単独公演を前にお互いのコント観を語り合うライブ」という名目があった気がするが、正確には「単独公演を前に家城がデビュー1年で傑作コントを作りまくった自分の奇才ぶりを自画自賛するライブ」。もっと正確にいうと「単独公演を前に家城がデビュー1年で傑作コントを作りまくった自分の奇才ぶりを自画自賛して、3年目に林が失踪したことをなじるライブ」であり、厳密に記すなら「単独公演を前に家城がデビュー1年で傑作コントを作りまくった自分の奇才ぶりを自画自賛して、3年目に林が失踪したことをなじり、最後は林支持のファンより家城支持のファンが多いことを確認して喜ぶライブ」というか要は「昼間の劇場を利用した、劇団の打ち上げ代稼ぎライブ」である。
客には資料として97〜01年のコントタイトル一覧が配布。常日頃から”カリカ家城と坂本慎太郎は顔だけでなく声も世界観も酷似”説を唱えている私からすれば、タイトルまでもがゆらゆら帝国の曲として使えそうに見えてくる。『原住民』『悪寒』『おまえってかわいいなぁ』『飛んじゃうよ!』とか。あと『春対マングース』『林ライス始めました』『中井貴一』あたりも。中井貴一?
これでますますライブが楽しみになってきた。もちろん4月のカリカ単独ではなくて来週のゆらゆら帝国フリーライブの方が。

3月26日

ファンダンゴ先行予約でチケットを取れずに騒いでいたダイナマイト関西。気がつけば私は会場の片隅に身を潜めて激戦を堪能していた。どうやって入場したか、ここでは明かすまい。しかし汚い手を尽くしたため、数名の関係者が海に浮いたし、故郷の村はダムの底へ。南米の某共産政権が転覆しただけでなく、月は割れ、河村亜紀も芸能界を追いやられた次第だ。
さて肝心な内容はといえば、とにもかくにも竹若である。次長課長・井上やほっしゃん。、POISON GIRL BAND・吉田の初参戦組が知能テスト序盤のようなハイスピードでペンを走らせ、いつになく手数が多い接近戦が繰り広げられる中、竹若だけ距離を置いたハードパンチで相手を次々にのしていくのだった。初戦のバッファロー吾郎対決をサドンデスで制した後は、笑い飯・西田、ケンドーコバヤシ、ヤナギブソンといった兵(つわもの)をポイント完全奪取で撃破。特に西田戦における『尻からウンコが出た状態を”社会の窓”になぞらえて言うと?』の回答は、パンチを食らった西田が天井まで吹っ飛んでいくほどのギャラクティカ・マグナム。草葉の陰で車田正美先生も感涙にむせんでいることだろう。どの回答も知的で無意味、美しくもあり異形。この日の竹若はザ・大喜利であった。
唯一残念だったのは、ダイナマイト関西の煩悩とでも呼ぶべきケンドーコバヤシの実況が、決勝のワンマッチでしか聞けなかったこと。満を持したコバヤシの解説は、ダジャレ、駄弁、司会のレイザーラモン・住谷いじりに及び、全寮制から出所したばかりのようなふざけぶりに会場中が悶絶。さらにエンディングの激白によると「楽屋でね、次長課長の河本が勝手に答えをずっと書いてたんですけど、これが”革命前夜”かってくらい面白くないんですわ……」。何のシャドーボクシングだそれは。たむらけんじとのリターンマッチは格闘技場ではなく砂場かどこかでやってくれ。私は見に行くから。

3月20日

笑福亭鶴瓶の古典落語を見に行くと、披露したのは”私落語”と称する「青木先生」だった。これがもう絶品。
フリートークが随筆で、新作落語が中間小説なら、鶴瓶の高校時代を落語に昇華したこのネタは青春小説を超えて童貞文学の域に突入している。まるで村上龍『69』のような青臭さと莫迦々々しさ。このネタひとつで芸人生命がくっきり延びそうな名作だ。
また卒業式が近づく日々が舞台の「青木先生」と歩を並べるかのように、くしくもこの会は林家こぶ平のこぶ平卒業式でもあった。そして初めて見るこぶ平の落語「一文銭」はといえば、ごく普通。専修大学あたりに進学を決めた、優等生でもヤンキーでも落ちこぼれでもない生徒の卒業式ぐらいに普通。もしこのまま人情噺に特化するなら、それは進学ではなく笑いの世界から留学していくような気がしないでもない。

