「Pain is inevitable. Suffering is optional.」
村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』の前書きで紹介されているフレーズ。インターナショナル・ヘラルド・トリビューンのマラソンランナー特集記事で、あるランナーがマラソン中に繰り返して唱えるマントラとして取り上げられていたと書かれているが、
http://www.iht.com/articles/2006/11/03/sports/ARENA.php
でその記事らしきものを読める。
村上春樹は「痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル (こちら次第)」と訳している。僕には英語を厳密に訳す自信はないけど、suffering には苦痛という意味のほかに、被害、損害という意味もあり、suffer という動詞には「(苦痛・被害を) こうむる」という意味がある。
「こうむる」という動詞 (の動名詞形) で捉えると、行為の主体性が感じられてくる。つまり「被害をこうむったと思うかどうかは自分次第」というニュアンス。
走るという行為から対象を広げてしまうんだけど、人間生きていれば嫌なことは一定の確率で発生する。たぶん完全に避けて生きることは無理だと思う。でも、そういう時に「被害をこうむったと思うかどうか」は自分で決められる。それは歳を重ねてだんだん、なんとなく感じられるようになってきたことだったが、この本でこうやって的確な言葉が提供されてから明確に認識できるようになった。この本を読んだのは半年くらい前だと思うけど、それから何度となくこの言葉を思い出している。