3月7日

まだルミネの水面に顔を出さない吉本の深海魚ピン芸人22名が勢揃いするライブへ。ネタを期待していると、冒頭にコーナー企画中心と聞いて一抹どころか二百抹ぐらいの不安がよぎる。えてして若手主導のゲームコーナーは空気を読めず、固定客の笑いだけを頼りに狭い生簀の中をかき泳いでおしまいになりがちだからだ。
しかし蓋を開けてみれば吉田サラダのMCも全体の構成もさくさくとしていて見やすく、どの芸人も要所では『スイミー』で魚群を作るかの如くチームプレイに徹して、大変楽しめる舞台に。特にリアクション企画でただひたすらデカい声を発して前に出る大西ライオンと、とにかく奇声を発するだけの芸風なので、現れただけで会場が赤潮に襲われたような不穏に包まれるしんじがグッドジョブだった。
そして気を引いたのは水上拓郎という若手。どのコーナーでも控えめに視線を落として前に出ず、リアクション対戦でぶつかったピクニックとのたるんだ黒Tシャツの2ショットは、どこからどう見てもゲーム仲間の装いだ。しかし一発モノマネ大会では、影武者かと思うほど見事な麻原show-cowのコスプレを披露。笑いの方向性以前に、今の時点でお笑いの地平に立っているかどうかすら謎である。

3月5日

とにもかくにも最初に披露した長い尺の漫才が秀逸すぎ。いきなり「欧米か!」という1フレーズのツッコミをしつこくしつこく連呼したあと、修学旅行ネタの途中ではずるずるの女子プロレスコントも展開する余裕ぶり。タクシーに乗った瞬間いきなり200キロで猛スタートし、運転手の気まぐれで連れて行かれた一膳メシ屋まで美味しかったような漫才だった。もし神様がいたら「例えがなかったら無理して例えなくてもよい」と僕に声をかけてください。
しかし本人たちいわく「2本目と3本目の漫才の順番を間違えた」という動揺が走ったのか、単独なのにかかわらず意外にシビアな客の反応に戸惑ったのか、イベント後半の単調なコントは勢いに欠け、どこか尻すぼみに終わったのだった。ああ、そうとも−−まるで悪戯なニンフが劇場の扉をノックしたのかと思ったよ! って欧米か。実際に使ってみると、なんだこのツッコミ。

3月3日

”合同単独ライブ”と銘打たれた、半ライス大盛りを頼むような中途半端にお得感溢れるイベント。
収容人数が100人弱なのにせり上がりのある舞台に感激したのか、椿は1時間に満たないステージの中で舞台下から3回も忽然と登場した。がっつり披露した浜崎あゆみコンサートのコピー、率いるバンド・金星ダイヤモンド、ブロードウェイ風のレビューは、どういうわけか若手芸人で固めたらしき応援ダンサー&バンドがしっかり動けているのがなんとも不思議。またその練習に情熱をつぎ込んだあまり、肝心のネタは1本という有様に「単独にかこつけてやりたい事やってるだけじゃねえか」と全客が内心で呟く、傾き者に恥じない公演だった。
そしてそれ以上にやりたい事をやり倒していたのが増谷キートンである。ネタ、幕間映像がどれも抑制の効いていない下ネタで、これだけ畳み込まれると普通は感覚が麻痺して気にならなくなるものだが、今回はまるで辛い鍋で汁がどんどん辛く煮詰まっていくような展開。終盤に披露したフォークソング『ビラビラ』は、尻にタバスコを突っ込むがごときチリホットな下品さに、ファンが集まったはずの場内は静まり返ったのであった。
なお会場では増谷&椿の歌ものCDが55枚限定発売していたので購入し、改めて『ビラビラ』を聞けば「女性器のビラビラを丁寧にのばすとかんぴょう一本分/女性器のビラビラを丁寧に開くとそこはふるさと」。歌詞云々より、意外に凝ったコード進行をしていることが私には許せません。

2月26日

タイトルに因んで相撲コントを多用したライブは、シアターDに移植して入場料500円で披露しても違和感がなさそうな内容。
思えば二人の姿を初めて見たのは、まだルミネのゴングショーに出ていた3年前のこと。星と星をつなぐほどに発想の距離が飛躍したネタに激しい衝撃を受け、その独自な変則技&無気力相撲見たさに幾多の巡業に足を運んだものだ。そして舞の海のようなトリッキー力士として後世に名を残すに違いないと確信したが、今日見たかぎり、飛躍の隔たりはリトルリーグのキャッチボール程度に。力士としてのブランドも奇跡の前頭優勝を一度果たした多賀竜、もしくは『シコふんじゃった』に出てくる竹中直人である。
とりあえず印象に残っているのは、二人が無意味にいい体をしていたことと、回しが白かったことのみ。どうか次回の単独があったら、大徹の金色回し以上のインパクトを与えてくれますように。

2月20日

MCのバッファロー吾郎見たさに会場へ向かうと、大喜利コーナーにおける木村の手綱さばきが際立つ。火薬庫レベルの爆発力を誇るダイナマイト関西に対して、若手の回答はねずみ花火関東とでも呼ぶべき季節を無視した納涼ぶり。しかし「点火する自信はないけれどとりあえずマッチ擦っちゃえ」の蛮勇だけで前に出る芸人には、自分と同じ硝煙の臭いを嗅ぎつけたのか、「マイナス2億点です」「田舎帰ってください」「あなたの姿が見えません」と傍若無人に突き放しまくり、結果、普段湿りがちなコーナーには爆笑の火柱が。バッファロー吾郎の頭脳は竹若で、その肉体が木村であることを認識する。
また印象に残った芸人は、ミュージカル芸の大西ライオンとルックスもギャグも今時の若手には珍しく引きの芸風なナイーブ・瀬山。劇場の収容規模は200人程度にかかわらず、大西の発声は日生劇場級で、瀬山のそれはイリーガルな商談レベルだ。武器商人なら港の風に声がかき消されるはず。

2月20日

路上を舞台にした一幕物。中盤は楽しめるとはいえ、冒頭のネタふり映像と終盤の展開は冗長でずるずるの気が。離陸時間と着陸時間が異様に長いフライトで、東京‐横浜間をジェット機で移動するような芝居だった。乗った瞬間に即発射して2時間で世界一周、元いた場所に戻って何も残らないのがすぐれたコメディだと思うのである。
なんでも同劇団の別公演は本広克行によって今夏映画化されるとか。確かジョビジョバの一幕芝居も本広監督によって劇場公開されたのではなかったか。セスナの速度で空を舞い、御巣鷹山上空で消息を絶ったジョビジョバ。六角慎司のアゴの形はコンコルドのフォルムだ。

2月12日

ピン芸人の一番高い山頂を見極めることより、その裾野の広さを測るつもりで向かった準決勝大会。感想をざくざくと。
・破綻の様相を呈したカオス芸好きにとっては、増谷キートン・大西ライオン・猫ひろしが素肌に切手サイズ以上の肌着をまとっている時点で大いに不服。
・前回のR-1リターンズで目の当たりにした瞬間、次回は寸分の狂いもなく同じネタを披露すると予想した長州小力&テルのデ・ニーロ漫談は、それぞれ2ミリと0.5ミリの差異が出る残念な結果に。
・小さく突出したキャラクター+センテンス勝負のハガキ職人的笑いがピン芸人におけるテレビへの最短距離になった昨今、正統的な一人コントで勝負したやまもとまさみ、ほっしゃん。の姿勢に心を奪われる。それにしてもやまもとまさみは暗転した舞台で撤収するスピードがごゆるりしすぎ。
・タップダンス漫談の伊藤麻子、前半をフリに徹したまちゃまちゃは長い芸歴ならではの余裕がひしひしと。清水宏が演じた日本のアニメ・ハリウッドバージョンも同じ呼吸を感じるが、芸歴どころかネタ自体をほぼ10年前からやってるので、そろそろ文化庁が伝統芸能として認可するかもしれない。
・プラン9が出れば何でも笑うゲラ女が会場の一部に出現。いよいよラーメンズと大人計画とプラン9は、20代サブカル拠り所女の砦になるのか。お〜い!久馬はシェイクダウン当時と何ひとつ変わらないネタ作りなのに、灘儀はピンになるとスミス夫人から現在に繋がるコントのキレが何一つ活かせていないというのもある意味すごい。
・旧『シブスタ』月曜日の素人オーディションを経た芸人が4人も出場して(MCだったライセンス・藤原を含めれば5人も!)部活も法事も裁判出頭も休んで『シブスタ』に熱中する客で占められた場内のテンションは最高潮に! と思ったら前席の女子中学生がイケメンコントの狩野英孝の出番で、「あの人キモいから」と言いたげに携帯電話のテトリスに熱中してるではないか。気持ちは分からないでもないので、目を逸らして今日に至る。
一体この中から誰が決勝に駒を進めるのだろうか? それを想像しただけで胸が張り裂けそうになるのだった。というのは嘘で、運動会の父母参加リレー決勝ぐらいに興味がありません。

2月11日

ワンアイディアでトリッキーな芝居をうつシベリア少女鉄道の新作は、あだち充世界観の中で展開される野球をモチーフにしたラブコメ物語。
例によってその内容は明かせないが、今回は発想が小粒。小粒も小粒。キシリトールガムを4等分したくらいに小粒。芝居同様に野球でなぞえるなら、今まではエビ反り大回転魔球、背面投げ、消える魔球(野球盤)、硬球と見せかけてスーパーボールを駆使してきたのに、いきなりカットボールを投じたような配給。かろうじてバットの芯を外した程度で、最後のオチが放り込まれた瞬間に客席を襲った静寂は、甲子園の黙祷以下のホーンとして日本野球史上に残ることだろう。
しかしこの劇団を何度も見ていると、当たるも八卦当たらぬも八卦な心構えが生まれてくるので、不思議と腹は立たないのである。喜びでも怒りでも心が震えた舞台の後は必ず飲みに繰り出す私は、終演30分後、家で冷静に金八を見ていたのだった。

2月5日

「ナマハゲ」「ガムの妖精」など、新ネタの漫才を中心に構成。期待以上でも期待以下でもない出来は、数多く押しかけた男性客から野太い笑いのビッグバンを起こすことはなかった。
振り返ればM-1前夜、ガブンチョライブで見た笑い飯は、コンビが協力して客を笑わせる姿勢すら未完成だった。世間の評価も何も掌中に収めていない二人はまずボケ倒すことで相方に勝り、一つ目の存在証明を手に入れようとしていたのである。そこにはギラつく獣の臭いが立ち込め、そのホルモン臭たるや、毛も裏側の突起物もついた精肉工場あがりのシロモノだった。
しかし今や、Wボケとしてスタイルは残っているものの、その中身は“対・相方”から“対・客”にシフト。芸は既に一定層が観賞に耐える域に着地し、女性も安心して食べられる上品なモツ鍋の味がする。あの生臭い血の風味を、せめて単独でもう一度味わいたいと考えるのは、酷な要求なのか。
こんな戯言を思索した理由は、昨日たまたまモツ鍋を食べたから。今後も芸人を鍋に例えて「フットボールアワー、特に後藤は鶏の水炊き論」「スキヤキは湯豆腐論」を展開するかもしれない。

1月26日

”その他大勢”枠からは抜け出した若手が固定客を相手に発想の狭いネタを披露する、芸人筋力がほとんど鍛えられないステージに。見るべきものは特になく、私は半ば義務づけられた順位づけアンケートすら提出しなかった。唯一、外に向かったネタ作りをしていたのは他事務所から参戦した磁石で、アウェイながら投票の結果は1位。このライブ、ネタ中に客席から「かわいー」の声ばかり飛び交うくせに、いつも1位のランキングだけ順当であるのが不思議なのだ。きっと○も書けない女の子の無効票が多いのだろう。
ネタ以外で気になったのは、平成ノブシコブシ・吉村。最近「ひたすらデカい声で前に出る」「躊躇なく他芸人の悪口を言う」姿をちょいちょい見てきたが、今日はいよいよ「ハキハキした口調で下ネタを語る」ステージに突入。これはテンション芸ではない。カオスだ。

1月23日

規制の間を無視して、ひたすらいびつな発想でコントを破壊していくキングオブコメディの単独。ライブ名にゴジラの名が冠していたから、どんな迫力で都市を殲滅するのか期待していたところ、怪獣の通過後に街の風景は何も変わっていなかった印象。
コントの息があってステップワークに優れた分、完全にパンチが軽くなったボクサーなのであった。本来ならヘビー級のパンチが打てる数少ないコント師であるのに。この興業の結果は○ゴジラvs×キングオブコメディ。次回の相手はおさるかミッキー・ロークあたりが身の丈にあっているのではないか。あと幕間の映像を見るかぎり、ボケの今野は体毛を剃れば2階級は軽くなりそうな気がする。

1月7日

昨年6月に同場所で開催されたイベントの決勝大会は、予選と本選で出演者の顔ぶれがほぼ同じという自由ぶり。トーナメント表を並べるとまるで間違い探しだ。
さて、けんじるvs汗かきジジイ、増谷キートンvs大西ライオンの垂涎カードで幕を開けた戦いは、のっけから”コスチューム=裸”芸人が4人も続いて、ドヤ街で身体検査を試みているような装いに。以後、舞台は時折チムポが明滅する魔空間へと突入し、カリカ家城の実母から、白仁田佳恵(吉本興業社員らしいのに誰もそのことにふれない)withスーパー平成ドデカバンド、エログロ差別ネタでお笑いブームを牽引するヴァンギーナなどキワモノが続々と登場。普段は変態オーラでその姿がかすんで見える追い風三等兵(南海キャンディーズ・山里)の輪郭までもがはっきりと確認できた。
しかしながらこのような演者がどこまで無茶をするかが見えない辺縁系イベントは、客席に漂う緊張感が笑いの奇跡を起こすであって、前回の開催で着地点が見えていたせいか、芸人の狂気は針をふりきることなく制限速度内に終始した印象。そんな味気なさの正体を必死に考えていると、横にいたB-BOY風若僧が初見らしき増谷キートンを指差し、「あいつチョーうける」「ムダにいい体してるんですけど」「バカじゃね?」と泣きながら爆笑。その姿を見て、このイベントに少しでも意味を求めようとした自分の姿勢を恥じた。笑いを理論で固めようとするのは、詮無き行為なのである。マンガ喫茶そっくりなロフトプラスワンのメニューを食文化の視点で語るくらいに。

1月6日

M-1グランプリ決勝進出コンビが6組も出演する豪華きわまりない布陣。最近ルミネでは登場するだけでざわめきが起り、笑いの量も通常の3割増しと笑い飯に吹いていた観客の期待感は全て南海キャンディーズの元へ。ネタも期待の半歩先をすり抜けていく完成度で、山里は大喜利で粘着質なセンスを見せつけ、ゲームコーナーのしずちゃんは逆立ちができない養殖マグロ並み身体能力の低さで笑いをかっさらうなど、つむじ風が吹きまくった。
それに対して”悪ふざけ”をエネルギー代謝して生きている笑い飯・哲夫は仕切りに専念する自重モード。とはいえ笑い飯のことだから風がそよがなければ、そのうち山に忍び込んで自ら放火するに違いない。兎にも角にも来月の単独に注目。
あとおかしいことになっていたのは千鳥の人気である。オープニングで大悟がはにかむだけで「かわいー」の声が漏れ、ネタに入るとギャグに先行して爆笑する虫頭脳ゲラ女が出現。また漫才で登場した大悟の「base」プリントTシャツ姿に、私の後席にいた男性は「お」と呟いた。だから何が「お」なんだ何が。おまえはおしゃれの国の王子様か。私が胸中で呟いた「お」とタイミングが完全に合致していたから驚いたじゃないか。


(2004年上半期) (2004年下半期)

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(2001年)

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